ロイが暮らす村から北東にびる馬車道。そこを１臺の馬車が走っていた。

並みがしい白馬に、漆うるしのような黒を基調にした馬車本。

豪奢にして瀟灑しょうしゃな外裝からだけでも、中にいる仁が高貴なお方だと推察できる。

そして極めつけは――、

１２人の隊員がそれぞれ１２の星座の名前を冠した稱號を國王から直々に與えられた、王室の『特務十二星座部隊』。

馬車の外裝には、時計を一周する數字のように、あるいはロイの前世で言うところの歐州旗の１２の星のように、１２星座を表す１２の印サインが、その印で一周するように刻まれていた。

馬車の中にいたのは一人の男。

彼は馬の手綱を握る者の男に話しかける。

「この先の村に、例のエクスカリバーを引き抜いた年がいるのか」

「はい、あと３～４時間程度で著きます」

聞くと、馬車の中にいた男は、改めて國から與えられた資料の紙を読む。

「ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク、か――。資料によると、エクスカリバーを引き抜いただけではなく、國王陛下が認めたゴスペルホルダーらしいな」

まだロイがエクスカリバーを引き抜いて、修學旅行から帰還して５日ぐらいしか経っていない。だというのに、この特務十二星座部隊の１人である自分が足を運ぶことになった。王國の上層部の意見が本當に珍しく１つにまとまったからであって、本來、たった１人の年のために、たった５日で彼らの隊がくための許可を得るのは、異例中の異例。

「どんなヤツか、楽しみだな」

…………。

……、…………。

村のり口に先ほどの馬車が著いた。村人は何事かと構えるも、馬車に刻まれていた紋章と、馬車から下りてきた男のマントに描かれていた紋章を視界にれると、大人たちは全員、揃いも揃って恭うやうやしく片膝を付き、首こうべを垂れて、子供たちも親に促されるまま同じようにする。

「エルヴィス様、ロイ年はこの時間、剣の稽古をしているようです。恐らく、村の外れに居おられるかと」

「わかった。お前はここで待っていろ。オレ１人で充分だ」

「――意」

者の男もあとに続くように馬車から下りて、やはり片膝を付いてエルヴィスという男に進言する。エルヴィスは者の男に待機しているように命令すると、村の中にり、威風堂々と進んでいった。

そして數分後、ロイとエルヴィスは世界の運命を変える出會いをする。

琥珀に染まる空。夕日は優しいオレンジのを世界に屆け、近くにあった一面、黃金こがねの麥畑に穏やかな風が吹く。空は高く、夕日のに染まった雲ははるか遠くに流れていく。

鼻孔をくすぐる、風に乗って流れてきた麥の匂い。

麥畑が風に吹かれて、ザアザアという音が彼方に広い世界に響いた。

やたら傷的な黃昏たそがれ時に、エルヴィスが土を踏みしめる。ロイは未だ彼の存在に気付かず、夢中に剣を振るっている。

２人の間に存在するその空間、間合いは、まるで、世界の終わりを想像させるような黃昏に染まった雰囲気で、世界を始めからやり直すような神々しさに包まれた空気だった。

「ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクはいるか？」

「？　はいっ、ボクがロイですけど……」

ロイは剣を振るうのを中斷して、エルヴィスに近づいて見上げる。

雄の獅子のたてがみを彷彿させるような、力強いオレンジが混じったブラウンのオールバック。迫力と優しさが込められている、しっかりとした意志を宿す碧みどりの雙眸。引き締まった顔立ちに、整った高い鼻梁びりょうと、荘厳に閉じている口からは、どこか、彼の自分自に対する誇りと栄と自信をじた。長は１８０ｃｍ以上あって、肩幅は広く、板は厚く、余分ながない筋質なは、まさにロイが目指している『最強』という存在を象化したかのよう。ゴツゴツしい荒れて、乾いて、だからこそ逞たくましい両手は、間違いなく長い年月、剣を振るってきた手に違いない。剛腕にして剛腳。その腕も、その腳も、喩えるなら大木の幹のようである。

「オレは王室の直屬部隊である特務十二星座部隊に所屬しているキングダムセイバー。星の序列第５位、コードネーム【獅子】を冠する聖剣使い、エルヴィス・ウォーウィナー・ライツライトだ」

「――――ッッ」

いくら田舎者のロイだって知っている。

王國の中で比類なき強さを持ち、王國の発展に戦爭、剣、魔學、あらゆるどれかの分野で一定の功績を挙げて、勲章くんしょうを頂かないと隊されることを許されない特務十二星座部隊。王國の民が大雑把に約７０００萬人いたとしても１２人しか隊できない、エルヴィス本人が言うように王室直屬で、最強にして最優の部隊。

そしてキングダムセイバーは、最難関の國家試験に合格しないとなれない、騎士の頂點。騎士のクラスはナイトから始まり。才能がある者、あるいは努力した者の一部がロードナイトになり。才能がある上でさらに努力した者、言い換えれば、努力をし続けて、加えて才能もある者、要するに才能と努力の２つを兼ね備えた人がルーンナイトになれ。そのうちの５％にしかなれないと言われているのがクルセイダー。さらにその中から、王國民の中で１００萬人に１人の逸材しかなれないと言われているのがキングダムセイバーだった。

ロイが歓喜とも畏怖とも區別が付かないような震えを起こしながら、片膝を付き首を垂れようとすると――、

「膝は付かなくてもいい。今日は、こちらが年にお願いしたいことがあって訪れたのだ。立場は対等、否、オレの方がお願いする立場である分、オレの方が立場は低い。顔を上げてくれ」

「で、ですが……」

「年が膝を付き、首を垂れるなら、お前の頭は地上から６０～７０ｃｍのところにあることになる。で、年より立場の低いオレは、それよりも頭を下げなくてはいけなくなる。なら土下座しかないわけだが、年はこのオレに土下座をさせる気か？」

「も、申し訳ございません」

「なに、流石にオレもイジワルが過ぎた言い方だった。だが、こうでも言わないと年は顔を見せてくれないだろう？　オレは、年の顔が見たい」

と、ここで、

「さて――、今ここに、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイクの家族はいるか？」

「は、はいぃ！」「ここにいます！」

この日、たまたまロイの稽古を見に來ていたロイの両親と、妹のイヴは、エルヴィスの前で跪いた。イヴに関して言えば、両親に促される形だったが。

「年、お前に家族の前でお願いしたいことがある」

「何でございましょうか？」

「――王都のパブリック・スクールに學する気はないか？」

ロイはもちろん、彼の両親も、ことのり行きを見守っていた近くで跪いていた大人たちも、ここにいたエルヴィス以外の全員が、その発言に震いした。

王室直屬の特務十二星座部隊の１人が――、

１００萬人に１人しかなれないと言われているキングダムセイバーが――、

――自分たちの村の年を、ロイを、直々に王都の學院に勧している。

人によっては涙さえ流していた。

「王都の……パブリック・スクール、ですか？」

「そうだ。的には國立グーテランド七星団學院の中等教育部だ」

「なっ……」