《ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~異世界転生&長チート&ハーレムで世界最強の聖剣使いにり上がる語~》1章5話 キスのあとで、挑発を――(1)

それから、ロイとアリスは本人のように振る舞った。

たまたま一緒の講義をけることになった時は、當然のように2人並んで座り。晝休みにはシーリーンもえて3人でランチを楽しんで。しかもそのランチはシーリーンとアリスの手作りで。下校時にはイヴとマリアも合流し、5人で途中まで夕日の茜に染まる王都の石畳の路地を進み。寄宿舎とアリスの住むエルフ・ル・ドーラ邸との分かれ道に著くと、ロイは寄宿舎ではなくエルフ・ル・ドーラ邸の方に進み、アリスを家の近くまで送った。

そして――、

「ロイ、キス、して?」

「で、でも……ボクたちは本人じゃないし、アリスには相手が……」

「だからよ。その相手にファーストキスを捧げるのがイヤだから、でもロイならいいと思えるから――」

「っっ」

「それに、學院での最後の思い出よ」

「――」

「ロイ?」

「アリス、目、瞑って」

「――――んっ」

放課後、窓から西日が差す學院の講義室で、アリスはロイにファーストキスを捧げた。

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講義室には今、ロイとアリスの2人しかいない。他には誰もない。誰も邪魔することのできない、2人だけの世界だった。

花の蕾のような桜のアリスのは、わずかに震えていた。怖いし、張しているのだろう。ゆえに、アリスはロイの肩にしがみ付きながら、彼に言われたとおり、目を瞑る。

はやわらかくて、瑞々しい。

の子特有の長い睫まつげは震えていて、ロイの肩を摑む手には、々、力が込められている。

まるで魔法にかかったような時の流れ。

世界が始まってから終わるまでの永遠に等しい時間。それを一瞬に詰め込んだような、が切なくて、苦しくて、締め付けられるようで、なのにそれを、もっと、もっと、と、ねだりたくなる不思議な時間。

互いに互いのを塞いで息苦しいのに、それが全然、イヤじゃない。

そして、自分たちが何秒繋がっていたかもわからなくなった時、アリスは「ふはぁ……」と、熱っぽく瞳を潤ませてロイから自分のを離した。

さらにそして、アリスは自分の白くて細い人差し指で、自分のを、けた表で、呆けたようになぞる。

だが、えして、幸せな時間とは、いつか終わってしまうものだ。

「アリス」

「お父様」

數日が経った日の放課後、學院の門扉もんぴの前には1臺の馬車が待機していた。

で、馬車の前に立っている1人の男

彼はアリスのことを呼び捨てで呼び、アリスは彼のことをお父様と呼ぶ。

アリエル・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニー侯爵。

髪質のそうな金の短髪。蒼の雙眸からは娘が父に逆らうことを決して許さない、そういう親としての強い意思が窺えた。よく言えば子供に対して過保護な父親、悪く言えば子供に自由を與えない親の典型である。人間はもちろん、ロイの前世でいうところの外國人に顔の造形が似ている普通のエルフよりも、羨ましいぐらい鼻が高い。そして彫りが深く、にまとっている紺のフォーマルな裝いと相まって、同じくロイの前世でいうところの英國紳士というじそのものだった。

「察しているな?」

「――はい」

幸いにも、學院の門扉の前に學生はあまりいなかった。

アリスとアリエル、エルフ・ル・ドーラ家の次と父の他にはいるのは、アリスと一緒に途中まで帰ろうと考えていた、シーリーン、イヴ、マリアの3人と、表面上はその3人に同調していたが、こうなることを、信じたくはないが知っていたロイだけである。例外は、學院の門扉の警備員の男2人だけ。他の學生は、一瞥ぐらいはするが、すぐに通りすぎて行ってしまう。

夕暮れ時というのは寂しいものだ。

ふと、ロイはそうじる。

前世で例えるならば、小學校の夏休み、祖父母の田舎に帰省して、その田舎で遊んだあと、祖父母が待っている家に帰ろうとする時の夕日。現世で例えるならば、故郷の村、子供の頃、日が暮れるまで友達と遊んで、ふと帰り道にぼんやり眺めた茜の西の彼方。

そして今日は、その夕日が、まるでロイたちとアリスの離別を傷的に演出しているようである。

「君たちは、アリスの友達か?」

「は、はい」

アリエルは問う。それに、5人を代表して、ロイの次にアリスと仲がいいシーリーンが答えた。追従するように、イヴとマリアは揃って頷く。

ただ、ロイだけが、を噛んで、爪が皮に食い込むぐらい両手を握りしめて、己の無力を噛みしめる。

「私はアリエル・エルフ・ル・ドーラ・オーセンティックシンフォニー。アリスの父親だ。いつも娘と仲良くしてやってくれて、本當にありがとう」

ロイは意外だった。アリエルは低くも優しい聲で、しみじみと、アリスの友達である自分たちに禮を盡くす。アリスからは悪印象なことばかり伝わってきたが、流石に、貴族で父親だからとはいえ、ジェレミアのようにクズではないらしい。

むしろ、アリスの件さえなければ、ロイはアリエルに好印象を抱きそうになった。

初対面ではあるが、自分たちには本當に、娘と仲良くしてくれて謝している、という雰囲気がヒシヒシと伝わってくるから。例え初対面でも、人柄というのは、顔、表に出るものだ。アリエルは実に貴族として気高そうな人相にんそうをしていて、彼が貴族としてやっていけているのも頷ける。

「アリスさんのパパが、なんの用なのよ?」

イヴにしては珍しく、落ち著いたテンションでアリエルに訊く。友達の父親とはいえ貴族だからだろうが、イヴの聲は大人しく、穏やかなじだった。

イヴの問いに、アリエルはゆっくりと口を開く。

「アリスは結婚するのだよ。今日は、君たちにとっては急だろうが、アリスを結婚式のために迎えにきた」

抑えられるわけがなかった。

イヴとマリアは聲にならない聲で、驚きを表す。

を知っていたシーリーンでさえ、改めて現実を突き付けられて、前方、アリスの方から目を逸らした。

だが3人とも、すぐに次のことを思う。

シーリーンもイヴもマリアも、ハッ、と、アリスの人ということになっているロイに視線を向けた。いったい、ロイくんは、お兄ちゃんは、弟くんは、この狀況をどうするの、と。

アリスでさえ、3人と同じように、ロイに視線を送る。

「君はまさか、ロイ・グロー・リィ・テイル・フェイト・ヴィ・レイク君か?」

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