《クラウンクレイド》『6-5・亀裂』

6-5

職員室中の機の引き出しを引っくり返しても、見つかったのは先程の菓子類だけだった。空振りではなかったものの、今後の事を考えると明らかに足りない。

小野間君は何処から見つけてきた大振りのカッタ-とガムテ-プを持っていた。バリケ-ドの補強等に使えるだろうか。

教室に戻る事を小野間君に伝えると彼はあっさりと同意して、私はし拍子抜けする。

「あのさ、佳東さんに、もうし優しく出來ないかな」

「センパイにそれ言われる筋合いあるんすか」

私の一言で、小野間君が不機嫌そうに、職員室の端まで歩いていってしまった。

先程の彼とのやり取りで、彼が佳東さんに強く當たる理由がし分かった気がした。きっと不安なのだと思う。

佳東さんが理解できない力を使っている事。それを目の當たりにした彼の反応は、魔法を知らない人間が魔法を目の當たりにすれば、反応としては至極當然のだと思う。明瀬ちゃんの反応が普通ではないのであって、魔法とはこの社會において異質な存在でしかない。この社會は魔法を捨てて発達してきたのだから。

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「鍵閉まってたね」

職員室の奧、非常階段に出る為の扉の前で私はそう言った。非常口の鍵が職員室の側から閉められている。

外の非常階段を使わずに來て正解だったという事になる。側からその鍵を開けて、音を立てない様に、小野間君がゆっくりと扉を開いた。

扉を開け、顔を出して外の様子を伺っていた小野間君が私に向かって手で合図した。遅れてゾンビの唸り聲が聞こえてくる。小野間君が先に行って様子を見に行った。數十秒後、彼は靜かに職員室の中に戻ってくる。

「様子見てきたんすけど、下に居るだけっすね」

現在私達がいる2階から3階にかけての踴り場にはゾンビは居ないらしい。非常階段に夜間燈が點いていた為に確認出來たらしく、2階から1階にかけての踴り場にゾンビが2居るようだった。

ゾンビの階段を上がる能力からして、追いつかれる危険は低いが、何らかのきっかけでゾンビが3階に押し寄せてくるのは避けたい。そう言うと小野間君は納得して頷く。

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「音で導しよう」

私は竹刀袋から竹刀を抜き出した。用があるのは、竹刀袋に仕舞ってある魔法の杖の方であったので、まぁ仕方が無いかと私は決意する。

扉を開けて踴り場に出た。階段の下を覗き込むと、薄暗い夜間燈の下に、ゾンビが2確認できた。それから目を離さないよう後ずさり、踴り場の壁まで後退する。

「投げるよ」

持っていた竹刀を思い切り振りかぶり、遠くの地面に向かって思い切り放り投げた。空を切る音が短く鳴って、し遅れてから、竹刀が転がる乾いた音が鳴る。

その音に反応して、踴り場に居た2のゾンビがき聲を上げた。嫌という程聞いてきた彼等のき聲に、私達は息を殺す。鼓が早くなって鼓を叩く。私は必死な心持で、彼等がき出すのを願った。

竹刀が地面を転がる音に反応してゾンビがき出した。あのたどたどしいきで、ゆっくりと階段を降りていく。その隙に私と小野間君は3階まで忍び足で上がった。急き立ててくる気持ちと、足音を抑えようとする相反する気持ちがせめぎ合って。呼吸を止めたまま3階の非常口まで上り切った。

震える手で非常扉をゆっくりと開く。金屬の軋む音が夜の冷たい空気を切り裂いて、彼等に聞こえないことを強く願った。り込むように扉を抜けて、校舎に戻る。非常扉が閉まり切って、その音が靜まり返った廊下に反響していく。

戻ってきた途端に、張の糸が途切れた。止めていた息を、荒々しく吐き出す。

「教室戻りましょう、センパイ」

「うん、おつかれさま」

小野間君の佳東さんへの態度は気になるが、彼自はそこまで悪い人間でないという印象に変わりつつあった。彼が佳東さんへと何かと強く當たる原因は、決して苛立ちや不安だけではないように思えた。けれども、それが何であるのかまでは踏み込めなくて。

私が先に教室へと戻ろうと、り口に築いた機のバリケ-ドの下にを潛らせる。教室の中に戻ると、葉山君が佳東さんへと摑みかかっている所だった。

「ちょっと!」

明瀬ちゃんが葉山君を止めようと彼の腕を摑むが、振りほどかれて床に倒れる。それを見て、頭にが上り私は怒鳴る。

「何やってるの!?」

「どいつもこいつも言う事を聞かない奴ばっかりだ! このプランで間違いない筈なんだ!」

私がそのまま葉山君へと向かっていったのを見てか、彼は摑んでいた佳東さんを突き放した。葉山君の言葉に明瀬ちゃんが食い下がる。

「そもそも教室に籠城する必要がないじゃんか。さっきも言ったけど、バリケードを作るなら防火扉の前に作るべきでしょ」

「明瀬ちゃん、何があったの?」

「3階にゾンビがって來ないと思ったから、私達が教室を出てトイレに行ったんだけど」

そこに葉山君が反対して、逆上したという事らしい。葉山君に対して明瀬ちゃんがバリケードについての苦言を呈した事も、引っかかったようだ。明瀬ちゃんの考えとしては3階の防火扉を開けてゾンビがってくる可能は低いと踏んでいるらしい。

故にバリケードを教室の前に設置するよりも、侵経路となる防火扉を塞ぐべきだという事だった。教室に籠城する形では退路が塞がれてしまう。言われてみれば明瀬ちゃんの言う通りだと思った。そこまで私達では気が回らなかった。

「バケツなんてデリカシーなさすぎっしょ」

「そんなもの、生存に関係ないだろう」

明瀬ちゃんと葉山君の口論を聞いていた小野間君が、佳東さんを睨んだまま呟く。

「水道生きてんなら、結局、佳東に価値なんてなかったじゃねぇか」

小野間君の言葉に私は反論したかったが、抱えていた菓子の缶を音を立てて床に置いた。私の行に全員が注目して、口論は途切れた。

私達は菓子を分配して、職員室の現狀を話した。

職員室の非常口の鍵は開けた為、3階の非常口から屋外非常階段を通じて職員室まで降りれる事が可能になった。職員室の廊下側のり口には側から鍵をかけてある。非常階段のドアは重たいため、ゾンビが職員室に侵出來ない筈だった。

「2階の非常扉はゾンビには開けられないだろうし、職員室の扉は側から鍵をかけてあるから」

「2階に降りるのに非常階段経由のルートが取れる」

つまり3階から非常階段を利用して職員室から校舎の2階に侵する安全なル-トが確保できたということになる。明日、小野間君と葉山君がそのルートを使用して校舎の探索を行くと言う。葉山君が探索に行くと言ったのは、し以外に思えた。心境の変化だろうか。探索場所については明日話すことにして、私達は眠りにつくことにした。張の連続が、頭痛という形で尾を引いた。

「あのさ、禱」

鞄を枕に私が床に橫たわると、明瀬ちゃんが鞄を抱えて傍に來た。私の鞄の橫に鞄を並べ、明瀬ちゃんが橫に寢転がった。彼の顔が目の前にあって、私は目を伏せる。どんな言葉をかければ良いのか分からなかった。

突然、両手を取られて、握り締められて。彼の指が私の指先をなぞる。優しくりながら私に向かって呟く。

「禱の指って細いね」

「そうかな」

「……そうだよ。本當に」

【6章・荒天、または豪雨の魔/禱SIDE 完】

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