《クラウンクレイド》『5-2・Action』
5-2
その男はゾンビではないらしい。アロハシャツのところどころに黒い染みが出來ている事を除けば、何の問題もなさそうであった。安心して弘人の後ろまで歩いてきた香苗を見て、男は香苗にも聲をかける。
「後ろの嬢ちゃんも無事か? どっか怪我してないか?」
「怪我はないです、平気です」
「連中に噛まれたらアウトみたいだからな」
男はそう言った。彼もまた、ゾンビが他の人間に噛み付き、噛み付かれた人間がゾンビに変わる景を見てきたようである。駅前で見た景、そしてゾンビにありがちな設定、それらの要素から、ゾンビに噛まれることがきっかけで街中の人間がゾンビとなったと、弘人もそう考えていた。
男は自分の元を軽く叩く。
「俺は鷹橋―たかはし―だ」
「三奈瀬弘人です。こっちは樹村香苗」
鷹橋は弘人の持っている金屬バットをチラリと目をやった。
「よく無事だったな」
「まぁ、なんとか。運が良かったみたいで」
「俺は咄嗟にトイレに隠れてたんだが、隨分靜かになったからな。様子を見に來た。とりあえず、下の階は駄目だ。ゾンビ共が大量に居やがる」
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「ゾンビ?」
香苗が鷹橋の言葉に首を傾げた。ゾンビという表現に的を得なかったようである。香苗がゲームをしているようなイメージは確かに無かった。
「人を食う化けなんてゾンビとしか言いようがねぇ。とにかくゾンビ共は夜になって大人しくなったみたいだな。殆どいてねぇ。それにちょっとした段差に苦戦するみたいでな、5階まで直ぐに上がっては來ねぇだろう」
「安心しました」
「ただ、此処にいる訳にもいかねぇだろ」
食料もなく、退路もない。この場所に居続けるのは得策ではないし、現実的でもないと鷹橋は言った。鷹橋は3階から上がってきたらしく、一つ下の階である4階にゾンビがいるのは確認したと言う。
エスカレーターが停止しているが、ゾンビがこの5階まで上ってくる可能は皆無とは言い切れない。それならば、原因は不明ではあるもののゾンビのきが止まっている今のに、他の場所まで出するべきだと鷹橋は語った。
人の多い駅前からは離れるべきだと言う。鷹橋の拠に同意はしつつも、弘人は口を挾む。
「助けが來るのを待たない、と?」
「街中あんな狀況じゃ期待出來ねぇ。ずっと攜帯電話も通じねぇし。俺が思うに、ゾンビ共が至る所に現れたんじゃねーか? 最初の騒ぎから半日は経ってんだ。警察だとか自衛隊だとか何かしらきがあっても良い筈だろ。自衛隊の駐屯地だって県にあるんだ」
「的には何をするつもりですか?」
「地下駐車場に俺の車がある。それで駅前から出する。エスカレーターは止まってたが電気が止まってるわけじゃねぇ。エレベ-タ-で地下駐車場まで一気に行く」
「地下駐車場にもゾンビは居る筈だと思いますが」
「ゾンビ共の足の速さなら逃げ切れる。車の置いた場所も覚えてるから走り抜けるだけだ」
どうする、と鷹橋は弘人に問いかけた。鷹橋の案に乗るかどうかを聞いているのだと分かった。
弘人は鷹橋の意見に賛ではあった。現狀、下の階にゾンビがいるのは確かであり、5階まで彼等が登ってこないという保証は確かにない。ここまで救助が來るのが、何日後になるのかも見通しは付かない。
そして何よりも、車とそれを運転できる人間の存在は大きいと思えた。
仮に鷹橋の危懼している通り、ゾンビの発生が局地的ではなく大規模なものであるならば、何処かへ離する必要がある。ゾンビが大量発生するであろう人口集地を避け、出來れば住人自が居ない様な僻地まで、食料やその他の生活必需品を確保しつつ向かわなければならないのである。それを何の移手段も無く、高校生の自分と大學生の香苗だけでし遂げるのは、不可能に思えた。
「分かりました。こんな狀況です、協力しなくては」
「ちょっと待って、弘人君。危険だと思うの」
「香苗、俺は鷹橋さんの考えに賛だ。此処にいても危険なのは変わりないと思う」
弘人の強い語調に、香苗は渋々といった様子で頷いた。それを見ていた鷹橋が指を鳴らす。彼はエレベーターの方へ親指を立てると、口の片方を持ち上げて笑った。決まりだな、と言った彼の言葉に弘人は頷く。
弘人達はフロアを移しエレベーターのドアの前まで來る。鷹橋がエレベーターのボタンを押した。下を向いた矢印のランプが點燈する。重低音が扉の向こう側から聞こえて、鷹橋の言葉通りエレベーターはまだ生きているのだと分かった。
2階に停止していたらしいエレベーターが徐々に上がってくるのを、ランプの點滅が示している。それを見て、弘人は気が付いた可能を口にする。
「もし、エレベーターの中にゾンビがいたら?」
「いるか?」
「可能としては」
「大丈夫だろ」
弘人の心配を余所に、鷹橋は笑った。しかし、弘人はそれに答えられなかった。
仮に店にゾンビがってきたら、エレベーターで逃げようとするのが心ではないだろうか。何かのゲームで見たシーンを弘人は連想してしまう。こういう時、呼んだエレベーターにはゾンビで溢れていて、扉が開くと同時に溢れ出す。そんなシーンを見た事がある気がして、その記憶が何か予めいたものであるように、何度も脳裏を過る。
エレベーターが5階に到著したのをベルの音が告げた。ゆっくりとりながら開くドアの向こう側から。
に塗れた腕がびた。
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