先に前を歩いていたイヴとマリアが、振り返ってロイとシーリーンとアリスに教えてあげる。

そして５人全員が揃うと、ロイは特に意識しないで、雑貨屋さんを見上げた。

やはり王都の建造らしく石造りのそれで、ドアは溫かみがある木製。ドアの橫に置いてあった看板には、グーテランドの文字で「ようこそ、雑貨屋・クレヨンの森へ！　２１時まで営業中！」と書かれてあった。外見からわかるように３階建てで、この店を前々から知っていたマリア曰く「１階は雑貨、２階は文房を売っているんですよね。３階は店長の家族のご自宅なんですって」とのこと。

「いらっしゃいませ～」

ドアを開けてると同時に、ドアの上の方に付けられていたベルが鳴る。その音に反応した３０代ぐらいのが、店の奧のカウンターからロイたちを出迎えてくれた。

店は木とお日様の匂いがした。クラシックで、さらにレトロな雰囲気である。石畳の床に、木でできた商品である小を置くためのテーブルや棚。壁には子供やの子が喜びそうな、シンプルな額縁にった、可らしいデフォルメされた天使のイラストが飾られてあった。

「お兄ちゃん、これ買ってよ！」

「ん？　これって」

店早々、イヴがなにかを見つけてロイにおねだりしてくる。

ロイはイヴの手に乗っていたそれを取って見てみた。

「ガラスでできた天使――、のストラップか」

「ダメ？」

「しょうがないな。特別だからね？」

「やったぁ！　お兄ちゃん、大好きだよ～っ！」

イヴはロイに抱き付くと、彼のに顔を埋めてスリスリし始めた。

すると、今度はマリアがロイに近付いてきて、あるを見せた。

「十字架のネックレス？　姉さんはこれがほしいの？」

「いえいえ、違いますね。わたしが弟くんにプレゼントするんです」

見る者全てをに落とすような可憐な笑顔で、マリアは十字架のネックレスをロイに渡した。

ロイは思わず、それを反でけ取ってしまう。

「いいの、姉さん？」

「ふふ、プレゼントされるよりも、プレゼントしたい。されるよりも、したい。だから、け取ってくださいね？　弟くん♪」

と、そのし離れたところで――、

「シィはされたいかなぁ？　アリスは？」

「ふぇ！？　わ、私！？　私にはまだ早いけど……、そうねぇ、仮に誰かと結婚したら、私もされたいかなぁ？」

「みんなまだまだ子供ですねぇ」

マリアはしだけバカにしたじで肩をすくめた。

確かにマリアはロイとシーリーンとアリスの３人と比べたら７歳も年上だが、いくら弟がいるとはいえ、『上位部』の學生に『高等教育』の學生が混じっている時點で、マリアも実年齢と比べてし大人気なかった。

ちなみに３人は『中等教育』の『上位部』なのであって、上位部と高等教育は別である。

さらにちなみに、イヴが在籍しているのは中等教育の下位部で修了まで４年間、ロイたちは前述のとおり中等教育の上位部で修了まで３年間、マリアも前述のとおり高等教育で修了まで４年間である。

（なんか、ボクの前世でいうイギリスの教育制度みたいだよね！　微妙に差異があるけど、やっぱりここは、西洋風のファンタジーっぽい異世界だ）

ロイはマリアの年齢から、マリアの學年のこと、さらにそこからこの世界、この王國の教育制度を連想して、そういう想に至った。

ここがファンタジーっぽい異世界という認識を、ロイは久しく忘れていた気がする。

それだけ、ロイが中世～近代西洋風ファンタジー異世界の住人になれたということかもしれない。

「ロイくん、２階にも行ってみない？」

「ていうか、イヴちゃんってノートを買いにきたのでしょ？　なら、２階こそ本命じゃない」

「うぐ……アリスさんが厳しいよぉ」

「階段は奧の方ですね」

遠目でロイはの子４人を眺めた。

シーリーンとアリスは當然仲がいいし、イヴとマリアに至っては姉妹だ。だが、そこで人間関係は完結しておらず、シーリーンとマリアは波長が合うのか話が長続きするし、アリスはしっかり者なのでイヴのことを見守ってくれている。

なんとなく、ロイはその景を眺めて、優しい気持ちになった。

（さて――）

ボクも２階に行こうかな？　と、心の聲で言おうとした、その時だった。

誰かがロイのことを見ている。視線をじたのだ。

勢いよくロイは振り返って窓の外を見ると、そこには黒いフードを被った者がいた。

別は不明、種族も不明。

だがそれ以上に意味不明なのは――なぜ、黒いフードという怪しい恰好をしているのに、街を闊歩する人たちは誰もヤツに気付かない？

ロイの背中にイヤな汗が滲む。

剎那、黒いフードの不審者はその場から走り去った。

（なんとなく、追いかけた方がいいよね？）

そう判斷したロイは、「ちょっと、１回、しだけ店から出るね？」「ロイくん？」「ちょっと、ロイ！？」というやり取りをして、店から出て走り出す。