と、いうことで――、

十數分後――、

第１決闘場にて――、

「ハッ、初めましてになるなァ？　俺はレナード・ハイインテンス・ルートライン。騎士學部、アサルトナイト學科の最上級生で――」

「――學部、第１位のロードナイト」

「よくわかってるじゃねぇか」

２人以外誰もいない放課後の決闘場。

そこで、ロイを挑発するように、レナードは獣が牙を見せるように笑う。

真っ白に燃え上がったような灰のようなアッシュグレーの男子にしては長い髪。ギラついた鋭い同じく灰の雙眸。そして、野な言葉と態度。

しかし不良のような全てとは裏腹に、レナードは騎士學部の最上級生で第１位の実力を持つ、要は騎士學部における最強なのだ。

騎士にあるまじき外見、気崩された制服に騙されることなく、ロイはレナードを注意深く観察する。

長はロイよりもし高く、制服のポケットに両手を突っ込んでいたものの、背筋はきちんとびていた。いくらポケットに手をれて悪ぶっていても、修練を積んだロードナイトとして、無意識、無自覚で背筋をばしているのだ。

制服の上からでは、腕と腳に筋が付いているかどうかはわかりづらい。しかし、顔は引き締まっていて、同のロイからしても、凜とした顔付きである。

また、顔立ちといえば、本人に伝えたら殺さるだろうが、で中的な顔立ちというのはよくあるが、レナードの場合、男なのに中的な顔立ちをしていた。ややこしい表現になるが、いわゆる男裝の麗人のような男である。裝すれば、ロイの前世でいう『男の娘』というほど可らしくは絶対にならないが、まず間違いなくには見えるはず。

ついでに言えば、聲も中的でハスキーなじである。

「しかし、まァ、実力はあっても講義をサボりまくって、挙句の果てにはルーンナイトの昇進試験を夜遊び寢坊ですっぽかしたから、學部１位と言ってもロードナイトだ。そこまで怖れることはねぇよ」

「逆ですよね？」

「アァ？」

「実力があるのにまだロードナイトなのではなく、ロードナイトなのに実力がある。そう捉えた方が正しい気がしました」

「ハッ、敵を過小評価しねぇのか。流石、ジェレミアを倒しただけはある」

一陣の風が２人の間を通り抜ける。ロイの黒髪も、レナードと灰の髪も、風に吹かれて揺らされた。

ロイは真剣な表と雙眸でレナードを見據える。

レナードは兇暴な笑みと雙眸でロイを見據えた。

彼我の距離は約５ｍ以で、言わずもがな、騎士が剣と剣で斬り合う時に、ちょうどいい間合いだ。一般的に間合いは、遠すぎてもダメだし、近すぎてもダメで、一歩だけ踏み込めば斬りかかることができて、一歩だけ後退すれば斬撃を躱すことができる間隔がベストとされている。これを一足一剣の間合いと呼んだ。

「先輩はボクに決闘を申し込みたいらしいですが、その前に、１つよろしいですか？」

「チッ、なんだ？　特別に聞いてやるよ」

「なぜ、ボクに決闘を？」

剎那、レナードの顔から笑みが消えた。

そして真剣な顔でその理由を語り始める。

「ぶっちゃけ、ジェレミアを倒したことはスゲェとは思うが、それでテメェに興味が湧いたわけじゃねぇ。戦ったことはねぇが、たぶん、俺でもジェレミアを倒せるだろうしな。要は幻影魔をキャストされる前に、たった１回斬ればいいだけだろ」

ロイの背中にイヤな汗が垂れ始める。

確かにレナードの言うことは事実だし、ロイもメタ認知を使わずにすむなら、つまり幻影魔にかかる前に勝負を決められるなら、１回だけ斬って決闘を終わらせる算段だった。

だがそれが難しい。ジェレミアは幻影魔だけしか使わないわけではないから。

それで、結局ロイは速攻で斬ることができなくて、持久戦を強いられた。

なのにレナードは、幻影魔をキャストされる前に１回斬るなんて楽勝、造作もない、と、言わんばかりに、あまりにも平然と言ってのける。

恐らく、彼には本當にそのレベルの実力があるのだ。

「ならどうして？」　と、ロイは続ける。

「アリス・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニーってエルフの子學生がいるだろ？　テメェの友達の」

「――ええ」

「俺はあいつに惚れてんだ」

「…………っ」

「そして、俺の路にテメェは邪魔だ。気に食わねぇ」

本人を前にして臆することなく攻撃的に暴言を吐き捨てると、レナードはついにポケットから両手を出した。ロイは一目で見抜く。あれは、剣を握り慣れている手だ、と。

そんなロイの一瞬の焦りも意に介さず、レナードは右手を、肩と同じぐらいの高さで、真橫にばした。

剎那、紫電のような燐と、どこからともなく発火した蒼炎が、レナードの右手に集中する。

ロイがエクスカリバーを顕現させる時に、純白の輝きと黃金の風が生まれるなら、今、レナードが『それ』を顕現させる時、前述のような紫電の燐と蒼炎が生まれるのは必然なのだろう。

まるで対比するように。まるで、同じようなを顕現させるように。

そしてレナードは言の葉を唱える。

「　來やがれ、アスカロン――ッッ！　」

「なん……だと……！？」

竜殺しの聖剣、アスカロン。ロイも名前だけなら聞いたことがあるが、無論、実を目にするのは初めてだ。

エクスカリバーが蕓的だとするなら、アスカロンは攻撃的、否、破壊的な造形をしている。外見だけで、その聖剣の質が攻撃的だということが見けられた。

エクスカリバーのオーラが神々しいなら、アスカロンのオーラは荒々しい。恐らく、アスカロンを完璧に制するには相當な実力が必要だろう。

エクスカリバーの本質が『神聖』だとするなら、まず間違いなく、アスカロンの本質は『闘爭』だ。エクスカリバーの使い手に神にされた者が選ばれるとするならば、アスカロンの使い手には世界一好戦的な者が選ばれるのかもしれない。

破壊的で、荒々しくて、闘爭のために作られたじがして、聖剣、否、聖剣を通じて星そのものから睨まれるような威圧が凄まじい。

「　顕現せよ、エクスカリバー　」

レナードに対抗できるように、ロイもエクスカリバーを顕現させた。

右手の聖剣からは純白の輝きと黃金の風が奔流する。

今から行われるのは、世にも珍しい聖剣使い、対、聖剣使いの決闘。

このような戦い、國が催す數年に１度の祭りの余興でも、ししかお目にかかれない。

幸か不幸か、今、この決闘場にはロイとレナードの２人だけ。どちらかが斬られるまで決闘は終わらないはず。

「最後に１つ」

「アァ？　手短にすませろ」

「先輩はどこでアリスを知って、なんでアリスを好きになったんですか？」

「俺はガキの頃からケンカっ早いし、親の言うこともロクに聞かねぇクソガキだった。アスカロンの使い手に選ばれてもそれは変わらなかったし、まして、使い手に選ばれたあと、この學院に推薦學しても変わるわけがなかった」

「――――」

「けどなァ、あのエルフのは、學院の風紀をした時、俺のことを叱ってきやがった。死ぬほどうぜぇと思ったが、自分の親からも世間のために叱られていた俺に、初めて、アナタのために叱っているのよ！　っつてくれたんだ」

「――なるほど」

「まっ、そんなところだ。で――」

「で？」

「俺からもテメェに訊きたい。率直に、どうだ？」

レナードは決して『なにが』どうとは明言しない。そんな野暮な言葉は、この男同士のやり取りに邪魔なだけと考えたからだ。

レナードは獣のように犬歯をむき出しにして、凄絶に笑う。

対してロイも、彼にしては珍しく、好戦的に笑った。

「奇遇ですね」

「――――」

「ボクもアナタが気に食わない……ッ！」

「クッハハッハ！　ハハッハ！　優男のクセに言うじゃねぇか！　そうこなくちゃ面白くねぇ！　テメェ、俺の見立てどおり、強い芯、ブレねぇ心、諦めねぇ自分ってヤツを持ってんだな！　俄然、決闘が楽しくなったぜ！」

レナードが聖剣・アスカロンを構える。

するとロイも、同じく聖剣であるエクスカリバーを構えた。

張り詰めたような空気の中で、今、決闘が始まろうとする。

「ボクはアリスが誰かとに落ちる時、友達として、素直に応援したいと思う」

「なら俺のことも認めてくれよ」

「だが先輩、あなたはダメだ。気に食わない。アリスの友達として、彼の相手に相応しくないと言わせてもらう」

「ハッ、論理的な騎士かと思ったが、意外にも的な騎士か」

そして２人の間に吹き抜ける風がやむ。

それと同時に――ッッ

「モノのついでです！　先輩を倒して、ボクはまた最強に近づかせてもらう！」

「往くぞ！　テメェに勝って、アリスの心を奪い去る！」