（さてさて、上手いことアリスから見取り図を、複數枚、書かせていたそれの１枚をけ取ることはできました。自分で言うのもアレですが、私たちはもとから侯爵家の娘ですし、ロイさんもいつの間にか王殿下の夫。ですが、覚がマヒしかけているとはいえ、伯爵も一般大衆から見れば立派な貴族。利用しない手はありません）

魔王、ラグナと殺し合った時にけた実力の封印。

それによってアリシアは今、アリスの縁者とは想像し難いの姿を常日頃からしていた。

確かに瞳は蒼いものの、髪は金ではなくダークブラウン、そしてエルフ特有の長くて尖った耳も人間のそれに。

そう、長のせいでアリスの姉であるとイメージできないのではない。より本的に、今の彼はアリスと縁関係にあるとさえ、初対面の相手なら認識できるはずがないだろう。

ゆえに、それを今回は利用する。

魔王にけた封印で、エリア２０をしてみせる。

「ここ、ですわねぇ」

狀態のアリシアが辿り著いた場所には、グランツ・フォン・クリーク伯爵の屋敷とは別の豪邸が建っていた。

そしてアリシアがその敷地に一歩、足を踏みれると――、

「そこの、ここはハーゼ・フォン・ミッターナハト伯爵家の別荘だ。どのような用件で敷地に足を踏みれた？」

「あらあら、私は正真正銘の客人ですのに、メイドがそのような口を利いていいんですか？」

「……君が？」

「々、急ぎのお使いを依頼されたため、なりを整えるよりも報告を優先したのですが？」

名も知れぬメイドはアリシアに対し、頭の上から爪先まで視線を下ろす。

類は確かに良質なモノを持っているようだが、微妙に汚れが著いていたり、生地自が痛んでいたりしていた。

無論、それはアリシアが意図的に演出してみせたモノなのだが、眼前の使用人はそれを視界に収め、１つの結論を出してみせる。

即ち、自分の主人に『優秀である』と認識され、積極的に使われているなのだろう、と。

「……失禮いたしました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか？」

「名前というよりは、そちらが私に付けた番號ですが――７４９です」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

「えぇ、ご理解いただけたようでなによりです」

メイドに案されてアリシアは屋敷の中へ。

そしてその廊下を歩いている最中――、

「ラウラ、そちらの方は誰ッスか？」

「エルゼお嬢様、彼はご主人様の使いの方です」

「そうなんッスね！　ご苦労様ッス」

「ありがとうございます。エルゼ様」

この前、ロイの匂いを嗅いで學院のトイレで的に大暴走をしてしまったエルゼ。

流石に男が近くにいないなら我を忘れて発することもないらしく、アリシアを上から目線とはいえ労うと、すぐにどこへ行ってしまった。

エルゼの気配が消えるのを待ってから、アリシアたちはキチンと下げていた頭を上げると、再び廊下を進みだす。

そして――、

「待っていましたよ、７４９。例のは？」

「こちらに」

「そう、ありがとう。あと、ラウラはもう下がってちょうだい」

「かしこまりました。失禮いたします」

――數分後、アリシアはマルガレーテ・ハーゼ・フォン・ミッターナハト伯爵と、彼の自室で相対する。

娘のエルゼと同様、褐に、空と銀を混ぜて水で薄めたような彩のセミロング。

また、明らかに出産経験があるはずなのに、はまるで初等教育の低學年の子供並に小さかった。エルゼでさえ１３０ｃｍ程度の長があるはずなのに、これでは彼の妹にしか見えない。

そして長だけがのように見えるわけではない。魔ゆえに、他の種族と比較して若さを保てるのか、あるいは自分の好きな容姿になれるスキルでもあるのだろう。

要するに、顔の方もまさにのようなそれだった。

「では、こちらへ」

「失禮いたします」

ラウラと呼ばれたメイドが退室したことにより、そこは完璧に２人だけの空間になっていた。

アリシアは靜かに歩み寄り、サキュバスの尾と羽を何気なしに揺らすマルガレーテ、彼と執務機越しに向かい合うと、先刻、例のと表現された紙を手渡す。

続いて、マルガレーテが椅子に座りながらそれに目を通すと――、

「７４９、あなた、番號じゃなくて名前は？」

「アリーセです」

マルガレーテが問う。

それにアリシアは簡潔に答えた。

「正直、信じられません」

「と、仰いますと？」

「いえ、あなたの仕事に文句があるわけではなく、あなたほど優秀な児がいることに驚いているだけです」

「お褒めいただき、大変栄です」

「と、いうことで、今よりあなたのことを、番號ではなく、名前で呼びます。かまいませんね？」

「もちろんです。どうぞ、マルガレーテ・ハーゼ・フォン・ミッターナハト伯爵の意のままに」

軽く、しかし見たらわかる程度に、アリシアは首《こうべ》を垂れた。

そしてマルガレーテが「よろしい」と頭を上げることを許すと、アリシアはそのとおりに。

「ひとまずこれで、グランツ・フォン・クリーク伯爵の屋敷への侵が容易《たやす》くなり、繋がりが持てる、ということでよろしいでしょうか？　政治的にも、的にも」

「えぇ……、いえ、魔で貴族のこちらが、児で下請けのあなたに言うことではありませんが、そういうことを覚えるの、早くない？」

「決してそのようなことはないかと。妹なんてもう、いいところの殿方に嫁ぎましたので」

「えぇ……、いえ、これも子供に危険なことをやらせているこちらが言うことではありませんが、そうね……、まぁ、悔しいわよね……」

「はい、全くです」

なぜまだ２０歳にもなっていないアリスが、イチャイチャまっしぐらな活を送っているのに、私にはカレシができる気配さえないのか！　と、アリシアは心、全力で嘆いていた。