《クラウンクレイド》『11-1・共存』
【11章・いつかの景に星空を見た/禱SIDE】
11-1
活の止まったゾンビを回避しつつ、明瀬ちゃんの家に無事辿り著くと、真っ暗なリビングの真ん中に明瀬ちゃんが膝を抱えて座っていた。部屋の各所に設置したキャンドルに火を燈す。明瀬ちゃんはライターを持っている筈だったが、燈り一つ燈そうとしていなかったようだった。
燈りを燈すと明瀬ちゃんが顔を上げて私の顔を見た。私は帽子とマントを外し、杖を部屋の片隅に置く。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「禱……?」
「それより明瀬ちゃん。ヘリが來てた。追いかけるべきだよ」
行き先は見失ったものの、向かった方角は分かった。高度の高さからこの周辺の救助活にあたっていたとは思えない。この家に留まるのも限界がある以上、ヘリを追いかけるべきだと私は主張する。明瀬ちゃんが反応乏しく、言葉なに口を開く。
「追いかけてどうするの」
「ヘリが來てるってことは、生存者が何処かに集まってる可能が高いよ」
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ヘリを飛ばすだけの力がある組織、自衛隊だか警察だか國連だかは分からないものの、それなりの規模が組織が機能しているという事になる。通信も電気も未だに途絶えているが、どこかで復舊しつつあるのかもしれない。ける余裕が今ならある。これから先、狀況がどうなるか分からない。
「だから移しよう」
「……私が家から離れたら、パパとママが帰ってきた時にどうすんの」
「それは……」
私はその後の言葉を呑み込んだ。
そこまで考えの回らなかった自分がいた。それでも、私は意を決する。例えその言葉が非でも、私は選ばなくてはならない。
「今は私達が生き殘る為にくためだと思う。それにお父さんたちだって、避難場所があるならそこに向かうはずだよ」
「何なの!? そうやって、自分は冷靜に判斷できてます、みたいなさ!? あの時だって矢野が死んじゃう必要なんて無かった!」
明瀬ちゃんがそこまで言って、口を閉ざした。その語調が強いせいもあったが、その言葉は私の々堪えた。私の顔を見て、明瀬ちゃんが一瞬表を崩して、顔を逸らし部屋を出ていく。殘された私はその場に座り込む。
矢野ちゃんが目の前で消えていった景が脳裏を過る。小野間君がゾンビと変わっていく景が過る。
明瀬ちゃんと籠城生活をして2カ月。明瀬ちゃんはあの日の話を一度もした事は無かった。長引く閉塞に押しつぶされてか、口數もなく暗い表が増えた。それでも、何処か気を張っているようで、弱音を吐いたりすることは無かった。
「やっぱり限界だよ……」
県の地図を確認する。ヘリが飛んで行った方角は、西の方角だった。周囲一帯は既にゾンビによって壊滅していると考え、それらしき場所を探す。県には自衛隊の駐屯地があるが、方角としては逆だった。ヘリの目的地が西なのか、拠點が西なのかもそもそも分からない。ただ、自衛隊の駐屯地を目指すには、距離が遠すぎた。
地図の上で指をらす。明瀬ちゃんの家から西に向かった先に、私達の居る浦市の中で最も大きいホームセンターがあった。資材の有無と敷地面積からして、生存者が集まっている可能があるかもしれない。
距離にして約15km、ゾンビを考慮しなければ、自転車で半日もかからない。
ただ、私の家からは更に遠ざかるな、と思った。
地図を前に私はルートを考える。距離はともかく、問題はゾンビだった。また、周辺の狀況しか把握は出來ていない。ゾンビによるパニックで通渋滯、それと事故と車の乗り捨てによって車道はまともに機能していない可能がある。裏道ではその幅の狹さから、ゾンビと鉢合わせた際にリスクが大きくなる。
階段の方から音がした。明瀬ちゃんが降りてきたようで。私の手元を見て、彼は慌てて私へと駆け寄ってくる。
「さっきはごめん。矢野の事、禱が悪いとは思ってない」
私の手首を、彼は強く摑んだ。爪が皮に食い込んで、その鋭い痛みが伝わってくる。それよりも、目の前の彼の表が必死で、私は目を逸らせず、言葉も口に出來なかった。その目に一杯の涙を浮かべ、頬を染めて、の奧に言葉を詰まらせながら、たどたどしい言葉を苦しそうに吐き出す。
「禱はすごい頑張ってくれてる。ちゃんと分かってるから。本當はさ、さっき禱が帰ってこなかった時に凄い不安だった」
明瀬ちゃんのその言葉と同時に、私は手首を強い力で引き寄せられた。明瀬ちゃんが私の元に顔を埋めて、私の服を生暖かくらせていく。
「だから、どっか行っちゃったりしないで」
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