「わかりきったことを――。【聖なるの障壁】を展開したのは、重力増加を防ぐためではないのでしょう？　通常よりも広い面積の【聖なるの障壁】を展開して、重力増加を私が使ったら、私を私自の魔で押し潰す算段だったのでは？」

そう、今しがたロイが展開した【聖なるの障壁】には、ジェレミアとの戦いの時のように、従來以上の重力をシャットアウトする効果はキャストされていなかった。

要はが指摘するとおり、【聖なるの障壁】という、言ってしまえば超い板で、を押し潰そうとしたのである。

それも失敗に終わってしまった。

しかし、タダで起きるロイではない。

「キミの『概念を我がに降臨させる魔』、今回は『速さ』という概念を降臨させたんだよね？」

「ええ、ええ、アナタの推測どおりです」

「だからキミは今、ボクを殺せなかった」

「――へぇ」

「例えば、馬は人間よりも速い。竜は馬よりも速い。でも、いくら高速でいていても、障害を無視できるというワケではない。馬は目の前にハードルがあればジャンプするし、竜も目の前に崖が見えてきたら高度を上げる。むしろ、高速でくの方が、衝突時により大きい衝撃をけるからね」

「博識ね」

「このぐらい一般常識だよ。――で、ボクをさっきの【絶滅の福音】で殺すには、いくらキミでも時間が足りなかった。ジェレミアとの戦いの時と同じように、魔回路がオーバーヒートしてしまうから。他のアサルト魔も同じ。キミならＢランクぐらいまでのアサルト魔を使えただろうが、それぐらいじゃ【聖なるの障壁】を壊せない」

ちなみに魔を無効化する魔、【零の境地ジィロ・イミネンス】はＡランクの魔である。

一方で、重力増加の魔である【黒よりシュヴァルツ・アルス・黒いシュヴァルツ・星の力ステーンステーク】はＢランクだ。

「そのとおり。２発目の魔がどうとかではなく、１発目の【絶滅の福音】の時點で、私の魔回路はオーバーヒートしてしまいます。この私でも【絶滅の福音】を２回連続で撃つには、まだまだ修行が必要なようです」

だが、こうは言っているが、この、２回連続で【絶滅の福音】を撃てないだけで、１回だけならば【絶滅の福音】１００％を撃つことが可能なのだ。

無論、仮に１度でも１００％を撃てば、魔回路はショートするが。

それをいったん置いといて、話は進む。

「対して、『概念を我がに降臨させる魔』は永続キャスト。恐らく、１度詠唱すれば一定の時間なら好きにオン・オフできるのでは？」

「――正解です！　それこそが――っ、この世界で、現時點で私しか使えない概念降臨の魔【神様の真似事アドヴェント・ツァイト】！」

つまり、がロイを今殺せなかったのは――、１つ、【神様の真似事】を使い速さという概念をそのに降ろしたとしても、ロイの背後に回るためには【聖なるの障壁】が邪魔だったから。２つ、魔回路のオーバーヒートのせいで、【聖なるの障壁】を壊せるようなＡランク以上のアサルト魔を撃てなかったから。

だからこそ、は真橫に逃げるしかなかったのだ。

が――、

「でも、し熱くなりすぎですわよ」

「――――ッ」

ロイは背後から聲をかけられる。同時に、ロイの首筋には【そこに我はいない、故に咲き誇る純黒の花】の１つが當てられた。このまま首を斬られたら、當然、ロイは死ぬ。

「敵だけに集中するのは落第點。戦場全を見渡す広い視野を持って、初めて及第點。そして、戦場以外の場所からアサシンやアーチャーが狙っている可能も考慮して、ここでようやく平均點」

「まさか……」

「今までロイさんが戦っていたのは、私の分ですわ」

背後から甘ったるい聲で囁かれると、同じタイミングで目の前のは霧散した。

嗚呼、今ロイの背後にいるのが、恐らく、本のなのである。

「ちなみに……」

「はい？」

「分の方には本のスペックの何％をけ継ぎさせましたか？」

「――５％」

つまり先ほどの【絶滅の福音】は、本の５％しか強くない分の３０％だったということだ。

しかし――、

――ここでロイは慌てない。

先ほどもロイは心の中で明言した。つまり（発想力ッッ！　敵の意表を衝き、敵の萬全な準備を覆す攻撃の発想！　ボクに勝機があるとしたら、そこにしかない！）と。

それは本が姿を現した今でも変わらない。

作戦は、すでに完了している。

「確かに、キミはボクよりも強い」

「うふふ、ありがとうございます」

「だが――っ、慢心しすぎだ！」