《転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~》第五話 テレンザの街の宿敵
「リルとカイン様がお會いしたことがあると……。その事について――じっくりと聞かせていただけますか?」
真剣な表をしたテレスティアの言葉にカインは頷いた。
テーブルを四人で囲い、カインはぽつりぽつりと記憶を辿りながら話し始める。
「あれはまだ僕がグラシア領にいた時。一度、父上と一緒にラメスタの街に行ったことがあるんだ。その時に――――」
ラメスタの街は、バイサス帝國との輸出の拠點となっており、珍しい、そしてレイネ達家族へのお土産を探しにカインは護衛を連れて市場に赴いた。
その時、屋臺でネックレスを買う時に知り合った――リルの事を話していく。
姉レイネのお土産を見ている時に、同じネックレスを買おうとした事。
譲ってあげたら、代わりにカインのネックレスを選んでくれた事。
商人の子供にしては、隨分上等な服を著ており、可いの子だな、と思っていた事。
誰からか追われていたらしく、追手から逃げるように人波に紛れていなくなってしまった事。
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それからガルムの付き添いをしていて、市場に行くことは出來ず、再會することはなかった事。
「――――そんなじです……」
説明を終えたカインは、し冷めた紅茶に口をつけ、の渇きを潤す。
リルターナはカインの説明の間、ずっと下を向いていた。
「――――そうですか。わかりました。リル、合ってる……?」
テレスティアの言葉に、俯いたままのリルターナはしだけ首を縦に振った。
それを確認したテレスティアはシルクと視線をわし互いに頷く。
「カイン様、今日はリルを含めて三人で話をしたいと思います。それで、できればこの大きなベッドをお借りできないでしょうか」
「…………え?」
テレスティアの言葉にカインは気の抜けた返事をする。
「カインくん、テレスは今日、三人で同じ部屋で寢たいって言ってるの。流石に私たちの部屋じゃ、三人は狹いでしょ? でも、あの大きなベッドなら、三人でも余裕だから、今日はこの部屋を貸してしいかなって……」
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(修學旅行の子會みたいなものか……)
前世では、高校二年の秋に修學旅行が控えていたが、行くことは出來なかった。
そんな事をカインは思い出しながら笑みを浮かべ頷いた。
「うん、構わないよ。執務機の書類には手を出さないでね。貴重なも多いから」
カインは紅茶を飲み切ると「違う部屋で寢るね」と伝え席を立つ。
「あ、そうだ。カインくん。そんな小さい時にリルの事を『可い子だ』って思っていたんだね?」
シルクの言葉に、リルターナはピクっとを震わせ、耳まで紅く染まっていく。
カインはやばいと思ったのか、「お休み!」と言って、大急ぎで部屋を出た。
締めた扉に寄り掛かり、カインは大きなため息をつく。
「――まさか、あの時の子がリルだったなんて……」
カインは當時の事を思い出しながら廊下を歩く。
――――自分が寢る部屋がなくなってしまったからだ。
しかし優秀な執事であるダルメシアが現れた。
「カイン様、こちらに部屋を用意しております」
「……ありがとう。もしかして聞いていた……?」
ダルメシアは何も言わず笑みを浮かべ「こちらへどうぞ」とだけ言う。
カインはダルメシアに連れられ、空いている客室で眠りにつくのであった。
◇◇◇
「カイン様、おはようございます」
「カインくんおはよー」
「……カイン様、おはよう……」
元気に挨拶するテレスティアとシルクの後ろで恥ずかしそうにするリルターナがいた。
「みんな、おはよう」
すでに制服に著替えており、この後、朝食を食べ、ドリントルの街を出発することになっている。
昨日の話の容も気になるが、聞く訳にもいかず、カインはし悶々としながらダイニングへと向かった。
朝食は夕食と同じようにビュッフェ方式となっており、メニューは異なるが各自好きなを取り食事をしている。
カイン達四人も同じテーブルを囲み朝食をとる。
「あと一つ街を通ったらいよいよイルスティン共和國ですね。初めての他國なので楽しみですわ」
リルターナはバイサス帝國から、エスフォート王國に來ているから経験があるが、カインを含めほとんどの者が初めての王國外に出ることになる。
ドリントルの西門を出た後に北上し、もう一つの街”テレンザ”を通ってから、國の詰め所を通りイルスティン共和國へと向かう予定となっている。
食事をすませた一向は、屋敷城を出ると、すでに馬車が用意され、騎士と冒険者が並んで待っていた。
アレク、ダルメシアを含め従者たちも見送りの為に一列に並んでいる。
生徒たちは各自馬車へと乗り込んでいく。
「それでは、お気をつけて」
アレクの見送りの言葉に禮を言い、馬車は進み始めた。
テレンザの街までは、ここから三日ほどの距離がある。
途中に宿場町がない為、騎士や冒険者たちが天幕を張っていく。
「ドリントルが快適過ぎて、苦痛にすらじます……」
テレスティアの言葉に、シルクやリルターナは頷き、カインは苦笑する。
學園で保管している魔法鞄マジッグバッグに、簡易ベッドなど収納されているが、ドリントルの寢室と比べれば仕方ないことだった。
生徒たちも同じように考えており、小言が出ていたが、教師から「お前ら恵まれ過ぎていただけだ」と一括されていた。
そして、何事もなくテレンザに到著した。
テレンザの街は、バルド・フォン・ラグナフ・テレンザ子爵が統治している。
バルト子爵は、コルジーノ侯爵派であり、カインにとってはあまり関わりたくない相手でもあった。
連なる馬車は、り口で教師が付をし、街中へと進んでいく。
カインは馬車の小窓から街並みを眺めるが、し寂れているというイメージだった。
商店もそこまで活気がなく、人通りもない。閉められている商店も見けられる。
「ドリントルと比べると、し寂しいね……」
馬車の中でシルクが呟き、テレスティアやリルターナもそれに同調した。
そして、馬車は領主邸前に著けられた。
領主邸は二階建てで、すでに屋敷の従者たちが並んで待っていた。
教師と生徒たちが馬車から降り、一列に並ぶ。
そして、壯年の領主と思われる男の橫には――コルジーノ侯爵がいた。
「よくいらっしゃいました。お疲れでしょう。部屋を用意しておりますからゆっくりと寛いでください」
領主のバルド子爵ではなく、コルジーノ侯爵が我が顔で挨拶をする。
生徒たちは屋敷に案され部屋を振り分けられていく。
テレスティア、シルク、リルターナは個室が割り當てられ、他の生徒は二人部屋、もしくは四人部屋となっていた。
カインはもちろん――四人部屋だった。
(本當に権力に対してあからさまだな……)
そんな事を思いつつも、同室になったクラスメイト達と會話を楽しみつつ夕食の時間を迎える。
夕食はいくつかのテーブルが配置され、そこに數名が座るようになっていた。
テレスティア、シルク、リルターナはコルジーノ侯爵とバルド子爵と同じテーブルに案され、カイン達は指定されたテーブルにつく。
各自の前にドリンクが用意され、乾杯の挨拶となる。
そして、またコルジーノ侯爵が立ち上がり、乾杯の挨拶となった。
「教師、生徒の皆さんようこそテレンザの街へ。今日一日ですが、ゆっくりとしてください。それでは乾杯」
「「「「「「「「「「「乾杯」」」」」」」」」」」
食事が一皿ずつ配られていき食事が始まった。
この人數の量を用意したからか、料理はし冷めていて、生徒達からもし不満の聲があがった。
「ドリントルと比べたらな……」
「たしかにそれは言えてる。部屋もみんな個室が用意されていたしな」
「そうそう、料理もここより味かったし……」
生徒たちからも小聲ながら、そんな聲が上がる。
もちろん、コルジーノ侯爵やバルト子爵には聞こえないように話していた。
「王殿下、シルク嬢、皇殿下、今日は一杯ご歓待させていただきます」
コルジーノ侯爵は笑顔で言うが、やはり三人とも生徒たちと同意見ながら、口に出すことはしない。
「コルジーノ侯爵、バルド子爵、歓待ありがとうございます。今日、馬車から街並みを見ましたが、し寂れて……、いえ、寂しいじがしましたが、何か問題でも?」
テレスティアの言葉に、コルジーノ侯爵、バルド子爵は顔を顰める。
「……やはり気付かれましたか。実はしずつですが、街の人口が減っております。何処かの街が好き勝手している関係でね……」
コルジーノ侯爵は忌々しい視線を、違うテーブルで食事しているカインへと送るのであった。
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