「えっ！？　ボク、アリスになにかしたっけ？」

「ジェレミアを懲らしめて、シィを登校できるようにしたでしょ？」

「確かにそうだけど……」

シーリーンにはお禮を言われてもおかしくないけど、なぜアリスにまでお禮を言われるのだろう、という表のロイ。

翻って、アリスは可らしくはにかみながらロイに謝を続けた。

「私、ロイが學する前から、シィのことをどうにかしようと、ずっと思っていたの。って、前にも同じことを言ったわね」

「うん、覚えているよ」

「でも、私にはジェレミアに決闘を申し込む勇気もなくて、シィが嫌がっているのに、無理矢理に學院に行きましょう！　って、手を引っ張ったこともあった」

「ああ……」

ロイはしだけ、それはマズかったかもしれない、と、心の中で突っ込んでしまう。

そしてアリスも、今、省みれば、以前の自分の行はダメだった、と、自覚できる。

「今にしてみれば、強引よね。もっとロイが提案した醫務室登校のように、やり方を考えるべきだったわ。頭を使うべきだったわ。不登校の子に対して、初めから高い理想を押し付けるんじゃなくて、達できる妥協點を探って、そのレベルをしずつ上げるべきだったかも」

「正直、そうだったかもね」

「私、ロイのことを心の底から尊敬しているのよ？」

そういうことを本人に直接伝えられるアリスのことを、ロイの方こそ立派だとじた。

こういうふうに他人のことを素直に褒めることは、普通ならば恥ずかしかったり、照れくさかったり、青くさかったりして躊躇ってしまう。まして、アリスはまだ學生だ。だというのにこうして素直に伝えられるのは、アリスの徳だろう。

アリスは、乙を差した頬をゆるませて、くすぐったそうに笑みを作りながら、ロイから視線を逸らさない。

「押し付けた善意は時と場合によって迷になる。私はシィに迷をかけちゃったけれど、ロイは、その……、なんていうか……、な対応って言うのかしら？　上手く融通が利くやり方で、シィを登校させてみせた」

「――――」

「シィを登校させた。ジェレミアを懲らしめた。シィをイジメから解放させた。そして、シィに自信を付けさせて、最終的には、自分の別、自分の種族に、折り合いを付けさせた。ロイは、５つも私にできないことをやってのけたわ」

「そ、そうかな？」

「ええ、そうよ。だからね、ロイ――」

「アリス？」

ふと、アリスは自分の花の蕾のような桜で可憐なを、ロイの耳元に寄せる。

アリスの髪からミントのようなの子の匂いがした。からはほのかな石鹸の香りがした。そのせいで、ロイは無意識のうちに、心臓をドキドキさせてしまう。

そしてアリスは、年頃のの子らしく可らしい聲で伝える。

「私ができなかったことを、代わりにやってくれて、ありがと♪」

「～～～～っ」

ロイの耳元から顔を、を離すアリス。

耳まで顔を真っ赤にしながらロイはアリスの顔を見やるが、當のアリスはとぼけたように小さく首を傾げて微笑むだけだった。

「そ、そうだっ」

「ん？　どうしたの？」

唐突に、ロイは自分の両手をの前でパン、と、叩く。とにかく雰囲気を仕切り直したかったし、それと同じぐらい、揺がバレたくなかったのである。思春期の男の子らしい見栄の張り方だった。

「アリス」

「なにかしら？」

「今日の放課後って時間、空いているかな？」

「うえ！？　そ、そそそ、それって……っ」

「うん、アリスと一緒に遊びたいな、って」

「～～～～っ」

今度はアリスが揺する番だった。

ロイの言葉に、アリスの心は自分でも制できないぐらい高鳴ってしまう。顔が熱くなって、平然を取り繕うことができなくて、ロイの顔をまともに直視することができない。隣に座るただの友達の男の子に、アリスの乙心はされっぱなしである。なのに、それが全然、イヤじゃない。

「ろ、ロイ……」

自分で意識なんてしていない。だというのにアリスは、潤んだ蒼い瞳で、ロイになにかを期待するように、上目遣いで尋ねる。いつものアリスの強気なじ、凜としたじはどこかに消えて、不安と期待がり混じったか弱いの子らしい雰囲気だ。

「ま、待ち合わせは？」

「城下の街に、大きな噴水と神の像がある広場があるよね？　そこの神の像の前で待ち合わせはどう？」

アリスは知っていた。

そこは人同士がデートする時によく使われる待ち合わせポイントであることを。

アリスは顔をますます赤らめる。

「い、行き先とかは決まっているのかしら？」

「カフェに行ったあとで、フリーデンナハト川の夕日でも見ようかって考えていたけど」

フリーデンナハト川は、王都・オラーケルシュタットを橫斷するように流れている大河である。

ロイは前世の知識で理解していた。國や文明は、大きな川の近くにできやすいということを。ロイの前世でいう、ナイル川を起點に発展したエジプト文明然り、チグリス川とユーフラテス川を起點に発展したメソポタミア文明然り。前世で不登校だったロイでも、インターネットとスマートフォンのおかげで、普通に通學している學生と同じぐらい教養をに付けられている。

で、オラーケルシュタットも例外ではなく、フリーデンナハト川を起點に、都市が生まれ、階級が生まれ、文字が生まれ、國家が生まれ、そして現代まで発展してきたのだ。

（フリーデンナハト川、確かその西側って……人同士が夜景を見ながらイチャイチャするところじゃない！　ロイは寄宿舎に住んでいて夜遅くに外出できないから、せめて夕日を楽しもうってこと！？）

アリスはついに顔を俯かせて、ツーサイドアップの髪先を弄り始めた。

心理學を拠にするならば、の子が髪先を弄る時は、退屈な時、つまらない時などだが、しかし、逆に異にかまってほしい時や、異に甘えたい時も、は髪先を弄ってしまう。

無論、アリスの場合は――……

「それで、どうかな？」

「うん……、行くわ……」

消えりそうなか弱く、そしてか細い聲で、アリスは返事をする。

そしてこくん、と、小さく首を縦に振った。

その時、休憩時間が終わったので、２人に限らず、実戦演習の講義をけている學生は講師の元に集合することに。