《クラウンクレイド》『10-3・奇縁』

10-3

私の目の前に矢野ちゃんの姿があって。學校の教室の中で。

それで、今、自分が見ているこの景が夢であると直ぐに気が付いた。既に過去のになってしまった、いつも通りの教室の景、そこには矢野ちゃんと私しか居なくて。

夢の中の矢野ちゃんは、いつのか日と同じ制服姿で、無表のまま立っていた。彼の視線は私を見據えていて、何の言葉も出せなかった。

これは夢だ。矢野ちゃんはもう居ない。あの日、私の前で、死んだのだから。

自分にそれを何度言い聞かせても、目の前のその姿に、私の心はれる。元にこみ上げてくる重たい覚が、私の首を締める。

「禱はさ」

その聲は、矢野ちゃんが口を開いているのに、そこから響いてきた様に聞こえなかった。何処かもっと別の場所、もっと私の近くから聞こえてくるようだった。夢の中の矢野ちゃんの聲は、本人のその聲と遜なく。

「あの時、私を見捨てたよね」

その言葉に、私のは詰まる。上手く言葉が発せない。何を言おうとしても、聲にならない。目の前の矢野ちゃんは、無表のままで、その言葉にもは乗っていなくて。造りだと、これは決して現実でないと、そう分かっているのに。

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否定したかった。けれども、出來なかった。それが、この夢が、一何の要因故のものか分からなかった。

一瞬だった。突如、床から塗れの手が沸いた。

「そうやって、みんな見捨てていくんだ。私も、あの三人も。他の人も全て」

無數の塗れの手が、私の視界に一杯になって。床や宙や天井や、ありとあらゆる箇所から、理法則を無視してその手が、腕が、びてきていた。それはまるで、表示のおかしくなったCGの様で。を垂らす腕が矢野ちゃんを摑んで、勢いよく引っ張る。私が手をばしても彼には屆かず。勢いよく引っ張られた矢野ちゃんの腳が、嫌な音を立てて。皮が表面から裂けて、その筋出する。白い骨が覗く。が吹き出し染み出し、空中へと散った。肩が外れて、が開いて。皮は細く千切れ始め、筋はゴムの様に爛れて、人であった姿が消えそうになる。

私は必死にんだ。

「そんなの!」

自分の聲で、目が覚めた。

目を開いて、一番初めに飛び込んで來たのは白い壁紙の天井で。夢から突然醒めた事が、脳を揺さぶっていて吐き気がこみ上げる。額にそっと手をやって、自分のを確かめた。ゆっくりとを起こす。ベッドの上にいる事に気が付く。々埃くさかった。

見知らぬ部屋だった。8畳程の広さで、壁一面が本棚となっている。本のジャンルは多岐に渡り、専門書から流行りの漫畫まで雑多に並んでいた。木製の機の上には空の鳥籠が置いてある。その側に私の帽子が置いてあって、椅子に立て掛けるように私の杖もあった。

自分が落下して、それで頭を打ったところまでは、何となく覚えていた。気絶して、それで、ここまで運びこまれたということだろう。なくとも、ゾンビの餌になっていない事だけは謝出來る。

ベッドから起き上がり、帽子と杖を抱えた。後頭部がまだ痛むが、に違和はなかった。木目調のドアをそっと開ける。暗い廊下に出た。左手は玄関に、右手はリビングに繋がっているようで、2階に繋がる階段もあった。

「目が覚めたかね」

覚えのない聲がして、私は咄嗟に杖を向けた。聲の主は階段から降りてきて、その姿はようやくハッキリ見えた。

60代位に見える男で、口元には白ヒゲをたくわえている。深いシワのある顔と、白髪の髪。長で、姿勢も良い。階段を降りてくる足取りは、しゆっくりであるが迷いはなかった。銀縁の眼鏡の奧には深く窪んだ眼が覗く。シャツ姿のフォーマルな格好で、清潔がある。ゾンビから逃れ回っている様な格好には見えない。

彼は私の姿を見て言う。

「庭に君が落ちてきたのでね、書斎まで運ばせてもらった。何処か痛むかい?」

「いえ、平気です。ありがとうございます。その、あなたは?」

「大したもてなしも出來ないが、立ち話よりはマシだろう」

彼はそう言って、リビングの方へ私を案した。整理、清掃の行き屆いた部屋であった。私を革張りのソファに座らせて、彼はコンロでお湯を沸かし始める。電気が生きている事に私は驚いた。

「私は樹村という。君は?」

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