放課後、ロイはシーリーンとイヴとマリアを先に寄宿舎に帰して、適當に時間を潰したあと、學院長室に赴こうとしていた。

學院長室は、騎士學部の學生がメインで使う１號館や２號館、魔師學部の學生がメインで使う３號館や４號館とは違う、いわゆる本館と呼ばれる學生が滅多にらないし、れないところにあった。

しかも６階建ての本館の６階にあるらしい。

「學院長室に呼び出されるなんて初めてだよ……。張で胃が痛い」

「別に悪いことなんてしてないのでしょう？　なら堂々としていればいいのよ、ねっ」

隣を歩くアリスが笑う。ブロンドの長髪がさらさらと揺れた。

今、ロイはまだ本館に通じる廊下を歩いているところなのだが、アリスの方の目的地である図書館の途中まで、進行方向が２人同じなのだ。

「アリスは図書館でお勉強？」

「ええ、私には目標があるから」

「目標？」

「――。コホン、１日でも早く、お父様を超える魔師にならなくちゃいけないのよ」

ほんの一瞬、アリスは表にりを作った。

しかし、次の瞬間には、やる気に満ちた顔で親を超えると宣言する。

「と、ところで……ロイ？」

「ん？　なに？」

「……あなた、結婚願ってある？」

「ゲホ！？」

水を飲んでいるわけでもないのにロイはむせ返ってしまう。強いて言うなら自分の唾でむせ返った。いきなり異の同級生にそのようなことを言われたのだから、仕方がないといえば仕方がない。

「「――――」」

なぜか２人の間に沈黙が訪れた。

アリスの質問の意図が把握できず、ロイは彼の表を窺う。

エルフ特有の明がある瑞々しい頬に、まるでする乙が差している。澄んだ蒼い瞳は微熱がこもったように潤んでいた。を所在なさげに揺らして、ロイのことを上目遣いでチラチラちらちら。桜の花の蕾のようなを、きゅ、と、噤んで、どこか友達であるはずのロイに張しているじ。

この異同士の學生であることを意識しすぎた雰囲気はマズイ。

マズイというかぎこちない。

現狀を打破するためにロイは質問に答えようとする。

「け、結婚願――ねぇ。ボクにもあるよ？　結婚はの幸せってよく言うけど、男の方も幸せにじなくちゃ、２人で一緒にいる意味がないし」

「つまり、ロイも結婚することを幸せにじるってこと？」

「もちろん。まぁ、ボクは結婚とか幸せについて、あまり理屈っぽく考えるのは好きじゃないし、得意でもないんだけど、だけじゃなくて、雙方が結婚を幸せにじないと、普通、婚約の合意って立しないよね？」

「そういう理由によって、だけじゃなくて男の方も結婚を幸せにじるってことを証明できるってことね？」

「殘念なことに世の中には離婚とかあるけど、なくとも、結婚式の瞬間はそのとおりでしょ？」

「――、私にはよくわからないわ」

ふと、アリスはロイに寂しそうな表を向ける。寂しそうな微笑みだ。

そもそも、なぜアリスはこのようなことを訊いてきたのか、と、ロイはし考える。

もしかしたらアリスには、學生のうちから結婚したい相手がいるのかもしれない。

だがアリスにそのようなの噂は聞かない。カレシがいるなんて聞いたことがないし、男子學生の友達は自分を含めて手で數えられるぐらいしかいない。ロイ自にも多の自覚はあるが、アリスに一番近しい異は間違いなく自分だ。

瞬間、ロイは１つの可能に至る。

あれ？　アリスってもしかしてボクを――？　と。

しかしロイはその可能があまりにも自分に都合がよすぎて首を振った。

その可能の真偽はアリス本人のみぞ知る。

「あっ、じゃあ、ボクはこっちだから。アリス、勉強、頑張ってね？」

「ええ、ありがとう。それじゃあ、また明日」

分かれ道に到著したところで、ロイは小さくアリスに手を振った。

対してアリスもの子らしい可い笑顔で、パタパタと小さく手を振る。

そして、ロイとアリス、２人がお互いの目的地に行くために、お互いに背を向け合ったところで、アリスは呟く。

「お姉様のように、早くお父様を超えないと」

ロイにその呟きはきちんと屆いていたが、彼は、自分と離れたあとに呟いたからひとり言だろう、と、結論付けて、あえて返事はしなかった。

事実、この呟きはアリスがロイに聞いてほしかったから口にしたモノではない。

本當の本當にひとり言だ。

だが、ロイはし追求した方が、アリスはひとり言ですませてしまわない方が、本當はよかったのかもしれない。

…………。

……、…………。

數分後、ロイは學院長室のドアの前に到著していた。

床はレッドカーペット。窓ガラスの枠には、まるで蕓作品のように意匠が彫られてある。天井は高く、窓の対面の壁には有名な畫家の作品まで飾られていた。

ここはまだ廊下だというのに、ロイの寄宿舎の自室よりもお金が使われていそうだった。

そして、ロイは３回、學院長室のドアをノックして、中からの返事を聞いてから、ドアを開けて室した。

「久しいな、ロイ。ずいぶんガッチリしたになったじゃないか」

「エルヴィスさん！　と――」

雄の獅子のたてがみを彷彿させるような、力強いオレンジが混じったブラウンのオールバック。迫力と優しさが込められている、しっかりとした意思を宿す碧みどりの雙眸。

この２つを忘れられるわけがない。

特務十二星座部隊の星の序列第５位、【獅子】の稱號を誇るキングダムセイバーにして聖剣使い、エルヴィス・ウォーウィナー・ライツライトが學院長室のソファに座っていた。

そして彼の斜向かいには６０歳ぐらいの男、學院長がいて、一方で隣には――、