《クラウンクレイド》『7-1・Sprinkler』
【7章・兆しを宿す者/弘人SIDE】
7-1
パンデミック発生2日目。
鷹橋が夜通し車を飛ばし続けて、弘人達はようやく市街地を抜けた。街中が混していて、至る所で渋滯による足止めを食らった。渋滯と括れる様な生易しい事態では無かったが。
ゾンビによるパニックで、一斉に逃げ出そうとした人々によって通渋滯が発生し、そこにゾンビの群れが襲いかかった様子だった。事故車の山と、其処から這い出てくるゾンビで街は埋め盡くされていた。鷹橋が懸念していた様に、街中の凄慘な狀況を見ると、程確かに救助はめそうもなかった。
國道を外れ農地の真ん中に鷹橋は車を止めた。住宅が集している場所がまばらに點在しているくらいで、大方は畑である。人影の一つも無かった。
鷹橋が空を仰いで、疲れ果てた様子で深く息を吐く。
「疲労の覚ってのは厄介なもんだな……」
「大丈夫ですか?」
「いや、流石にが限界なんでな。後ろの嬢ちゃん達を起こしてくれ」
Advertisement
鷹橋に言われて、弘人が肩越しに後部座席を見ると、後ろの座席の三人は眠りに落ちていた。梨絵を抱き寄せたまま眠る香苗の姿に、弘人は安心を覚える。
「坊主も寢ておけるに寢といた方がいい。あれだけショックなもの見て、気が張りっぱなしだったんだろ」
「なんか、気が張っちゃってるのか疲れてないんですよ」
「俺は気力の限界だ、仮眠を取るから大學生の嬢ちゃんに見張りを頼んでくれ」
「ここまで助かりました」
「途中何度か死ぬかと思ったがな。それよりこれからが問題だろ」
鷹橋は言葉の途中で欠が混ざり始め、弘人が視線を向けると彼は既に目を閉じていた。両腕を組んで首を傾げ、暫くすると寢息に変わる。弘人が振り返って香苗を起こそうとすると、目を覚ましていた桜と目が合った。彼は窓の外を指して言う。
「あたしがやるわよ、見張り」
そう言って桜が車を出ていき、それを追いかけて弘人も車を降りた。車は道の真ん中で停車しており、畑に四方を囲まれている為に見通しが良かった。ゾンビの歩行速度なら向かってきても直ぐに対応できる。畑の景とゾンビというものは酷く似合わないものだろうな、と弘人は思った。
Advertisement
車を降りて桜の背中に話しかける。彼はやはり、その背中にチェーンソーを背負っていた。
「名前聞いただけで終わっちゃったよな。桜だよな、高校生?」
「中學2年」
桜は想無くそう答えた。隨分と年下であった。それを考慮すると生意気な言葉遣いである。
「そのチェーンソーって、何なんだよ」
「護用」
騒だな、という言葉を弘人は呑み込んだ。彼がチェーンソーを振り回してゾンビを倒すというのは、どうもイメージが出來ない。確かに、彼は中學二年生にしては高長であった。170程はあるだろう。しかし、それと、チェーンソーを振り回してゾンビを薙ぎ倒すのはまた別問題である。
桜が、人影一つない地平線を眺めながら、弘人に問いかける。
「で、これからどうするつもり?」
「市街地には戻れない。正直、他の県も似たような狀況だと思う」
このゾンビ騒が局地的に発生しているとは思えないと弘人は考え直していた。攜帯が通じない事を考えると、基地局か何かが被害をけている可能があり、そうなるとこのゾンビ騒は同時多発染、つまりパンデミックである。
そうなれば、より人口の多い県庁所在地や、同じ関東の東京都の方が、ゾンビの染が拡がる可能が高い。
そこまで考えてから、桜を案じることまで考えが回らなかった事を弘人は後悔した。
「桜の家は何処にあるんだ?」
「なによ?」
弘人が言い淀んだ言葉を察してか、桜は言う。
「此処から遠いし、多分もう避難していると思う。心配してくれてるの?」
「そりゃ、まぁ」
「平気。なんていうか、その、強い人だから」
それはし奇妙な言い方であるように弘人には思えた。桜が弘人に問い返す。
「そっちは?」
「姉が県にいる」
「どんな人なの?」
「今シルムコーポレーションって所で研究者やってる。滅多に家に帰ってこないんだよな」
「研究所とかの方が、むしろ安全かもね」
姉であれば、今回のゾンビ騒の事も分かるのだろうか、と弘人は思った。弘人の姉は2回り程、年が離れている。一時期、世界を飛び回っていたが、數年前から地元に戻ってきて製薬會社のシルムコーポレーションに就職した。
シルムコーポレーションは県に研究所を持つ大手製薬會社である。弘人の姉は経験を買われ、シルムコーポレーションにて染癥等の研究について関わっている、と弘人は聞いていた。
「染……」
一晩明けて、冷靜な思考を弘人はし取り戻し始めていた。この異常な事態を分析しようとする位には。
人間がゾンビ化する原理はともかく、その原因が「染」という形を取っているのは確かであった。ゾンビに噛まれることで、噛まれた人間はゾンビになる。そしてもう一つ、染と呼ぶべき現象を弘人は目撃している。
駅前で目撃したが破裂した男。その男から飛び散ったがかかったことで、近くにいた人間がゾンビ化したように思えた。染の為に周囲にをばらまくゾンビだったということではないだろうか。
仮に「スプリンクラー」と呼ぶが、 そのスプリンクラーが各地に同時に発生したならば、広範囲に及ぶ染の切っ掛けも説明できる。だが、そのスプリンクラーがどうして現れたのかが分からなかった。
「ゾンビの原因、姉さんに會えば分かるのかもしれない」
「おうち……かえるの?」
弘人が聞いたいその聲は、梨絵のものだった。香苗と手を繋いで車から降りてきたところであった。香苗は、タイミングが悪かった事を後悔している様子で説明の様に言う。
「その……外の風に當たった方が良いと思って」
「ママはどこ? お兄ちゃんは?」
香苗が梨絵の側にしゃがみ込んで、その頬に手を當てる。
「そうだね、ママに會いに行こうね」
「お兄ちゃんの服と一緒」
梨絵がそう言って、弘人の制服を指差した。梨絵の兄は浦高校の生徒という事らしい。梨絵は彼の苗字を「葉山」と言っていたが、弘人には思い當たる節が無かった。
「お兄ちゃんに會いたいよ。お家帰りたいよ」
香苗が何も言わずに梨絵の手を握った。
梨絵はあの地下駐車場の車に取り殘されていた。恐らく彼の母親は既に、とまで考えが及んで弘人は天を仰ぐ。此処にいる誰もが同じだと思った。誰かを失い、誰かに會いたくて堪らない筈だろうと。
車の窓が開いて、鷹橋が弘人達に呼びかけた。
「ぼちぼち行くか。ナビだとこの先にコンビニがある。そこで食料を確保するぞ」
「そこから何処へ向かうんですか」
「とにかく人が居ない所だ」
【書籍化&コミカライズ】小動物系令嬢は氷の王子に溺愛される
『氷の王子』と呼ばれるザヴァンニ王國第一王子ウィリアム・ザヴァンニ。 自分より弱い者に護られるなど考えられないと、実力で近衛騎士団副団長まで登り詰め、育成を始めた彼には浮いた噂一つなく。それによって心配した國王と王妃によって、ザヴァンニ王國の適齢期である伯爵家以上の令嬢達が集められ……。 視線を合わせることなく『コレでいい』と言われた伯爵令嬢は、いきなり第一王子の婚約者にされてしまいましたとさ。 ……って、そんなの納得出來ません。 何で私なんですか〜(泣) 【書籍化】ビーズログ文庫様にて 2020年5月15日、1巻発売 2020年11月14日、2巻発売 2021年6月15日、3巻発売 2022年1月15日、4巻発売 【コミカライズ】フロースコミック様にて 2022年1月17日、1巻発売 【金曜日更新】 ComicWalker https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FL00202221010000_68/ 【金曜日更新】 ニコニコ靜畫https://seiga.nicovideo.jp/comic/52924
8 160蒼空の守護
蒼総諸島が先々帝により統一されてから百十余年、宮家間の軍拡競爭、対立がありながらも「蒼の國」は戦いのない平穏な日々が続いていた。危ういバランスの中で保たれてきた平和の歴史は、1隻の船の出現によって大きく動き始める。激動の時代の中を生きる、1人の姫の數奇な人生を描く長編大河小説。
8 141最強転生者の異世界無雙
勉強もスポーツもそくなくこなす高校生、悠馬。 そんな彼の人生は、唐突な事故で終わりを迎えてしまう。 だが、いろいろあって彼は異世界に転生することとなった。 悠馬の才能は異世界で発揮されるものだった! 悠馬改めユーマの二度目の人生が今、始まる! ※主人公は基本的に他人を助けようとするけど、どうでもいいことで面倒臭いと感じたら冷たくなることもあります。 ※殘酷な描寫は保険です。 ※アドバイスを下さるとうれしいです。 ※主人公は苦戦するかも怪しいレベルでチートにしたいと思ってます。苦手な方はご遠慮ください。 ※主人公はヘタレ系ではありません。
8 66魂喰のカイト
――《ユニークスキル【魂喰】を獲得しました》 通り魔に刺され、死んだはずだった若手社會人、時雨海人は、気がつくと暗闇の中を流されていた。 その暗闇の中で見つけた一際目立つ光の塊の群れ。 塊の一つに觸れてみると、なにやらスキルを獲得した模様。 貰えるものは貰っておけ。 死んだ直後であるせいなのか、はたまた摩訶不思議な現象に合っているせいなのか、警戒もせず、次々と光の塊に觸れてゆく。 こうして數多のスキルを手に入れた海人だったが、ここで異変が起きる。 目の前に塊ではない、辺りの暗闇を照らすかのような光が差し込んできたのだ。 海人は突如現れた光に吸い込まれて行き――。 ※なろう様に直接投稿しています。 ※タイトル変更しました。 『ユニークスキル【魂喰】で半神人になったので地上に降り立ちます』→『元人間な半神人のギフトライフ!』→『魂喰のカイト』
8 74神話の神とモテない天才~異世界で神となる~
成績優秀、スポーツ萬能の高校生、服部豊佳は何故かモテなかった。このつまらない現実世界に 飽きていて、ハーレムな異世界に行きたいと思っていたら、 神の手違いで死んでしまい、異世界に転生した! そして転生した先は何と、神様たちがいる世界だった。そこの神様は神力という 特殊な能力を持っていて、服部豊佳も神力を授かることに!? ※実際の神話とは家系、神徳などが異なることがあります。 ※この小説では古事記を參考にしております。 ※この小説は気分次第で書いてるのであらすじが変わるかもしれません。 ※基本的にご都合主義なのでご了承を。 この小説の更新情報についてはこちらですhttps://twitter.com/minarin_narou
8 108神は思った。人類の7割をアホにして、楽しく見守ろうと
神は望んだ、爭いのない平和な世界を 神は望んだ、笑顔の絶えない世界を 神は思った、ではどうするべきか そして神は創った、人類の7割がアホの子の世界を
8 160