トパーズの月、１２日、火曜日。

「ご主人様～、朝でございます。おはようのお時間でございます」

「んんん……」

いつものごとく、はたわわに膨らんでいるのに、１４０ｃｍもない小柄な型で、メイド服をにまといつつ、ロイを起こしにきたクリスティーナ。

彼はベッドに顔を半分潛らせているロイのを、小さいで優しく、そして懸命に揺らす。

しかしロイに起きる気配はない。

「クス、起きないと――イタズラ、しちゃいますよ？」

「うぅ……」

「キス、してもよろしいのでございますか？」

「キス！？」

「きゃあっ！」

唐突、ロイはガバッ、と、ベッドから上半を起こす。

そしてぶつかりはしなかったものの、驚いて可らしい悲鳴をあげてしまうクリスティーナ。

「…………っ」

控えめに言って、昨日のは化けだった。

昨日の殺し合い、ロイはがダブルキャストしていると推測できるシーンを何回か目の當たりにした。

しかし、よくよく考えればダブルキャストなんてありえない。

まず、路地裏から他人を遠ざけるための、あるいは他人が路地裏に意識を向けないようにするための、簡単に言うと人払いの魔を使っていたはず。

で、殺し合いのあと、ロイが路地裏を確認すると、聖剣の波と、５％の分のさらに３０％の出力とはいえ、【絶滅エクスキューション・のディス・福音エヴァンゲリオン】がぶつかり合ったのに、ほとんど周囲の建は半壊すらしないなかった。せいぜい抉れたり、傷痕が殘ったり、しだけ焦げたりしただけ。

つまり、結界に似た保全の魔もは使っていたことになる。

で、言わずもがな、は最初から、魔による分を何か用意していたらしい。

その狀態で、一番初めの攻防で、【神様の真似事アドヴェント・ツァイト】による『速さ』の降臨と、ロイの首を刎ねるための【そこに我はいない、ヴァールハイト・故に咲き誇る純黒の花ドゥンケルハイト・ブルーメンブラット】を使った。

「ねぇ、クリス」

「はい、なんでございますか？」

「人払いの魔って、なにランク？」

「Ｃランクでございます」

魔のランクは、各々の魔の有能さ、利便、応用力で決まるのではない。魔の式の複雑さで決まるのだ。要するに、取得が難しいほど、ランクが高い。人払いの魔はすごく使い勝手がいいが、そこまで式が複雑というわけでもないので、ロイはＣランクということで納得する。

「なら、戦闘中、周りの建造に被害が及ばないようにする保全の魔は？」

「同じくＣランクでございます」

「なら分の魔は？」

「Ａランクでございますね」

「最後、【神様の真似事】って魔、知っている？」

「申し訳ございません。聞いたことがございません……」

そしてクリスティーナには訊かないが、【そこに我はいない、故に咲き誇る純黒の花】はＡランク魔だ。本人がそう言っていた。

やはり、控えめに言っては化けだった。

フィフスキャストなど――神話クラスの魔の他に、ランクはどうあれ４つの魔を平行キャストなど、神話の登場人でもなかなかいない。神話クラスの魔と並行キャストできるなら、９９％の魔師が生涯で初めて習得するＥランクの魔、【魔弾ヘクセレイ・クーゲル】や【優しいサンフテスリヒツ】でも、王國ではなく星の歴史上で、上位數パーセントの天才に當てはまるはずだ。

の本が出向いたら、上位の竜はもちろん、その上に存在する古竜や神竜ですら殺せるだろう。

いや、自分の魔回路をオーバーヒートさせることを前提として承知、織り込み済みなら、【絶滅の福音】１００％で、ファンタジア教や竜の聖書教における神でも、理論上、殺せるはずである。

無論、この世界ではロイしか確信を持って言えないはずだが、ファンタジア教や竜の聖書教の神と、ロイを転生させた神様のの子は別なのだが。

「さて！　雑談も終わりでございます！　ご主人様、そろそろ起きてくださいませ」

「うぅ、仕方がない……」

ロイは昨日の殺し合いで力を消耗したので、早寢したのに、々寢すぎてしまった。

そこでクリスティーナが、立ち上がったロイの寢間著に手をかける。

メイドとして、ご主人様が著替えるのを手伝ってあげる気だ。

「って、ちょっと待って」

「はい？」

「クリス、なにをする気？」

「ご主人様のお著替えをお手伝いする気でございます♪」