この學院、グーテランド七星団學院には、ロイの前世でいうところの下駄箱なんてはない。なぜなら、西洋の教育機関であるこの學院は、基本的に土足だから。しかし、學生が自分の荷のしを保管するためのロッカーは、全學生の分だけ用意されている。

そのロッカーが並ぶ學院の一角で、ロイとアリスは再び一緒になった。

「奇遇だね、アリス。図書館での勉強は終わり？」

「ううん、ただロッカーに必要なを取りにきただけよ」

現在、ロイとアリスがいる地點から見えると、ロイのロッカーが奧の方にあって、アリスのロッカーが手前にある。

なので、特に考えもないが、ロイは先にアリスのロッカーに付いていくことにした。

ほんの數秒だけ、ロッカーから香る木の匂いを楽しみながら、２人はアリスのロッカーまで移する。

「あっ、ゴメン、今さらだけどの子のロッカーの中なんて、見ちゃいけないよね？」

「クス、そんなことないわ。ロイだったらロッカーの中ぐらい見られてもいいわよ」

「ありがと。――ん？　これは――」

「あっ！　それだけはダメ！」

なんてアリスは制止の聲をあげるも、もう遅かった。

悪気はなかったのだが、ロイはアリスのロッカーの中にあった１冊の本を手に取って、表紙を見てしまう。いや、見てしまった。

本のタイトルは『年騎士と月だけが知っている私の花園』というモノだった。

ロイの前世と違い、この世界では、男の場合は通、の場合は初を迎えたらこのような本を買っていいことになっている。ゆえに、アリスがこのような本を買うことは違法ではない。

強いて問題點を挙げるなら、學院のロッカーに保管していたことと、の子としての恥心だけだ。

「～～～～っ」

「ご、ゴメン！」

アリスは一瞬での芯が燃えるように熱くなり、ロイから本を返してもらう。

こんなの、自分がこの本を使って、夜にひとり、自分をめています、と、バレたようなモノだ。まさか、こんな本を買ったけどそういうことはしていません、なんて理屈は通らない。友達から預かったことにすればよかったかもしれないが、先刻のような反応をした以上、あとの祭りだ。

「ね、ねぇ、ロイ？」

「な、なにかな……？」

「私のこと、嫌いになった？」

今にも泣きそうな目で、アリスはロイに上目遣い。

「き、嫌いってどういうこと？」

「はしたないの子や、エッチなの子は、ロイ、嫌いなんじゃないかって……」

「そ、そんなことないよ！　アリスだって思春期なんだし、えっと……一部の男子からはの子は清らかでを持たないなんてアイドル扱いされることもあるけど、そんなことありえないし、その……とにかく普通だよ！」

「うん……ありがと……」

と、ここでようやくアリスは本來の自分を取り戻し、必要なを取り出して、ロッカーの扉を閉めた。

で、今度はアリスの方が、ロイのロッカーに付いていく。

「付いてきてくれるの？」

「私だけがロッカーの中を見られるなんて不公平じゃない！」

「ボクにだったら見られてもいいって言ったじゃないか……」

つまり、自分が恥ずかしいを見せてしまったのだから、ロイの方にも同じ展開を求める、ということらしい。微妙に理不盡だった。

「まぁ、ボクもアリスにならロッカーの中ぐらい、見られてもいいけどね」

「へぇ、言うじゃない」　と、不遜そうに笑うアリス。

しかし、ロイには見られてもいい拠があった。

ロイは自分のロッカーの中にっているを暗記している。

例えば、アリスの方だって自分のロッカーの中を暗記していたはずだ。そのぐらい、自分のロッカーなのだから、やろうと思えばやれる。しかし彼の場合、暗記していたが、失念してしまっていた。で、ロイに見せた瞬間、思い出した。

だがロイは違う。

アリスの失敗を目の前で見たのだから、自分のロッカーに辿り著くまで、中を脳チェックする時間が與えられている。アリスと同じ失敗はしない。

で、脳チェックの結果、見せても大丈夫と判斷したのだ。

「ここがロイのロッカーね？　私が開けるわよ？」

「じゃあ、はい、施錠の鍵」

ロイはアリスに鍵を渡した。

次いで彼は彼のロッカーを開ける。

そこには、なぜか１通の便箋びんせんが――、

「「な――っ！？」」

こんなの、予測できるわけがない。

當然、この斷の手紙がっているであろう白い便箋はロイが自分でれておいたではない。

ロッカーの種類にもよるが、たまにロッカーには空気をれ替えるためのが開いてある種類がある。この世界のでも、ロイの前世のでも。主にカビ臭くなるのを防止するためだ。

十中八九、そのから便箋を差し込んだのだろう。

「ろ、ろろろ、ロイっ！　こ、ここ、これって、伝説の――っ」

「いや、待ってアリス、ラブレターは別に伝説の産じゃないよ！？」

「ラブレ……っ、わ、私！　図書館に戻らなくちゃいけないから、また明日！」

言うと、アリスはその場から走り去ってしまう。

々コメディチックなやり取りになってしまったが、偶然見えたアリスの表はどこか悲しそうだった。

明日、またアリスと會ったらいろいろと説明しよう、と、ロイは思う。

「さて、なんにしても、これを読まないことには始まらないか」

便箋を手に取るロイ。

そして封されていた手紙を読み始めるが――、

『ラブレターかと思った？　殘念！　決闘の申し込みでした！

放課後、第１決闘場でテメェを待つ。

テメェの準備が整うまで待っていてやるよ。ありがたく思え。

逃げるんじゃねぇぞ、あのジェレミアを倒した聖剣使いが。

レナード・ハイインテンス・ルートラインより 』