「ロイ、ナーサリー・スクールに行きたくはない？」

彼の言うナーサリー・スクールとはロイの元いた世界で言う稚園みたいな施設である。いわゆる就學前教育の施設だ。この世界の新年度はサファイアの月、ロイの前世の９月に相當する月から始まるために、この母親もこの時期に訊いたのだろう。

「申し込みとか、學試験とか、そういうモノの心配は……」

「大丈夫よ。王都や他の王國では待機児問題があるって聞くけれど、なくともここら辺のナーサリー・スクールは、來る者を拒まず、やむを得ない事で去る者は追わず、けれどもできるだけ去らなくてもいいように支援する、っていうスタンスだから」

「お金の心配は……」

「ロイは子供だから、まだ王國の制度とかわからないよね？　大丈夫よ？　ナーサリー・スクールは國がお金を出してくれるの。それに――」

「？　それに？」

「ナーサリー・スクールに行けば、魔の適検査だってけられるし、本當に簡単なヤツだけど、魔のお時間だってあるわ」

それを聞いて、思わずロイは目をパチパチと瞬きさせる。

――魔。

ロイがこの世界に転生して、最も習いたかったモノの一つ。

それの適検査をけることができて、學すれば魔の時間もあるという。

れるのならばぜひともりたい。

ゆえにロイが答えを出すのに、悩むような時間は必要なかった。

「ボク、ナーサリー・スクールにりたい！」

「決まりね。マリアも５年１０ヶ月前にナーサリー・スクールに通っていたから、同じところでいいわよね？」

「はい！」

ちなみに、マリアは今、ナーサリー・スクールを卒業して、この世界の初等教育であるジュニア・スクールに通っている。と、いってもマリアは今１０歳で５學年次なので、あと１年でジュニア・スクールを卒業してしまうが。この世界のジュニア・スクールは、５～１１歳までが対象なのだ。

そうしておおよそ２ヶ月後、ロイはナーサリー・スクールに學した。

が――、

ロイが魔適を診した結果は――、

無屬魔適：３

炎屬魔適：２

水屬魔適：２

風屬魔適：２

雷屬魔適：２

土屬魔適：２

屬魔適：４

闇屬魔適：０

時屬魔適：１

空屬魔適：１

――というギリギリ下の上あたりの適だった。

言わずもがな、この世界ではを採取してそれを機械にかけて検査する、ということはできないが、この検査を擔當したのは『魔の適を検査する魔』を使える、そういう類の資格を持った魔師だ。この結果に偽りはない。

流石に天才のと持て囃されていた子供でも、この魔の適だと、魔師に向いているとは到底言えない。両親は二人ともほんのし落ち込んだ。

だが、そもそもこの世界の住人の全員が戦闘で役に立つレベルの魔を使えるかと言えば、そうでもない。魔の適がなくても、騎士や、ロイは頭がいいから教育機関の先生にだってなれるかもしれない。

それに魔の適が低いからといって、（闇魔以外）ゼロなわけではない。これぐらいならば、日常生活を多過ごしやすくする程度の魔なら使えるはずだ。

魔適が記された羊皮紙を見て、まぁ、今までがよすぎただけで、普通はこのぐらい、と、どこか納得したようなロイの両親。

そんな彼らは、數日後、ロイの一言で仰天することになる。

（魔の適は殘念だったけど、ボクにはまだ剣が殘っている。だったらそっちを頑張ればいい！　魔とは違って、剣なら最悪、持てる、振れる、斬れるの３つができれば使えることになるんだし！　うんっ、頑張ろう！　それに魔だって、適が殘念なだけで、全く使えないわけじゃない。異世界に旅行に來て験魔講座で魔を使えた～、ぐらいの気持ちで楽しめばいいじゃないか！）

が、

（そういえば……魔の適はわかったけど、ついでだからゴスペル、ボクの場合は〈零から始める無限の修練〉も検査しておこうかな？　まぁ、母さんと父さんに頼む形になるんだけど）

そう思い立ったロイは、両親にゴスペルの検査をけたいと話す。

「お母さん、お父さん、ボク、ゴスペルの検査をけたいんだけど……」

「ゴスペルかぁ……。憧れるのもわかるけど、アレは魔の適以上に希価値が高いモノだぞ？」

「そうよ～。ファンタジア教とか、竜の聖書教とか、そういう宗教の神様じゃなくて、もっと……、こう……、大いなる世界の意思とか、集合無意識とか、アカシックレコードとか、萬象の真理とか、宇宙の源とか、そういうふうに呼ばれている、人間に限らす生きが認識できる範囲の外側にいるナニカと、生まれる前に、赤ちゃんがお母さんのおなかにいる時に邂逅しないとゴスペルは手にらないって、昔から言い伝えられていて……」

「？　會ったとことあるよ？　ボクがお母さんのおなかにいる時でしょ？」

厳に言うと、確かに生まれる前に神様のの子と出會ったことは間違いないが、正しくは母親であるカミラのおなかの中にいる時ではなく、前世から転生する時、手続きの時間に出會ったわけだ。

しかしそのようなことを伝えても、余計に両親が混するだけだと察したので、ロイはそのことは黙っておくことに。

「ハっ！？」

「えっ！？　あ、ああ、あなた！」

「わ、わわわ、わかっている！　この子がデタラメを言うとは思えない！　今すぐ検査の申し込みをするぞ！」

そして數日後、また検査をけて、魔の適の結果が返ってくるよりも數日多く日にちを要して、ゴスペルの結果が返ってきた。

その結果を待ちわびていたのはロイと、マリアと、２人の両親だけではない。

村人全員が、自分たちが天才のと呼んでいた子供が、実はゴスペルホルダーかもしれないという期待に、を焦がしていた。熱に浮かされていると言っても過言ではない。

で、結果は――、

【　ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク　殿

貴殿がゴスペルホルダーであることを、

國王、アルバート・グーテランド・イデアー・ルト・ラオムの名の下に、

正式に認定する。

ゴスペル名：〈零から始める無限の修練〉

レアリティ：ＥＸ 】

それをロイ本人が読み上げ終えた瞬間、村中で歓聲が上がった。

ロイの家に集まっていた彼に初を捧げたの子たち、マリアの同級生、両親と仲がいいご近所さんはもちろん、最初はロイの家の前にいなかった人たちも、歓聲を聞いて居ても立ってもいられなくなり、彼の家の前に集合して、まさしくお祭りのような雰囲気に包まれる。

だが――、

実は――、

この日の出來事は、まだロイが最強に至る語のプロローグ、その第１段階にしか過ぎなかった。