「えへへ～」

一方でシーリーンも大好きな白馬の王子様に頭をでられてデレデレになってしまう。顔は嬉しくて嬉しくて自然と笑みがこぼれて、心はロイくん大好き！　という気持ちでいっぱいになる。以前まで、の子として生まれたことを不安にじていた彼だが、ロイが男の子で、その男の子であるロイにこうして頭をなでなでされるなら、自分はの子として生まれてきて幸せだなぁ、と、思えるぐらいには、自分の別に対して前向きになれていた。

「うぅ……、シーリーンさん、ズルいよ。登校しただけでお兄ちゃんにいい子いい子されるなんて……」

「まぁ、これでシーリーンさんが毎日學院にこられるなら、わたしたちは我慢した方がいいですね。――、あっ、いや違う！」

ふと、マリアはロイに近付いた。

マリアのお姫様カットのロングストレートから上品なの子の香りがする。

それに一瞬驚いたロイだったが、次の瞬間、ロイはさらに驚くことになる。

即ち、マリアがロイの頭をで始めたのだ。

「どっ、どうしたの、姉さん？」

「ふふっ、わたしは気付いたんですよね」

「な、なにに……？」

「ズバリ！　弟くんがシーリーンさんの頭をなでなですることと、わたしが弟くんの頭をなでなでするのを我慢すること、あるいはイヴちゃんが弟くんからなでなでされることを我慢することは、必ずしも同義ではない！　ですよね♪」

「流石お姉ちゃん！　略してさすおね！」

健やかに発育したを張って自信満々に宣言するマリアは、有言実行と言わんばかりに、すぐにロイの頭をなでなでするのを再開する。

シーリーンが目の前にいるとはいえ、そしてマリアがの繋がった姉とはいえ、に頭をやさしくでられて、ロイはドキドキしてしまう。

「弟くん、きちんと毎日登校して偉いですね～。お姉ちゃんの自慢の弟くんです！」

「あ、ありがと、う？　ぅん？」

「お兄ちゃん、わたしも、わたしも！」

大好きなお兄ちゃんに頭なでなでをせがむイヴ。

ロイはいったんシーリーンから手を離して、今度はイヴの頭をでた。

すると、イヴは気持ちよさそうに目を細める。

「いや、待って。やっぱり――」

「どうしたの、ロイくん？」

「シィはいくら元・不登校児だとしても、ボクに頭をでてもらうために、通學することを便利な方便として使いすぎじゃないかな？」

「ぐはっ！？」

「姉さんも、もっとまともな褒める理由、なかったの？」

「弟くんが反抗期に！？」

「お兄ちゃん、わたしは？」

「イヴは……セーフかな。シィみたいになにかを建前に使っているわけじゃないし、姉さんいみたいに変な理由で強引にこじつけてないし」

「やったぁ！」

「イヴちゃん、ズルい！　シィがロイくんの人なのに！」

「姉より褒められる妹がいてはならないんです！」

と、その時だった。

「ちょっと、ロイ！　こんなところでの子とイチャイチャするなんて……風紀がれちゃうじゃない！」

尖った耳が印象的なエルフの、アリスが登校してくる。

エルフ特有の、緑かな森を吹き抜ける風のようにサラサラな金髪ブロンドのツーサイドアップは、城下の街をうような爽やかな風にさらさらと揺れる。サファイアのように蒼い凜とした瞳は、なぜかしだけ攻撃的に、なぜかしだけ拗ねたじで、３人とイチャイチャするロイは睨んでいた。満すぎず、かといって華奢すぎず、アリスのの子としての、つまり、腰、おしりにかけての曲線は、非常にバランスが取れているではないか。

そんな金髪のエルフ、アリスは、ロイに近付いて、彼の頬をしだけつねった。

「い、痛いよ、アリス……」

「當たり前じゃない、わざと痛くしているんだもの」

「な、なんで最近、そんなに不機嫌なの？　拗ねているっていうか、なんていうか」

「～～っ、ロイがシィと學でイチャイチャして、風紀をしているからよ！」

確かにロイの言うとおり、最近、アリスはどこか不機嫌そうだった。

周りから見たら拗ねている、妬いている、つまらなそうにしているのは明らかなのに、本人は決してそれを認めようとしない。

逆に本人からしたら、ロイとシーリーンの仲睦まじい姿を見てしまうと、が苦しくなって、切なくなって、最終的にはモヤモヤして、自分のに名前を付けることができない。

「まったく」

と、ここでアリスはようやくロイの頬を解放した。

そしてシーリーンの前で、彼の人であるロイの手を握って、強引に學に連れて行く。

「ほらっ、ロイ、早く行くわよ。講義が始まっちゃうじゃない」

「ちょ……っ、アリス！？」

「あぁ～っ！　アリス！　ロイくんはシィの人さんなんだよ！？」

「お兄ちゃんがアリスさんにも奪われたよ！？」

「ハァ、殘念ですけど、わたしは場所が違うのであっちに行きますね？　もっと弟くんと近い年に生まれたかったですね……」

このような調子で、シーリーンは學院に、しずつ、しかし確実に復帰しつつあった。

これはその朝の景。

しかし、その景に、１つ、アリスは自分でもよくわからない気持ちを芽生えさせていた。