講義中、ロイは自分の分と、加えてもう１冊のノートを用意して、その両方に板書を寫した。その様子を、隣の席に座ったアリスは不思議そうな顔で橫目に窺う。

『なに書いているの？』

と、アリスは自分のノートの端に、グーテランドの言語で書く。

それに対してロイも、自分のノートの端に返事を綴つづった。

『シーリーンさんのためにノートを取ってあげているんだよ』

『？』

『不登校だから講義には出席できないだろうから、せめて、講義の容だけは屆けたいな、って』

転生者だが、ロイだってこの世界で１５年以上生きている。

ゆえに、この世界の不登校事だって、ある程度は知っていた。

この世界の、この時代の、この文明レベルで、不登校というモノはあまり社會的に知られていない。

この世界の住人の覚でいうと、イジメはイジメる方が當然悪いが、イジメられたらやり返せ！　イジメに屈するのは、キミが悪いわけではないが心が弱い！　というのが社會通念である。

しかし、ロイには前世で培った不登校に対する理解力がある。

ロイが前世で好していたファンタジー小説でありがちな政チートや科學知識チート、前世の知識を使った俺THUEEEEEEEEEEE!!! は、現実問題、なくともロイには実現不可能だが、の子ということは関係なく、１人の不登校児の環境を前世の知識でよくしてあげる、というのは、実現可能かもしれなかった。

この世界で不登校という概念は、誇張抜きで、誰にも理解されるモノではない。

だからこそ、ロイ１人だけでも、シーリーンの味方になってあげたかった。

『講義に出席できない生徒のためにノート。そういう発想もあるのね』

『普通、思い付かないかな？』

『欠席した生徒のためにノートを貸してあげるということは確かにあるけれど、それを不登校に応用するというのは、ちょっとビックリ』

本當にそうなのだろう。

日本では當たり前のことでも、この世界では當たり前ではない。

ロイにとって當たり前の知識でも、この世界の住人には、稱賛されるほどではないが、なかなか思い付かない。

こういうことを、ロイの前世の日本基準で評価してはいけない。と、ロイは思わず苦笑してしまった。

『ロイって優しいのね』

『アリスにそう言われると、他の人に言われるよりも嬉しいよ』

読んで、一瞬だけ頬を赤らめるアリス。

『どうして？』

『自惚れかもしれないけど、ボクのことを優しいって言ってくれるの子は、なからずボクに好意を持ってくれている』

『自惚れじゃないわよ。事実そうじゃない。それに、私だってロイに好意を抱いているわ』

『ありがと。でもアリスのそれは友人としての好意で、男の子としてじゃなくて、１人の人間として格がよくて褒められているじがするから、すごく嬉しいんだ』

ロイがノートの端に黒のインクをらせると、ふっ、とアリスがやわらかに微笑んだ。

『當たり前じゃない。私とロイは友達なのよ？　違う？』

『ううん、そのとおりだよ』

『私は、私自が人として尊敬できる人でないと、仲よくしようとは思わないもの』

『そっか。ボクもアリスのことが好きだよ』

『ありがと♪』

お互いに示し合わせたわけではない。

だというのに、ロイとアリスはお互いにノートから顔をあげて、同じタイミングで、実際は本當に違うのだが、相思相の男の子との子のように、やわらかく微笑み合った。

「ゴホン！」

大きく咳払いをする男講師。

ロイとアリスがハッとして、講師、そして周りを見回すと、２人はしばかり注目を浴びていた。特にロイに憧れを抱くの子からの視線がすごい。

「ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク。並びに、アリス・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニー。講義中に筆談は楽しいか？」

「「すみません……」」

と、そこで２人は他の生徒から笑われてしまう。

だが、その笑いは親しみやすいもので、決してバカにするような意図は含まれていなかった。

「まっ、私も學生時代はの子と講義中に筆談したものだ。次からは、講師に見つからないように上手くやりなさい。そういうのが、賢く學院生活を、そして青春を謳歌するということだ」

またもや教室から笑いが溢れる。

そしてロイもアリスも、この講義の講師がフランクな人で助かった、という表で、顔をほころばせた。

「さて、授業に戻るぞ」