《転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~》第六話 忍び寄る手
案された応接室でリルターナとカインは向かい合ってソファーに座る。
部屋の端では、メイドが紅茶と茶菓子の準備をしていた。
ホールから応接室までくる廊下に飾られていた品々は、王國も帝國もそこまで差がある訳でもなく、品良く並べられて嫌味はなかった。
応接室にしても、座り心地のいいソファーにカインは満足していた。
「カイン様、そんなにキョロキョロして、どうかいたしましたか?」
「ううん、なんでもないです。國が違うと飾られているの趣味も違うのかなーって……」
カインの言葉にリルターナはクスっと笑った。
「お待たせいたしました。帝國の茶葉で淹れてみました」
メイドが二人の前にカップを置き、紅茶を注いでいく。
カインはカップを手に取り、口に近づけると、今までとし違ったいい匂いをじる。
そして一口含むと思わず頬が緩むようなフルーティーな味わいが広がってきた。
カインの笑みを確認すると、リルターナも満足したようにカップを口に運んだ。
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「この紅茶味しい……。初めて飲んだ味だよ」
「帝國から持ってきたやつなの。私も好きで小さい頃から飲んでいるのよ。いつもニギートが々と見つけてきてくれるの」
二人で紅茶を楽しんでいると、荷を運び終えたニギートが部屋へとってきた。
「品は全て運び終わりました、リルターナ殿下」
「ありがとう。カイン様もあなたが選んだ紅茶を気にってくれたみたい」
「ニギートさん、この紅茶味しいよ」
カインの言葉に満足そうに笑みを浮かべたニギートは、リルターナの後ろに控えた。
「シルフォード伯爵に喜んでいただけて、私も満足です。良ければお土産にしですがお持ち帰りになりますか? それとも、この茶葉は帝國産ですので、リルターナ殿下と婚約して一緒に帝國に行くという手も――」
「ニギート!!!」
余計な事を言ったニギートに、真っ赤な顔をしたリルターナが叱りつけた。
ニギートの『婚約』という言葉に耳まで赤くなっていたリルターナは、立ち上がり、ニギートの頭を叩いた。
「これは失禮……言葉が過ぎました。シルフォード伯爵、お許しを……」
ニギートは深々と頭を下げているのに、さらにリルターナはその頭を叩く。
「リル……それくらいで。冗談だってわかっていますから。帝國の王殿下がそんな簡単に他國の貴族と婚約を決めることなんてできませんし。冗談だとわかっておりますよ」
笑うカインの言葉に、しの期待を砕かれたリルターナは顔をし曇らせたが、その表を見せないように口を開いた。
「――そうですわね……。私は六とはいえ皇でした。そんなに簡単には……」
しかしし暗い表をしながら言うリルターナの言葉は、最後には小聲になっていた。
「あ、リル、それと、僕のことは『カイン』でいいよ? 僕も『リル』って呼んでいるし。正式な場所では殿下と呼ぶけど、こういう時は友達として……ね?」
カインの優しい言葉に、暗い表をしていたリルターナは、頬を紅く染めながらも頷いた。
リルターナの中では期にカインと會って以來、數年ぶりに本人を目の前にして『カイン』と呼ぶことに躊躇いを見せた。
まだかった頃とは違い、未だとはいえリルターナも一人のであった。
「では……カ、カ、カインと呼ばせてもらいますね!」
リルターナの恥じらいを眺めているニギートは、普段見せない態度に後ろで笑いをこらえながら控えていた。
二人はその後、半刻ほど雑談に花を咲かせた。
「それではそろそろ帰りますね。また學校で!」
「はい、カイン。また明日!」
「シルフォード伯爵、それではお送りいたしますね」
カインはニギートに馬車へ案され、屋敷に送られることになった。
者をしているニギートは、馬車に取り付けられている小窓からカインに話しかけた。
「カイン様、リルターナ殿下はああ見えて、結構寂しがり屋だったりします。今後も仲良くしてあげてください。それと――王國に転校したのは理由があるみたいなのです。詳しくは話してくれませんが……。私が仕える前、い頃に王國へと一度來た事があるのです。もしかしたらそれがきっかけなのかもしれません……」
「うん、それはリルから聞いたよ。うちの実家の領地、ラメスタの街に來た事あるって。この王國に來たのだって王國に悪いイメージがなかったかもしれないね」
カインもい頃に訪れたラメスタの街での出來事を思い出した。
――あの……ひたすら騎士たちとの訓練……、そして……。
「あれ……あの時店であった子……名前は確か……」
僅かながら記憶の片隅にあった店でネックレスを選びあったことをカインは思いだした。
「まさかね……」
笑みを浮かべたカインを乗せた馬車はシルフォート邸へと向かっていった。
◇◇◇
次の日の授業が終わり、リルターナは迎えにきた馬車へと乗り込む。
「リルターナ殿下、お疲れ様でした」
「うん……」
し元気のないリルターナは窓から外を眺めていた。
馬車が進んでいくと、前を三臺の馬車が一列に並びゆっくりと進んでいた。
一臺がし前を先行し、その後ろに並ぶ二臺の馬車は、リルターナを乗せる馬車の邪魔をするかのようにゆっくりと進む。
「前の馬車遅いですね……」
愚癡をいいながら者をしているニギートが、前をのんびりと進む馬車を眺めながら呟いた。
そしてその馬車のずっと先には一人のが歩いていた。
午前中で授業が終わり、商會の手伝いでお使いに出かけた――パルマだった。
パルマはカインから委託されているガラス製品がったため、予約をしていた貴族邸に連絡をれるために貴族街を訪れていた。
「えーっと……次は、コルジーノ侯爵様邸か……」
メモを見ながら歩くパルマに一臺の馬車が近づいていく。
そして――。
突如後ろから現れた二人の男がパルマの口を塞ぎ、そして腹に一撃をれる。
「むぐっ……」
鍛えているわけでないパルマの意識を奪うのには十分な威力だった。
男たちはパルマを擔ぎ上げると、先頭を走る馬車へ放り込む。そして一気にスピードを上げた。
その後ろを走るリルターナを乗せた馬車の者をしているニギータは、はっきりとは見えなかったが、一人を擔ぎ上げて馬車に放り込むところを視界におさめていた。
「?!……」
その馬車を追おうと思ったニギートだったが、馬車に乗せているのは帝國の皇だ。そんな危険を冒せるはずもなく、しかもこの事を今伝えてしまったら、正義の強いリルターナだけに「追いなさい」と確実に指示をけるとわかっていたニギートは、無言で馬車を進めていった。
その拐した馬車の特徴を脳裏に焼き付けながら、見えなくなるまで目で追っていた……。
屋敷についた後、ソファーに座り寛いでいるリルターナに、ニギートは先ほどあった事を話した。もちろん叱咤をけることはわかっていたが、すでに屋敷に著いたことでリルターナの安全は守られている。
「なんでその場で追いかけなかったの!!!」
やはりニギートの想像通り、リルターナは激昂した。
「申し訳ありません。リルターナ殿下を乗せたままでは、殿下の安全を一人では守れません。私の役目は殿下の安全を図ることですから」
頭を下げたニギートに、テーブルを叩いて立ち上がったリルターナは「行くわよ」と一言だけ告げ、部屋を出た。
「はい、すぐに。それで行先は……」
「もちろん衛兵の詰め所によっ! それ以外にあるのっ!?」
「しかし、ここは王國です。帝國の民である私たちが――」
「そんな事言っている場合じゃない!」
「わかりました。すぐに用意を」
ニギートは護衛として、帝國から同行した騎士二人を連れ、リルターナを乗せた馬車を衛兵の詰め所に向けて進み始めたのだった。
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