「さて、授業に戻るぞ」

言うと、講師は再び黒板にチョークを走らせる。

翻ってロイとアリスは、講師がこちらを向いている時は筆談せず、板書するタイミングで背中を向いた時に、筆談を再開する。

『でも、ロイってシーリーンさんと會ったことないわよね？』

『うん。アリスが言うにはシーリーンはらしいけれど、そういうの関係なく、困っている人、悩んでいる人には、力を貸してあげたいなって』

『やっぱりロイって、優しい。あっ、でも――』

『？』

『さっき先生も言ったけど、シーリーンさんの本名は、シーリーン・ピュアフーリー・ラ・ヴ・ハート。フーリーのの子で、人間のの子ではないから、そこだけ注意ね』

『人間のの子じゃない、って、もしかして？』

『そうよ。あまりこういうことを認めたくないけれども、シーリーンさんがイジメられている理由は、種族差別によるもの』

『詳しく訊いてもいいかな？』

『？』

『力になりたいと言って、事実、有言実行しようと思う。なのに、事も知らないで、なにかフーリーであること特有の悩みや悲しみや傷に、土足で足を踏みれちゃマズイと思うから』

一瞬だけ、アリスは黙考した。

『フーリーっていうのは、もともとは天國で暮らしていただけの種族、と言われているわ』

『だけって……』

『本當に神話の教科書にそう書いてあるんだからしょうがないじゃない！』

『なら男は？』

『男ねぇ。し違うところから説明するけれど、フーリーは天國で暮らしていた種族って書いたじゃない？』

『うん』

『ってことは、どこからどう考えても、サキュバスやインキュバスのような悪魔とは違う』

『そうだね』

サキュバスとは悪魔の一種で、男とセックスをして、その気を搾り取る質、つまりスキルを持つ種族だ。曰く、サキュバスのとしてののは極上そのもの。男ののが焼けるぐらいアツアツで、けるほどトロトロで、フワフワなのにキツキツで、常にキュンキュンしている狀態という。

『』の魔の他にも『変』の魔をに付けていて、逆夜這いする男の理想の姿に変するとも伝承にはある。

また『』の魔の一種に、男の殘りの壽命をに変えるという魔もあり、１回まぐわっただけで、サキュバスの子宮をタプタプにするぐらいを吐き出せる代わりに、簡潔に言うなら殺されてしまう被害者も後が絶たない。

被害者の９５％以上は死んでしまうため証言はないが、曰く、その瞬間は、視界も思考も真っ白になり、全が強く痺れ、腰がガクガクと痙攣し、灼熱そのものを吐き出すようで、針ののような出口からその１００倍のモノを出すようなもので、この世のモノとは思えないほどの絶頂快楽ゆえに、今後の人生で頭が使えなくなるほどバカになるレベル、と、伝えられているとか、伝えられていないとか。

インキュバスとは、サキュバスの男版で、に夜這いをかける悪魔、という認識で問題ない。

『けれど、神話に出てくるフーリーの先祖は天國の住人。サキュバスは悪魔。當然、正反対な存在なのだけれども、ただ１つ、同じところをあげるなら、フーリーも『』の魔を得意とする種族なのよ』

『ああ、なるほど』

『神話におけるフーリーという種族は、英雄と呼ばれる人たちが、死後、神からの褒としての人をあてがわれる際に、その役目を果たしたと伝えられている』

『だから、フーリーに男はいなくて、しかいない？』

『そうね。なのに英雄という人も、神話にはたまに出てくるけれども、男版のフーリーがいるという伝承は殘されていないわ。それに』

『それに？』

『フーリーは神話の時代から存在していたけれど、空想の存在ではないわ。事実、シーリーンさんがこの學院に在籍しているし』

『つまり、現実、この時代のフーリーも『』に関するスキルと魔を使える、ってことだよね？』

『ええ、だから低劣な男子が、サキュバスとの違いも理解せずに、彼のフーリーとしての質をからかう、イジメるのよ』

ここで終業の鐘が鳴る。

次の講義は実戦演習で、またもや他學科のアリスと一緒の講義である。

そもそも、ロイとアリスは友達になった日の數日後、カリキュラムを組む際に、他の學部、他の學科、だけれどもなるべく一緒の講義をけられたらいいよね。と、話し合っているのだ。

で、なるべく一緒の講義をけられるようにカリキュラムを組んで、２人揃って教務課に提出した。

なのでロイとアリスは、他の生徒と比べても一緒にける講義が多い。

「さぁ、次の教室に行きましょう？」

「うん」

と、アリスに促されながら、ロイは教科書とノートを、カバンにしまう。

（そういえば、講義中にノートの端を使っての子と筆談って、よくよく考えると、前世でボクがやってみたかったことの１つなんだよね）

口元を緩めるロイ。

さあ、次の講義は前述したように実戦演習。要するには実際の戦闘を念頭に置いて、模擬戦、戦いの訓練をする講義だ。

となれば必然的に、エクスカリバーの使い手、ロイの見せ場である。