《クラウンクレイド》『12-1・主役』

【12章・二人きりの捜索隊/禱SIDE】

12-1

翌日の早朝、殘りの水と食料品を詰め込んだ鞄を持って、が昇る前に私達は出発した。

家を出る前に、明瀬ちゃんは便箋をテ-ブルに置いた。両親へ宛てた手紙らしく、私は中を読まない様に目を逸らした。

目下の目的地、浦市のホ-ムセンタ-には何度か行ったことがあった。移距離と二人での移であることを考慮して、隣の家から自転車を拝借した。自転車にはチェーンが掛かっていたが、私の炎で焼き切った。使う事は無いと思っていた魔法が、このサバイバル生活において大いに役立っている事に私は奇妙な縁をじざるを得なかった。道も燃料もなしで使える炎というのは、ガスも電気も供給が止まった今、貴重だった。

明瀬ちゃんが自転車を漕いで、私はその後ろに乗った。移するのに夜間の時間帯を選ばなかったのは、偶発的なゾンビとの遭遇を避けるためだった。昨日のゾンビとの戦闘の様に、ゾンビの群れは、避ける事さえ出來れば問題にならない。最も怖いのは走れるタイプのゾンビだった。その為に、あえて晝を、自転車での二人乗りの移を、選んだ。いち早く発見して、いち早く対処するのにこれが一番適していると考えた。

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「行こう」

黒一だった空は紺に追いやられ、昇り始めた太が遠くの方に見える。朝の兆しに照らされた街には、それでも尚、冷たい空気が忍んでいた。明瀬ちゃんが自転車のペダルを思い切り踏み込むたびに、スプリングが軋む音が響いた。私と明瀬ちゃんの二人乗りを、咎める人など誰もいなかった。

無人の街を進んでいく私達は、言葉も無くひたすらに西へ向かって進んだ。私の背を預けた彼の背中が、何故だかとても頼もしく思えて。

たった2カ月で、世界が滅んでしまうわけでも、全てが廃墟になるわけでもなく、ただ人がいないだけの奇妙な景の中を進んでいく。不意のゾンビとの遭遇を避ける為に、広い車道をルートに選んでいたが、車道には多くの乗用車が放置されていた。至る所にの乾いた跡があったが、雨で流れて掠れ始めていた。私達を見てカラスが枯れた聲を上げる。私が背を預けると、明瀬ちゃんが自転車を漕ぎながら、大きく息を吐き出し言う。

「分かってたけど、誰もいないんだ」

「うん」

明瀬ちゃんはずっと家にいた。魔法が使える私だけがいた方が危険はないと思ったし、そして明瀬ちゃんにこれ以上辛い思いをさせたくなかったせいもあった。

家を出発してから、今の所ゾンビの姿は確認出來ない。

ゾンビには群れを作る質があること、また、この一帯が閑靜な住宅街であることも手伝って、ゾンビと遭遇する確率自は低い。

だが、それでも、最近は明らかに遭遇率が減った気がしていた。移したのか、それとも別の理由だろうか。

樹村氏の言葉を思い出す。ゾンビは生であると。

パンデミック発生から2カ月。あれから遭遇した生存者は一人のみ。パンデミック発生から數日でゾンビの數は発的に増え、仮に世界中が同じ狀況ならば、ゾンビ対人間の數はゾンビ側があまりにも多い。

となれば、大多數のゾンビは長期間、人間を襲えていない可能が高い。仮に、ゾンビが本當に人を餌とする生であるならば、生命活に支障をきたしているのではないだろうか。例えば、死してゾンビの數が減ったというのは、現実味の無い話だろうか。

「なんか、世界が終わったみたいじゃん?」

明瀬ちゃんの言葉に私は答えに窮する。それが明瀬ちゃんなりの冗談なのか、それとも苦しい心故のものなのか判斷が出來なかった。すると、明瀬ちゃんは明るい調子で続けた。

「今頃なー、主人公がラスボス倒しててもいい頃だと思うんだよね」

「主人公?」

「トム・クルーズとか」

映畫俳優の名前を挙げたので、明瀬ちゃんのいつもの映畫ネタだと分かった。ゾンビなんて存在は、確かに映畫の中の様で。しかし、私達がいるのは映畫でもゲームでもなく現実で。現実には、一人で世界を救ってくれるようなヒーローはいない。実際には、映畫の中ではスポットライトが當たらないような大勢の脇役が、この世界をかしている。

そんな事を考えながら、背中越しに私は聞く。

「ゾンビ映畫ってラストはどうなるの」

「うーん、ぱっと思い付くのはバッドエンドかなー。人類滅亡とか主人公は生き殘るけど何も解決してないとか」

明瀬ちゃんが、実例として幾つのか映畫名を挙げ始めたので私は渋い聲を出した。縁起でもない。私のそんな反応に、明瀬ちゃんは笑った。

「ゾンビ映畫なんて大が綺麗に終わんないんだよ。ハッピーエンドっぽいのだと、ワクチン見つかって希を殘して終わるのが多いかなー」

「ワクチン、見つかるかな」

明瀬ちゃんや佳東さんは、ゾンビに噛まれても発癥しなかった。抗があるのなら、それがワクチンの作に繋がるのだろうか。そもそも、今回のゾンビパンデミックが本當にウイルスによるものだとして、ワクチンの製作によってこの狀況が解決するとも思えなかった。例え染しなくても、生死の危機であるのは変わりないのだから。

「ねぇ禱。コンビニがある」

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