《転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~》閑話 新人ギルド職員ネス

「今日も一日頑張るかなぁ」

両手で軽く頬を叩き、朝早くからカウンターの前に座り、依頼に向かう冒険者たちの対応をしていく。一週間も経つと慣れたもので、依頼の注から達の確認まで問題なく仕事を終わらせていく。

「ネス、隨分仕事できるようになったわね」

採用の面接をしてくれた副ギルドマスターであるレティアから聲が掛かった。

「はいっ! 仕事も覚えてきました」

「その調子で頑張るのよ」

ご機嫌そうにレティアさんは奧の席へ戻って行く。そして私はまた仕事に戻る。私の名前はネス、今年で十六歳になる。ドリントルにある商會に勤める両親に習ったおかげで言葉や簡単な計算もでき、おかげで冒険者ギルドに勤めることになった。

ここのギルドマスターは強面で事務作業は苦手ということで、副ギルドマスターのレティアさんが一手にまとめている。

ドリントルは冒険者の街といわれるだけあって、街の半數以上は冒険者だ。し前までは問題があったみたいだけど、新しい領主様と代様がきたことで、この街はとてもよくなったと聞いた。

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冒険者ギルドも王都からきたレティアさんが副ギルドマスターを務めることによって、とても働きやすい職場に変わったと先輩から教えられた。

朝の忙しい時間が終わり、カウンターに並ぶ冒険者たちはいなくなりしゆっくりしていると、まだ冒険者にりたての新人の子供がってきた。

キョロキョロとホールを見渡してから、まっすぐに私のところに向かってきた年から聲が掛かった。

よし、新人くんのために一仕事だ。

「すみません。魔が集まっているところって、何処かありますかね?」

まだ新人にしか見えない冒険者が、いきなり魔の討伐をしたいと言ってくるが、こんな子供に魔の討伐などさせるわけにもいかないと私は止めることにした。

「子供がそんな危ないところに行ったら駄目でしょ? 安全な街の中の仕事にしたほうがいいわ。今なら領主様が子供でもできる仕事を斡旋してくれているわ。それをけなさい。ここの領主様は平民や冒険者の事を考えてくれていてね、それから――」

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私が知っている知識を教えるかのように年に伝えるが、その年は困ったような顔をする。

「できれば魔を倒したいのですが……」

これだけ丁寧に説明しているのにも関わらず、この年は魔を倒したいという。

冒険者にあこがれるりたての子供だから仕方ないのかなとため息をついた。

手元にある街の中の資料を數枚だして、年に説明をするが、まったく興味を持っていなかった。

「すみません。ギルドマスターはいますか? 『カインがきた』と伝えてもらえばわかると思いますので」

し困った顔をした年は私にそう告げる。私もギルドマスターと話したことはないのに、この年はギルドマスターと會わせろと。

「カイン君と言うのね。新人の子供からギルドマスターを呼べと言われても簡単に呼べるものでもないの。わかってくれるかな?」

私は年に丁寧に説明をしていく。これでわかってもらえると思うし。

でも、この年は私の言葉にため息をつき、さらに言葉を重ねた。

「では……誰か他の役職者の方を……」

その言葉に優しく接していた私としても、イラっときてしまった。たしかに新人とはいえ、副ギルドマスターから褒めてもらえるくらいに仕事を頑張っているのだ。それを人にもなっていない子供に他の人を呼んでくれと言われたのだ。

「もうっ! いくら私が新人だからって他の人に話をするなんて酷いじゃない」

思わず年に向かって聲を荒げてしまった。周りの付嬢たちも私の聲に視線が集中する。

「だからカイン君、子供は子供らしく街の中で――」

パチーーン!

「い、いったーーーい! な、何!?」

いきなり後頭部に衝撃がきた。その痛みに我に返って振り向くと、そこにいたのは副ギルドマスターのレティアさんだった。しかも仁王立ちして怒っているようだった。

いつもは一番奧で仕事をしているはずなのに、いつのまにか私の後ろにきていた。

それでもいきなり頭を叩かれたことに、イラついた私はレティアに文句を言う。

「副ギルドマスター! いきなり叩くなんて酷いじゃないですか!」

しかし、副ギルドマスターは私のことを気にせずに、目の前にいる年に頭を深々と下げた。

そして普段私たちと接しているときとはまったく違う態度でその年に接する。

「カイン様、お久しぶりです。すぐにギルドマスターを呼んでまいります。応接室を用意いたしますのでご案いたします」

すぐに他の職員にギルドマスターを呼んでくるように伝えた。

その対応に、何もわからない私は小聲で聞いた。

「……あのぉ、このカイン君って……」

その言葉で副ギルドマスターから再度頭を叩かれた。

さすがに何度も頭を叩かれて涙目になる私に、副ギルドマスターのレティアがため息をつきながら口を開いた。

「ネス、この方がこのドリントルの領主様であるカイン・フォン・シルフォード・ドリントル伯爵よ。先日、話しておいたでしょう。領主様が子爵から伯爵に陞爵されたことを……」

レティアの言葉に思わず、開いた口が塞がらない。え、このカイン君が領主様!? 冒険者の恰好をしたこの年がまさか!? 領主様ならこの間、ギルドに來たから覚えている。あの二十歳くらいの青年のはずだ。あまりの恰好良さに見惚れたくらいだから間違えるわけがない。

「領主様はこの間もギルドに來られましたよね? あの青年の……」

その言葉に再度副ギルドマスターから頭を叩かれる。

「それはカイン様の兄上であるアレク男爵よ、この街の代をしている……まったく……」

私の言葉に呆れながらも、レティアさんはカイン君に向き直り頭を下げた。

「カイン様、申し訳ございません。付嬢の教育が行き屆かなくて……できれば不敬罪だけはご容赦いただければと……。ほら、ネス! あなたも頭を下げなさい」

レティアさんに頭を抑えられて一緒に頭を下げた。

そんな私に領主様は笑顔で手を振る。

「レティアさん、お久しぶりです。気にしなくていいですよ。知らない人から見たら僕はただの子供ですしね。そこのネスさんも僕のことを心配してのことだから」

貴族とはもっと威張っていると思っていたら、領主様は本當に優しい笑みを浮かべたままそう言ってくれた。

「ありがとうございます。では、ご案いたしますので、こちらへどうぞ」

レティアさんはカイン君、いや、カイン様を案して奧へとっていった。

ただ、まだ頭の中の整理がつかない。まさかあんな子供が領主様だったとは知らず、し落ち込んだが、持ち前の明るさで同じ間違えを侵さないように仕事に取り組んだ。

仕事も終わる時間に迫ったころ、代であるアレク様がギルドに見えられた。副ギルドマスターよりギルドマスターを呼んでくるように頼まれ、付業務を終わらせ素材置き場へと足を運んだ。

そこには大きな魔が橫たわり、その周りにはギルド職員や冒険者たちが囲んで見っていた。

その橫でギルドマスターと冒険者が二人でこっそりと話をしている。

後ろからギルドマスターに聲を掛けると、一緒にいた冒険者も振り返った。

「ギルドマスター、お客様が來ております。って……あ、領主様!! 失禮いたしました!」

私の言葉に、魔を眺めていた冒険者たちも振り返る。もちろん『領主様』という言葉に反応したのかもしれない。

「「「「領主様!?」」」」」

冒険者たちは驚きの聲をあげるが、先ほどと同じ間違えを起こさないように言葉を続ける。

「領主様も代のアレク男爵がお見えになられていますが、お會いいたしますか」

その言葉に、ギルドマスターと領主様の二人は深くため息をつく。

晝間と同じ間違えはしてない私はを張って答えたのに、二人の反応は違った。

「ギルドマスター! アレク男爵がお待ちに――」

スパーーン!!

ギルドマスターが勢いよく私の頭を叩く。レティアさんよりも痛くはないけど、それでもすごい衝撃がきた。

そして、ギルドマスターは再度深くため息をついた。

「お前という奴は……すまぬな、カイン殿。こいつのせいでバレてしまったわい」

「仕方ありませんよ……」

冒険者や職員は驚きの顔をしながら領主様に視線が集中している。

領主様は周りを見渡して深くため息をつくと、ギルドマスターが前に出た。

「聞いての通りだ。このカイン様は領主様である。ただ、冒険者も兼任しているのだ。カイン様はあまり表には出ていないからな。これからも何があっても冒険者として接してほしい。――難しいかもしれんが……。もちろん今話したことは他言無用だ」

ギルドマスターが話すと、周りにいた冒険者やギルド職員は張した様子で領主様に視線を送る。

そして領主様が一歩前にでて口を開いた。

「聞いての通り、カイン・フォン・シルフォード・ドリントル伯爵です。領主をしていますが、冒険者もしており、また、王都の學生でもあります。一応、いているときも多いので、冒険者でいるときは気軽に接してくださいね」

領主様はそういうが、誰も頷こうとしない。それは當たり前だと思う。私もそんなこと言われても気軽に聲を掛けることなんてできない。

周りを囲んでいる一人の冒険者も理解ができないようで「伯爵様……カインくんが伯爵様……」と何度も繰り返し呟いている。

張した周囲を察してか、領主様は一禮してから、ギルドマスターと共に建へとっていった。

私もまだ固まっている冒険者たちを橫目に見ながら後を追った。

すでに、領主様とギルドマスターは応接室にっていたので、カウンターに戻りまた作業を続ける。

そして勤務終了時刻が迫った時に殺気をじ、ふと振り向くと、こめかみに青筋を立てたレティアさんが仁王立ちしていた。

「ネス……ちょっといいかしら……」

レティアさんは笑顔を作ろうとしているが、とてもそんな表に見えない。

「いえ、私はそろそろ帰ろうかと……。また、今度で……」

不安をじた私は逃げよう思って席を立つがレティアさんに両肩を摑まれた。

「まぁそんなこと言わずに……こっちに、ね……」

誰もいない個室へと私は引きずられていく。

それから二時間ひたすら……いや、思い出したくないくらいの説教をけて力つきて帰るのであった。

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