「私は侯爵の娘。相手は上の階級の、確か３０代後半のお方だったわ。いわゆる政略結婚ね」

「ちょっと待って！　アリスは確か次だったよね？　お姉さんはどうしたの！？」

「お父様が仰ったのよ。政略結婚したくなければ、親である私を超えてみせろ、って」

「意味がわからないよ……」

「う～ん、ちょっとこじ付けすぎないかなぁ……」

「簡単なことよ。お父様は貴族でもあり、同時に魔の學者でもあるの。だからお父様を超えるということは、魔の學者として高いランクにいるということ。お父様は、それなら政略結婚させるよりも、學者として活躍してもらった方が、エルフ・ル・ドーラ家のメリットに繋がると考えた」

「そんな……自分の子供を道みたいに……」

「私は道じゃないわ、貴族よ」

アリスは投げやりな口調で、空っぽな瞳で続けた。

「お父様もお母様も、私とお姉様にたくさんのを注いでくれたわ。で、子供には將來の夢ってよくあるでしょう？　父親が騎士なら男の子も騎士になりたいとか、母親がお花屋さんならの子もお花屋さんになりたいとか。私の政略結婚も、それと似たようなモノよ。必ず、いいか悪いかは置いといて、覆しようのない事実として、大なり小なり、子供の將來には親の存在が関わってくる。私はそれが大きいだけよ」

「アリス……」

「私はそれが大きいだけ。影響力が大きすぎるから、アリスという私の意思が尊重されないだけ。理由は、貴族だから。そういう理由で、私は道じゃない。貴族よ」

ロイは自分の無力を悔やむように下を向いた。

シーリーンも、いつの間にか寢転ぶのをやめて、ベッドの上での子座りをしている。

「道っていうと、やっぱり語弊があるわね。こういうのは、貴族として生まれてくる子供の宿命で、貴族っていうのはそういうものなんだ！　って、割り切るしかないのよ」

「貴族の定義の中に、政略結婚が含まれる場合が多いってこと？」

ロイは恐る恐る訊く。

彼だって言葉を選んで言いたかったし、事実、言おうとしたのだが、上手い表現が見つからなくて、こういう言い方になってしまった。

「特にの子は、ね」

それにアリスは素っ気なく返す。

ロイの質問をイヤにじたのではなく、本當に、そう返事するしか、アリスには選択肢がないようにじたのだ。

「それでアリス、お姉さんはどうしたの？」　と、シーリーン。

「それも簡単な話よ。お父様が私を超えてみせろ、と、仰って、事実、お姉様はお父様を超えたわ。それもまだ學生だった頃に」

「本の學者を學生が超える……っ」

ロイは焦燥を覚える。それを騎士に當てはめるならば、學生が戦爭を経験しているような『本』と戦って勝つようなものだ。もはや話を聞いただけで戦慄すらじた。

「私は今、５學年次で、お姉様がお父様を認めさせたのも５學年次。だからなのかは知らないけれど、私がお父様を超える期限も、５學年次になってしまったわ」

「だから昨日、お姉様のように、早くお父様を超えないと――って、呟いたの？」

「なによ、聞こえていたんじゃない」

この話が始まって、ここでようやく、アリスがクスクスと笑った。

「先輩には、本當に申し訳ないとじているわ」

「今朝の告白のことだよね？」

「ええ、片想いを続けても、私はどうせ別の人と結婚するし、事を抱えていることを察せられて、事を訊かれたけれども、こんなことをあまり他人に話したくなかった」

「「…………」」

「理屈なんてないけれど、的に、話すのがイヤだった……」

「ゴメン、アリス。そこまでイヤだったなら、ボクも訊かない方がよかったよね？」

「いいのよ。ロイには二重の意味で付き合わせた責任が、シィには一時的にとはいえロイを奪ってしまった責任があるもの。確かにイヤだったけれど、イヤだから責任まで放棄する、なんて私は絶対に言わないわ」

そうして、深々と夜は更けていく。

ロイは自室に戻り、アリスのことはシーリーンに任せた。流石にアリスを自分の部屋に泊めることはできないし、この時間にの子を帰宅させるのは危険だった。

アリスの事は、正直重い。

政略結婚には重要なポイントが１つではなく２つある。

１つは當然、結婚相手の家との繋がりが生まれること。

そしてもう１つは、貴族と貴族の間で子供を作ろうとすること。

この際、貴族同士が子供を作るメリットは置いとくとしても、子供を作る、それだけで、アリスの絶は計り知れない。

本人の言うところによると、結婚相手は３０代後半らしい。対してアリスはまだ１０代後半だ。もしそういうことをすることになったら、アリスの的な嫌悪は相當なモノになるだろう。

ロイに置き換えるならば、３０代後半のと寢ることを実の親に強制されるようなものだ。拒否なんてレベルじゃない。拒絶するレベルだ。

「自分に力がないのはわかっている……。それでも、なんとかしてあげたいな……」