上と一緒に過ごすだけならまだ大丈夫だ。許容範囲というか想定範囲だから。厳しい生活になるのは當然だろうが、団した以上、そういう事態も想定しており、覚悟していたことだから。

が、アリシアはただの上ではない。以前好きだったの子の姉だ。

絶対に気まずくなる。なるに決まっている。それもレナードの方だけ一方的に。

だが彼は必死にそのを押し殺し――、

部下が上にする手本のような顔つきで――、

「――こ、こちらこそ、よろしく、お願いいたします」

「あらあら？　どうしたんですかぁ？　そんなに強張った顔をして」

「――相をしでかさないように、と、自分を今のうちに戒めておりました」

「張しているようですねぇ……。向こうに著いたら張をほぐしてあげましょうか？」

「…………ど、っ、どのように？」

「プライベートな話をすれば、上が相手でも親近を覚えるはずです。例えば、バナとか」

「………………」

無表のまま、額にダラダラと冷や汗を流しまくるレナード。

流石にアリシアも弄りすぎた自覚があったのか、ひとまず彼に対してはもうやめることにした。

「それと次に、アリス、シーリーンさん」

「「はい」」

「なにかしらの急時を除き、原則としてお泊りは止です」

「「…………えっ？」」

「拠點を分割する意味がなくなりますもの」

「「…………」」

「――――」

「「…………」」

「あらぁ？　返事は？」

「「っっ、了解いたしました！」」

いい返事が聞けて満足げに微笑むアリシア。

次いで自分で再確認するためか、テーブルの上にあった資料を手に持ち直す。

「それで向こうに到著し次第、各々にやってもらう任務ですが――まず、ロイさん」

「はい」

「詳しいことは資料に書いてありますが、摘要と、他の隊員にも絶対に知っていただきたいことを、この場で説明させていただきます」

「わかりました！」

「當然ですが、ロイさんの顔は向こうにも割れていると斷定した上で、今回の任務に臨んでください。一般市民が知っているかどうかは不明な部分も多いですが、間違いなく魔王軍の軍人、警邏けいら兵は知っているでしょう。つまり、見付かった時點で応援を呼ばれ、包囲され、一発アウトです」

「はい！」

「ロイさんは元王族で、しかも聖剣使い。自分たちの領土にいるなら、是が非でも討伐しにくるでしょう。當方の分隊は戦力としてかなり上澄みです。が、相手からすれば重要人を複數人、圧倒的低コストで処理するまたとない機會。そこで、これを効果的に、そして魔力反応を出さずにクリアするには理的な変裝が一番です」

「はい！」

「というわけで、裝してください」

「はい！　…………えっ？」

裝？　誰が？　自分？　本當に？

瞬間、ロイは今、自分はとんでもないことを了承してしまったのではないか、と、先刻のどこかの誰かと同じように、大量の冷や汗を流し始める。

「レナードさん」

「なんですか？」

「聞きましたよね、あなたのライバルが今、なんて返事したのかを」

「もちろんです。それにロイ、男に二言はないはずだよなァ？」

まるで天使のような微笑みを浮かべるアリシア。

そして最高に愉快そうな悪い笑みをロイに向けるレナード。

どうするどうするどうするどうするッッ！？

ロイは必死に裝を回避するすべを考えるが、無理だ。理由として、これは任務で、上の命令は絶対だから。それにそもそも、変裝そのものがダメというわけではないから。

が――、

それでも――、

「確かに、裝に功した時の効果は絶大です。魔を使わずに別を偽れるわけですから」

「はい、敵に捕捉される可能もかなり低くなります」

「でも、それは違和なく裝できたらの話です」

「と、言いますと？」

「ボクは顔どころか、割と筋が付いていますし、あと、顔でもないんです。それこそ――」

そこで一度だけ區切るロイ。

次にアリシアからレナードに視線を移すと――、

「先輩の方こそ裝するのに向いていると思います！　先輩も聖剣使いですし、なにかしらの変裝は必要のはずです！」

聲高らかに主張するロイ。

翻り、レナードはその主張を鼻で笑い――、

「オイオイ、ロイ、寢言は寢て言えよ。ナァ、アリス？」

賛同を求め、レナードはアリスにそれを促す。

が、しかし――、

「……そうなのよね。意外なことに、先輩の方が裝、似合いそうなのよね」

「…………はぁ？」

――意外にも、返ってきたのはロイの主張に対する賛同だった。

「うん、シィもそう思う！　初めて見た時、なんて言うのかな？　男裝の麗人みたいな男子學生、って思ったもん。ちょ、ちょっぴり怖かったけど……」

「ぶっちゃけ顔だよ！」

「コメントは控えさせていただきますね」

「同じくノーコメントですわ♪」

「レナードさま。もしよろしければわたくしに、レナードさまは顔ではありません！　と言え！　と、そのようにご命令くださいませっ」

「回答――事実を正しく認識するのは七星団の団員でなくても大切なこと。會議終了後、鏡を見ることを強くオススメする」

「レナード……、その……、なんだ……、それもお前の長所だと思えばいい。それこそロイの言うように、魔を使わずに別を偽れたら、自分に可能な任務の幅が広がるぞ……」

味方なんてどこにもいなかった。

「ですがロイさん、現実問題、レナードさんの方が顔ということと、ロイさんが変裝しなくても問題ないということは、同義ではありません。それに、私も無策でロイさんに裝をさせようなんて思っていませんので」

「と、言いますと……」

ロイは自分で自分のを、かなり筋質な方と認識していた。

それはアリシアだって理解しているはずなのに、その彼が無策ではないと言う。

思わず、ロイは生唾を呑んで嫌な予を誤魔化した。