「？　どうしたの、アリス？」

「そのロイの言うところの親切な人、その人に、どこに住んでいるかとか教えたの？」

「教えてないよ？」

なくともアリシア本人には教えていなかった。

ロイの個人報は、王都の住民票を調べれば當然わかるし、特務十二星座部隊なら、正當な理由があればもしかしたら無料で他人の住民票まで閲覧できるかもしない。

しかし【金牛】としてのアリシアではなく、一市民、一個人としてのアリシアには、當然、他人の個人報を閲覧する権限はない。

昨日のやり取りはすごく個人的、というよりはで、アリシアも特務十二星座部隊としての活として上に報告しないだろうし、要するに他人の住民票を調べる正當な理由に欠けていた。

「住所も？　郵便番號も？　故郷の方もよ？」

「う、うん」

「じゃあ、ロイくん、學部とか學科、學籍番號は言っちゃった？」

「シィまで。心配してくれるのは嬉しいけど、本當に言ってないよ？」

彼たちを心配させたのは自分のヤンチャのせいだ。だから自分が「安心していいよ？」とは死んでも言えない。でも、安心してほしいのは事実だったので、ロイは言葉の代わりに表で応えた。

ロイに微笑まれると、シーリーンは思わずがきゅんと切なくなってしまう。

「なら一応、安心なんですかね？」

「お兄ちゃん、次からは気を付けるんだよっ」

「うん、みんなゴメン。いけないことをしたことも、心配させたことも」

で、特に決闘場に居殘ってもすることがなかったので、５人は始業のベルに遅れないように、ロイは騎士學部がメインで使っている１號館と２號館の方、シーリーンとアリスとイヴは魔師學部がメインで使っている３號館と４號館の方、マリアは高等教育の敷地の方へ移を開始する。

とはいっても、途中までは全員、進む道が同じだが。

「ところでシィ、アナタ、ロイに対してヤキモチ妬いていないのね」

アリスはまるで天気の話をするみたいに気楽に切り出した。

話を振られたシーリーンも、イヴとマリアもなんのことかわからない様子。

正直、ロイもなんのことかわからなかった。

「ロイってば昨日、ラブレターもらっていたのに」

「「「「は？」」」」

本気でロイには心當たりがなかった。しかしよくよく思い返してみると、ラブレターに間違えそうな決闘の申込書をレナードからけ取っていたことを思い出す。

そしてそれを発見した時、アリスは隣にいて、結局、アリスだけはラブレターではなく決闘の申込書、という誤解は解消されていなかった。

しかし、そのような事はともかく、これはマズイ。

ふと、自分の腕にくっ付くシーリーンを見れば、今にも泣きそうになっていた。

「ロイくん、約束したよね？　告白されたりラブレターもらったりしたら、シィに報告するって……？」

「いや、そうなんだけど……っ、昨日のあれは――」

「シィ、ロイくんが大好きだもん……。ロイくんが他のの子にラブレターをもらうなんて、不安になっちゃうよ……」

「ロイ、話してなかったの？」

「いや、話す必要がなかったというか……」

と、そこでシーリーンがいったんロイの腕から離れて、今度は真正面から抱き付いた。

妖のような金の髪からバニラの香り。

の子特有のやわらかいからはミルクの匂い。

そして、シーリーンはロイのことを潤んで熱っぽい瞳で上目遣いする。

「シィ、ロイくんに嫌われたくないの。自分でもメンドくさいの子になっちゃっているかなぁ、って、不安になる時もあるけど、ロイくんにしている気持ちを、止められないの……。好きで、好きで、大好きで、今、ここでギュって、抱きしめてほしい……」

なぜかロイは視線をじた。

イヴもマリアも（今ばかりは仕方がないかなぁ？　ギリギリ許せるかなぁ？）という眼差しなのに、どこか、アリスだけは面白くなさそう。つまらなそう。

そして、どこか、友達であるロイと、同じく友達であるシーリーンの仲のよさを見て、モヤモヤしているじだった。

「シィ、不安にさせてゴメンね？」

アリスのことは、正直考えてもよくわからなかった。

なので、一先ずロイはシーリーンを優しく抱きしめて、頭をなでなでする。

ロイにギュッとされた瞬間、シーリーンの心はロイに対する大好きという気持ちで満たされる。

「でも実は、昨日もらった手紙って、ラブレターじゃなくて決闘の申込書だったんだよ」

「――、ほえ？」

するとロイはシーリーンを離す。

そして他の３人にも、特にアリスにも聞こえるように説明した。

「つい今しがた、壊れたはずの決闘場を見に行ったよね？」

「はい、実際には壊れていなかったですけどね」

「姉さんの言うとおり壊れてなかったけど、なんでそもそも勝手に使うことになったのかというと、決闘を申し込まれたからなんだ」

「お兄ちゃん、相手ってもしかして――」

「うん、男の人だよ。で、昨日、アリスがボクと一緒に見た便箋は、ラブレターじゃなくて決闘の申込書だった、ってわけ」

説明し終えると、なぜか、シーリーンではなくアリスがその場にへたり込む。

ホッとした。心が軽くなった。モヤモヤしていた自分でもよくわからないが晴れた気がした。アリスはなぜか、ロイはラブレターをけ取っていないと知って、口元が緩んでしまう。

ロイは一応、へたり込んだアリスに聲をかけようか迷う。

しかし迷っている間に、シーリーンが再度、ロイに抱き付いた。

「ロイくんっ、ゴメンなさい！　疑ったりして！」

「大丈夫だよ、シィ。でも、イヴも姉さんも見ているから、ちょっと離れてね？」

だがなかなかシーリーンは離れない。

でも、なんとなくロイはホッコリした。自覚できるぐらい、実は満更でもない。

その時だった。

「リア充、発しやがれエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ！」

と、口が悪い発言が響いて、ロイに向かってなにかが飛來してきたのは。