「実は私！　ロイと付き合っているの！」

「「「「「――はぁ！？」」」」」

アリス以外の５人の聲が重なる。特にシーリーンとレナードの聲は特大だった。おかげで、ロイの聲はいくらか聞こえづらくなっていた。

そんな５人を意に介さず、というよりも、意に介する余裕がなく、アリスはロイの近くまで寄って、彼と腕を組む。

無論、シーリーンは「あばばばばばばば……」と、壊れかけたが。

（お願い……っ、ロイ、私に話を合わせて！）

（そうは言われても……っ）

ロイは困しながらも周囲を見る。

シーリーンは今にも泣きそうだし、レナードはロイを本気で殺しそうな目をしている。

そしてイヴとマリアも、面白くなさそうで、ロイに説明を求めている目をしていた。

「手を繋いだことはもちろんあるし、キスだってしたわ！」

「ロイくん……、アリスが相手だったハーレムも許すのに、なんで言ってくれなかったの？」

確かに、シーリーンは以前、自分が認められない相手とロイが仲良くするのがイヤなだけで、自分が認められる相手となら、ハーレムも許せる、みたいな発言をしていた。

彼の価値観を基準で言うと、この場合、にしていたことが問題らしい。

もなにも、そういう事実はないのだが。

「ロイ、テメェ！　昨日、アリスとは友達！　みたいなことを言っていたじゃねぇか！」

今にも毆りそうな勢いで、ドスを利かせながらレナードが聲を荒らげる。

當然、ロイはレナードの怒りも理解できた。でっち上げられた新事実とはいえ、この事実を鵜呑みにしてしまえば、自分が悪いのは百も承知。

しかし、アリスはどうにも自分に話を合わせてほしいらしい。

意味がわからないが、切羽詰まっているのだけは理解できる。

なら、仕方がない。

「シィ、ゴメン！　実はボク、アリスとも付き合っていたんだ！」

「むぅ～、別に一夫多妻制は法律で認められているからいいけど、ロイくんって新聞読むよね？　きちんと話し合わないと、法律で認められていても修羅場で事件が～、って、１ヶ月に１回は新聞に載っているよ？」

「う、うん、面目ない」

「テメェ！　俺には謝罪がないのか！？」

「せ、先輩もすみませんでした！　アリスが２人だけのの関係ってモノに憧れていまして、アリスの許可なく他人に言うのもなぁ、って」

「ケッ、やっぱテメェは気に食わねぇ」

と、ここでレナードは、再びアスカロンを顕現させた。

そして気高くる切っ先を、苛立ちじりに、暴にロイの首に向けた。

「やっぱり、俺はアリスを諦めねぇ。ロイ、いつかもう１度決闘して、テメェからアリスを奪ってやる。覚悟しておけ、最低クソ野郎」

決定的に言い放つと、レナードはそのまま踵を返した。流石にもう、決闘場のステージを確認する気は失せたらしい。

その場に殘されたのは、（どうしてこうなった……）と嘆くロイと、（むぅ……ロイくんのバカ）とふて腐れるシーリーンと、（これ、さらに狀況がややこしくなっていないかしら……？）と冷や汗をかくアリスと、イヴとマリアだけ。

もう講義が始まる直前ギリギリで、周囲に他の人は誰もいない。

重要な問題は２つある。

１つは、今後、ロイはアリスの偽の人役を、恐らく、長い期間、続けなければならないということ。

もう１つは、結局レナードは諦めず、むしろ躍起、意固地にさせてしまったということ。

「ねぇ、アリス、これって――」

「なんていうか……、巻き込んでしまってゴメンなさい」

他の３人に聞こえないように、２人はそれだけ言葉をわす。

ロイは気付いた。否、最初から気付いていた。

これはラブコメにありがちな、周囲を欺くために偽の人を演じるアレだ！

「あっ、お兄ちゃん！　ベルが鳴っちゃったよぉ！？」

「わたしたち、遅刻確定ですね」