「私は――先輩とは付き合えません」

と、アリスは申し訳なさそうに顔にりを作った。

極力、レナードと目を合わせないようにして。

「そうかよ……」

無意識で、レナードは歯軋りをしてしまう。

だが苛立っているのを自覚しているが、流石にそれを自分以外の誰かにぶつけようとは思わない。レナードの価値観で語るなら、それは「ダセぇ」ことだから。

だが、このまま素直に諦めるのも、レナードの分ではなかった。

「理由、訊いてもいいよな？」

「私は先輩のこと、よく知りませんし」

「これから知っていこうとは思わねぇのか？」

「思いません。一目で、この人は野そうだな、ってわかりましたので」

「他の理由は？」

「申し訳ないですけど、タイプじゃないです。外見がどうとかではなく、面的にも好きになれそうにないです」

「これから知ろうとも思わねぇし、挙句、タイプでもない、か」

自嘲するようにレナードは笑った。

そろそろ始業のベルが鳴る時間だ。もうあまり、教室の外を歩いている生徒はいない。

だが、この雰囲気で、「じゃあ、そろそろ教室に行こう！」と、ロイは言えなかった。

いや、本來ならそう言うべきなのだが、このシリアスな雰囲気に口を挾む勇気がなかっただけかもしれない。

厳には、勇気がないというよりも、口を出していいのか迷ってしまう。はばかれるじだ。

「なら、俺がテメェのカノジョになれねぇ、それはわかった。でも――」

「でも、なんでしょうか？」

「カノジョになれねぇのはわかったが、片想いを続けてもいいか？　せめて、別のに惚れるまでは」

「諦めないってこと？」

「繰り返しになるが、別のに惚れるまでは、な」

アリスは思案顔になる。どちらかと言われれば、前向きに考えているのではなく、後ろ向きに悩んでいるじ。

だとしても、アリスの格上、片想いまで、するな！　絶対止！　ということは言えない。片想いまで拒絶されるのはつらいことだ。一方的に想いを募らせることを制限することは、誰にだってされてはいけないし、誰にだってしてはいけない。

だがしかし、アリスには『とある事』があった。

そのせいで、どうにも片想いすら許してあげる気になれない。

いや、許したとしても報われない確信がある。

ならば最初から認めない方が、レナードにとって優しい選択なのでは？

と、アリスは悩んだ。

「その……、あの……、追求してしまってアレですけど、諦めないってことは、友達で我慢するということですか？」

「いや、好きでい続けるということだ」

「…………」

ロイはなにかがおかしいと直する。同じく、シーリーンとイヴとマリアも。

いくらなんでも歯切れが悪すぎる。これが大人しくて引っ込み思案なの子なら理解できるが、アリスは言いたいことをハッキリ言う格だし、に関しては誠実なはずで、相手のことを思うからこそ、口ごもるのではなく、真正面から斷るタイプだ。

レナードも々諦めが悪いが、これはまだ、必死になっているだけ、と、肯定的に捉えられるレベルである。

だからおかしいことに、そして意外なことに、この場においてダメな対応をしているのは、レナードではなくてアリスの方だった。

「迷か？」

レナードもアリスの不自然さに気付いていたようで、アリスが言いづらいことを予想して、もしかしてこういうことか？　と、検討を付けて、慎重に訊いてみた。

だが、それでもアリスは首を弱く、橫に振る。

「まぁ、テメェがここまで煮え切らない態度になっちまうってことは、なんか、それ相応の事があるんだろうな」

「――はい」

「突っ込んだことを訊くが、その事について、話す気は？」

顔を俯かせるアリス。

流石にレナードだけでなく、ロイも訝しんで、シーリーンと目を合わせて首を捻った。

イヴは、よくわからない。でも、おかしい！　というじで、マリアは真剣というよりは慎重な眼差しでり行きを見守る。

「ロイくん……」

「――、別にこれは、アリスの返事待ちだけど、アリスが悪いわけじゃない」

「うん……」

「みんながみんな、別々の事を抱えている」

「でも、アリスが悪いわけじゃないのは事実だけど、アリスはし、答えた方がいいよね……」

「まぁ、そのとおりなんだけど……」

ロイとシーリーンが小聲で話す。

アリスには、その聲が聞こえなかった。

小聲というのもあったが、頭の中でいろいろ考えていたから。

どうするべきなのだろう、どうするべきなのだろう、と、頭の中で繰り返す。

正直、アリスが抱えている事は、アリスだけでは解決できないようなモノなのだ。

そのタイミングで、追い打ちをかけるように、レナードから告白された。

悩ましい。悩ましい。全てを放り投げて自分の好きなようにしたい。

だが、答えないわけにはいかない。全部答える必要もないだろうが、なくとも、レナードを納得させる程度は、事を明かさないといけない。

別にレナードに事を話すのは、しだけだけど、実は構わなかった。

問題なのは（ロイにだけは――、絶対に知られたくないな）ということ。

「あの……っ、えっ、と……」

アリスは、まるで自分が自分じゃないみたいだった。

が、そこで閃く。閃いてしまう。自分が自分じゃないみたいなら、普段の自分ではありえないことで、この場をやり過ごしてはいいのではないか、と。

即ち、ウソを吐く、という手段で。

ウソを吐くなんて、誇らしいことではないが、人間、あるいはエルフらしいことだ。

ウソを吐かない人間もエルフもいないし、アリスだってウソを吐いたことがないわけではない。

時と場合による。

しかし、この時、この場合で、ウソを吐いていいものなのだろうか？

だが、吐かなければこの場を収めることはできない。

だからアリスは盛大な弾のようなウソを吐くことに決めた。

「実は私！　ロイと付き合っているの！」