同時刻――、

グロースロートのエリア２０のサブストリートにて――、

「やること終わったねぇ……、アーニャ」

「そうね……、油斷は大敵だけど、シャノンが作ったあれをあれするだけでいいなんて……」

「門限まであとどのくらい？」

「１９時までに家に帰れば怒らない、って姉さんも言っていたわ、シェリー」

片や長が低いのにかなりの巨で、お日様のように輝く金髪を、２つの三つ編みのお下げにしている。

赤いふちの眼鏡越しに黒目がちな大きな瞳、そして長くて繊細な睫まつげをいたずらに閉じて、何気なく開ける。神話の時代にしい天使のみで立していた種族の末裔にしてみれば、無自覚だとしても、瞬きのひとつにさえくるしいらしさを宿してしまうのが道理なのだろう。

片や長も高く、も前者ほどではないがらしく膨らんでいて、お月様のように瞬く金髪をツインテールにしており、銀のふちの眼鏡をかけているやはり。

かなり長いはずの髪は森を吹き抜ける爽やかな風のようにサラサラで、瞳はサファイアのように蒼く、捉えたさえ瞳と同じ彩に染め上げるような言葉にできない本能的な魅力があった。

前者はアイボリー、ニット生地、そしてミモレ丈のワンピースをにまとっており、さらにその上から空のストールを羽織っていた。もしかしたら、本人としては第二次徴のとして発育良好すぎる満なを隠しているのだろう。

が、ニットの生地は確かにゆったりしていてのラインを誤魔化していたが、所詮、それで隠れたのは正確なラインのみ。大きさはやわらかい生地の服を著ているからこそ、それにあわせ服の方が勝手にシワになったり張ったりして、結論を言えば、生地の種類でどうにかできる大きさのではなかった。

どこからどう見てもが服の生地を押し上げて山を作っている。

それどころか、の正確なラインがわからなくなったことにより、が実際よりもさらに視覚的にやわらかそうに見え、異はもちろん、同でさえこの金髪のを視界に収めるだけでわずかに顔を赤らめてしまうぐらいだ。

次いで、靴は革製で、その革靴とミモレ丈のスカートの隙間に生じた疑似絶対領域、そこからは目が眩むほど白な、顔低長巨金髪の生ふくらはぎが覗けてしまっていた。

１０ｍ以上離れて通り過ぎても網に灼き付くほど、瑞々しそうで、やわらかそうで、途轍もなくしくて、常世全てのありとあらゆる老い、未來永劫に進み続ける時の流れさえ拒絶し、凍結し、前人未到の聖域にのみ深々と積もり、一抹の灰さえありえない初雪のみで立する雪原さえ、彼のは連想させた。

一方、もう１人のはハイウエストで紺のサーキュラースカート、後者は穿いていたそれのコルセットの部分に襟付きのブラウスをインしており、いわゆるロイの前世において、貞を殺す服に相當するファッションをしていた。

スカートの紺のニーソックスの黒の間。そこに存在する真正絶対領域には、初雪のように潔癖な純白の代わりに、もはや純水さえイメージするガラスのような明があった。

白ではある。とはいえ、エルフの皮が明なわけがない。

なのに彼の珠玉しゅぎょくのような白なは、森の泉の澄んだ湧水に匹敵するぐらい明だった。とどのつまり、視覚による報と脳が抱く想に齟齬が発生するレベル。それほどでに彼の太ももは水晶のようでもあったのだが、強く摑んだら折れてしまいそうな手首、繊細で一本一本がアートレベルの白い指、そして例えば吸鬼なら、どこの誰であろうと吸さえしなくていいから、それでも牙を突き立ててみたいとを焦がす華奢な首筋も、ただの神クラスのしさであった。

変裝しているものの、２人はシーリーンとアリスだった。

Ｃ班は今、なんと呑気なことか、敵軍の領土の中でも比較的大きめな都市、そのサブストリートを普通に歩いていた。いや、本當にこんなじでいいのだろうか……、という懸念は當然のように両者、抱いていたのだが……。

「よしっ」

「シェリー？」

「アーニャ、もう一度『デート』しよう？」

「そうね。ふふっ、今度はどこに行く？」

「う～ん、市場マーケットに買い？　夕食の材料を買わなくちゃ♡」

「了解よ、じゃあ、行きましょうか？」

と、アリスはシーリーンに手を差し出した。

すると、シーリーンは一瞬、し驚いたような表《かお》をしたが、すぐに嬉しそうな微笑んで、同が相手でも頬に乙を差して、その手をそっと取ってみせた。

「市場マーケットはここから西だから……」

「そこの十字路を左だね♪」

意外にもアリスの方がシーリーンにエスコートされながら、２人はデート――敵地調査をもう一度することに。

結論から言えばシーリーンとアリスもマリアと似たようなじで、この２人の場合は実際に地図の修正に取りかかったのだが、蓋を開けてみれば、先行部隊から引き継いだ地図に特に修正箇所がなかったのだ。

アリシアは今回、的になっているというわけではないが、名譽挽回のためにいつも以上に慎重に、合理的に任務に臨んでいるようだった。無論、慎重になりすぎて任務に遅れが生じる、ということはなかったが――、とどのつまり、いつも以上に慎重になった【金牛】がコッソリ魔を使っても、先行部隊が洗脳や、それに類似するなにかをけている痕跡はなかったのである。

よってアリシアは「これは前振り？　それとも任務が順調であることの証明？　私のいつものポンコツが発揮させて、なにかを見落としたパターンでしょうか？　それとも存在しないモノを証明しようとして、逆にポンコツしているパターンでしょうか？　果たして、自分の実力を信用できなくなっているのか、はたまた、先行部隊のことを信用できなくなっているのか。あらあら……、だいぶマズイ神狀態な気が……」と上特有の悩みをブツブツ言っていた。

と、いうわけで、ウソ偽りなく地図に修正を加える必要はなかった上に、ロイの道によって諜報活も予定より早く進んでいたので、２人はより正確に、このエリアの構造を理解できる余裕があった。

今ではもう、リスク回避の必要がなければ、というありえない仮定の話ではあるが、２人がこの街で路地裏などを通っても、迷子になる可能は限りなく低くなっていたのである。

「著いた！」

「えぇ、それで、今夜はなにを作ってくれるのかしら？」

「とりあえず、値段を見て決めようかなぁ、って」

「シェリーは良妻賢母になりそうね」

石造りの建に石畳の地面。率直に言うとグーテランドの王都のような西洋の街並みを進みながら、シーリーンは２人分の獻立を考える。

この一帯は民家の１階部分が屋なり、魚屋なり、果屋なりになっていて、２階や３階はその店の経営者の民家になっているようだった。稀に４階建てや５階建ての店もあり、さらには２階部分も表から通じている階段から行けるカフェやレストランを構え、１階で売っている食材を使って作った料理を振舞う、なんて建もあった。

そしてシーリーンとアリスが再度、十字路に差し當たると――、

「チェス盤みたいに區畫整理されているからわかりやすいね」

「そう？　私は初見だったら、何回同じような十字路にぶつかって、何回同じような建の前を通るのよ……、って嘆くけれど」

「えへへ、ならシェリーがエスコートしてあげるね？」

「えぇ、お手らかに」

はにかみながらシーリーンは上目遣いでアリスに訊き、アリスは靜かに、穏やかに微笑みながら、親友の手を握る手に、し力をれて、言葉以外でもそれに応える。

先刻から今、この瞬間まで、２人は手を繋ぎ続けていたのだが、再度、シーリーンがアリスの手を引っ張って、彼のことを先導し始めた。

（私、最近冷えだけど――、シィの手って、私よりもやわらかいし、溫かくて落ち著くわね。こっちにきてから常時、張しっぱなしだし、し眠気まで出てきちゃった――）

（アリスの手――、ひんやりしていてし気持ちいいかも。それに、実はシィよりも華奢で――、いつか――、シィの方がアリスのことを守れたらいいな）

無言狀態。けれど居心地が悪いというわけではない。

し會話が続かないぐらいで気まずくなってしまう段階を、とっくに２人は通り過ぎているのだから。

ふと、シーリーンが、アリスにはなにか、が溫まるような料理を作ってあげようかな、と、思ったその時――、

――シーリーンの稚い黒目がちな瞳にとある食材が映った。

「あっ、アーニャ、あのお店っ」

「なにかいいでもあったのかしら？」

「うん！」

「なら、行きましょう」

東西南北に道がびる十字路の北東に位置する建。

そこはどうやら青果店のようで、シェードを展開してストリートに割とはみ出している陳列棚には、ニンジン、ダイコン、キャベツ、レタス、ブロッコリー、カブ、トマト、キュウリ、カボチャなどなど、多種多様な売りの試食ができるようになっていた。

が、そこを通り過ぎてシーリーンは店の奧にっていく。

割と普通の店――どころか清潔で、明るくて、売り場面積も予想以上に広く、なんならどこかに設置されているアーティファクトから嬉遊曲ディヴェルティメントまで聞こえてきた。

「あら！　姉妹かい？　綺麗な金髪だねぇ！」

どうやら、と、いうより、確実にここの従業員だろう。

年齢は恐らく（種族を考慮しても）６０代前半で、シワがだいぶ目立っている初老のだったが、わりかし元気そうで、初対面の相手にも臆せずかなり笑うドワーフだった。