「詠唱破棄！　【聖なるの障壁バリエラン・ハイリゲンリヒツ】！　フィフスキャスト！」

とっさに判斷したのはロイではない。績優秀なアリスでも、最年長のマリアでもなかった。なんと最年長どころか最年のイヴである。

剎那、イヴを中心に、轟々と唸るような屬の魔力が渦巻いた。

それを見て、ロイを斬りかかろうと飛來した男、レナードは目を見張る。

次の瞬間、【聖なるの障壁】の１層目にアスカロンは斬りかかった。

アスカロンのスキルが発するも、イヴが展開した【聖なるの障壁】には、信じられないことに傷１つ付かない。

スキルを無効化する別の魔を２重キャストしている？　否。

（これはッッ、単純に魔力の度が桁外れなんだ！！　アスカロンがわずかにも斬ることができねぇ、ってことは！　即ち！　昨日のエクスカリバーの聖剣の波っつー技よりも、の粒子が１枚の壁の中に圧・凝されていやがる！）

戦慄するレナード。彼がふと視線をやれば、ロイの妹、イヴがつまらないモノを見る目で、余裕そうに立っていた。信じられないほど冷酷な瞳をしている。

控えめに言って、尋常じゃない。

ただの剣ではない、いわゆる聖剣が、５枚ある魔障壁のうち、最初の１枚すら斬り伏せることができない？　しかも者はまだあんなに小さいの子だ。このような魔の才能、神に祝福されたか、悪魔に魂を売ったかしか考えらない。

（しかも詠唱破棄かよ！？　あのガキ、何者だ！？）

と、そこでレナードはアスカロンを下げて、魔力の粒子化させて戦闘の意思はないと言外に伝えた。

対してイヴも、【聖なるの障壁】のフィフスキャストを解除する。

そのように、こともなくやってのけるイヴに、ロイも、シーリーンも、アリスも、最年長で落ち著きがあるマリアさえも、驚愕の眼差しを送ってしまう。

「おっと……腰が抜けちゃったよぉ……」

「イヴ、大丈夫？」

イヴが足腰をガクガクさせながらへたり込むので、ロイはそっと、へたり込んだ彼のそばによる。がしだけ火照っていて、頬が赤らんでいた。

イヴ本人は、どこか惚けた顔をしていて、きっと、今のことを追求しても、本人ですら答えられないだろう。そのことをここにいる全員が察して、一先ず、今の時點ではイヴを地面に座らせておくことに。

「すまねぇな。ロイのヤツが妬ましくて、つい斬りかかってしまったぜ」

「先輩、いくらなんでも剣で斬りかかるのは殺人未遂ですよね？」

「確かに反論できねぇ。本當に反省しているし、もう絶対にしねぇ」

と、なんとレナードは素直に頭を下げた。不良で雑な格だが、同時に潔いのかもしれない。

そして數秒だけ頭を下げると、レナードはロイに視線を向けて問う。

「テメェ、決闘場を見に行ったんだろ？　俺はちょうど今から行くところだったんだが、どうだった？」

「直ってしましたよ、完璧に」

「ハッ、てぇことは、あの、本當にオーバーメイジだったのか」

苛立たしそうに言葉を吐き捨てるレナード。自分は聖剣使いで、その上、言わずもがな昨日の、アリシアよりも年上のはず。なのに自分の方が弱い、未など、レナードにとってムカつく事実だった。

世界には、上には上がいる。

世界には、簡単に大人を倒せる子供も、もしかしたらいるのだろう。

「ねぇ、ロイ、この人――」

アリスはロイの制服の裾を、控えめにの子らしく引っ張る。

また、シーリーンも、イヴも、マリアも、似たような疑問を抱いているらしい。そんなじの顔をしていた。

「さっき言ったけど、ボクは昨日、決闘を申し込まれて承諾したんだよ。で、その相手がこの人、レナード・ハイインテンス・ルートライン先輩」

「アリス以外は初めましてだなァ。レナード・ハイインテンス・ルートライン。騎士學部アサルトナイト學科の第７學年次だ。一応、これでも學部の第１位の実力者ってぇことになっている。昨日、井の中の蛙ってことを思い知ったがな……」

「ちなみに先輩もボクの同じ聖剣使いだよ」

一先ず紹介を終わらせるロイとレナード。

すると、シーリーンがロイに抱き付いた。

「ロイくん、すごい！　學部最強の最上級生、しかも聖剣使いと戦っちゃうなんて！」

好き好き大好きしている！　というじのオーラを発しながら、シーリーンはロイのに頬ずりした。ロイが世界で一番、カッコいい男の子。世界で一番、優しい男の子。世界で一番、誇らしい男の子。そういうことを、シーリーンは信じて疑わない。もうロイにメロメロだった。

「流石お兄ちゃん！　略してさすおに！」

「當然ですね！　わたしの自慢の弟くんですから！」

似たようなじで、妹であるイヴは、兄を尊敬して憧れる。姉であるマリアは、弟を自慢して褒めちぎる。イヴもマリアもブラコンで、お兄ちゃん大好きっ娘、あるいは弟くん大好きっ娘なのだが、この反応は、極端なだけで普通である。

ロイの前世でいうならば、なにかのスポーツをしている部活で、１年生が３年生と互角に戦ったようなモノだ。ありえない、とまではいかないが、そうそう簡単になせるようなことではない。

「それでお兄ちゃん、どっちが勝ったのよ？」

「殘念ながら、戦える狀況じゃなくなっちゃって、引き分けになったんだよね」

「それでも充分すごいですね！」

マリアが、ロイのことを弟として可くて可くて仕方がなくなり、思わず頭をなでなでしてしまう。しだけ子供扱いだったが、悪い気はしなかった。

「ケッ、ハーレムかよ。発しろ」

「っていうか、先輩だって聖剣使いなんですから、騎士として模範的な言……じゃなくても、平均的で無難な立ち居振る舞いをすればモテるでしょう？」

「ハーレムは羨ましいと思うが、俺は作ろうと思わねぇ」

「っていうか、イヴも姉さんも、この黒髪ツインテールの子も、黒髪お姫様カットのロングストレートの子も、家族ですよ？」

「でもわたし！　お兄ちゃんとなら結婚してもいいよ？」

「わたしも、弟くんを超える男が現れなかったら、異の理想を高めた責任として、弟くんにもらってもらわないといけませんね♪」

レナードは全世界の男の敵を見るような目で、ロイに殺意を向ける。

イヴとマリアの謎の発言により、なかなか反論が難しくなったので、思わずロイは視線を逸らしてしまった。

が、その先にはアリスがいた。