【１３章・その邂逅は世界を結ぶ／禱SIDE】

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私の前に立ったは、手にしたチェーンソーへと片手をばし。彼がチェーンソーのスイッチをれると、機関部が唸りを上げ始める。真っ直ぐにびた鈍い鋼の刃が、回転を始めて反するを散らす。チェーンソーを支える彼の左手から、再び青白いパルスが散った。

「魔だ」

私の呟きは、ゾンビのき聲に塗りつぶされた。跳躍、私達へ向かって、対面していたゾンビが勢いよく跳ぶ。その勢いに、私はたじろいて。そこへ、チェーンソーを持った彼は、勢いよく地面を踏み締めて半を捻る。チェーンソーを後方へと思い切り引くと、橫薙ぎに振り抜いた。嘶く[いななく]鋼の刃がその鈍い沢を返して、旋風を巻き起こす。

飛び掛かってきたゾンビへと、それは勢いよく振り抜かれて。ゾンビのを空中で叩き斬り、それを一瞬で塊へと変える。粘度のある赤いが破裂するようにして散って、水気を含んだビチャビチャという音を立てながら黒ずんだ塊が地面に落ちた。の雨が彼に降り注いで、ジャンパーの上をり落ちていく。裾から零れ伝っていくは、脂肪と皮の混じったねとつくもので、ひどくゆっくりと彼の腳を汚していた。

それに全くじず彼は私達に言う。

「あたしに、ついてきて」

彼はチェーンソーを構えたまま走る。彼に言われるまま私と明瀬ちゃんはその後を追った。複雑にり組んだ迷路の様な道であったがまるで、一本道かの様に。彼は明確にルートを把握しているようで、迷いなく進んでいった。時には車のボンネットを乗り越え、時には殘骸の下を潛る。車で行き止まりになっているように見えて、その隙間を抜けていくルートは、ゾンビの足止めの為だと私は気が付いた。

がチェ－ンソ－の電源を切るとベルトを利用して背中に擔ぎ、車の上をよじ登っていく。振り返ればゾンビが車にぶつかって、當たりを繰り返していた。その大量の群れが押し留められて停滯しているさまは、そのも相まって土石流みたいに見える。

チェーンソーの彼は私達に言う。

「あとしだから」

ホームセンターの建は、確かに彼の言う通りすぐ近くにあった。そんな時、明瀬ちゃんが私の名前をぶ。

「禱、走れるやつだ！」

金屬を叩く大きな音と、車が揺れては軋む音。振り返ると、ゾンビが一、車の山の上に著地した。跳躍を繰り返してきたようで、著地の勢いに車の山は大きく揺れている。跳躍が可能と言う事は、明瀬ちゃんの言う通り走れるタイプのゾンビだった。

ゾンビの姿を認めて、チェーンソーの彼はぶ。

「もう一いたわけ！？」

彼は背負っていたチェーンソーに手を回すも、跳躍を繰り返すゾンビの姿は私達の眼前に既にあった。その大きく開いた口から濁った唾を飛び散らせ、飢えた獣にも似た短いき聲が続く。彼のきでは間に合わないと私は判斷して杖を構える。

「禱！？」

明瀬ちゃんのその驚いた聲は、おそらく私の魔法使用に対するものだった。使っていいのか、という制止の意味も大いに含んでいたと思う。しかし、明瀬ちゃんは気が付いていないものの、チェーンソーを使っていたあの時、確かに魔法の力である様に思えた。

彼のから散っていた青白いパルスは、それを起こす外的要因が見當たらず、彼自から発している様に見えた。そして、その事に一切の躊躇いが無い。ならば。

「……詠唱省略、穿焔－うがちほむら－！」

杖を翳し炎が巻き起こる。炎が、轟、と空気を震わせる。その一瞬で周囲の空気を焼いて。その炎は空中で滾り、燃え上がり、そのを激しく震わせて。杖を振り切ると同時に、その炎は塊となって勢いよく弾き出された。直徑３０ｃｍ程の炎の塊が、空中を激しく燃やし盡くしながら轟音を鳴らして真っ直ぐに飛翔して。

鋭く撃ち出した炎の塊が、飛び掛かってきたゾンビにぶち當たる。火のを空中に撒き散らしながらゾンビのは燃え上がり、その焼けた亡骸が瓦礫へと落ちていった。

燃やすものを失くした炎が消え失せると、殘り火となった火のが空中へ散り消えた。

その一瞬の攻防を見て、チェーンソーの彼は私の方を見て口を丸くしていた。

「あなたも魔なのね。まぁ、妙な格好をしてるとは思ってたけど」

あなたも、と彼は言った。先程のは、やはり魔法に間違いないようだった。そして何より、彼は魔という存在を知っている。

佳東さんが魔法の力が発現した時、彼達は魔というものを知らず魔法であることも理解出來ていなかった。それ程までに魔法、そして魔という存在は空想世界のものだ。葉山君が、現実的な折り合いを付ける為に選んだ単語が超能力だった様に。

そこまで考えて、私はふと、あの時見落としていた違和に気が付く。

あの時の葉山君の言葉。彼の言っていたシンギュラリティという言葉は、結局はその意味は不明だったが、彼がその言葉を再び口にした時があった。小野間君のゾンビ化によって、私が教室を出した時。彼はシンギュラリティが「いた」と言っていた。「いた」という事は人だ。ならば、「特異點」という単語は佳東さんを指していたのではないだろうか。そう呼ばれるに相応しい人は、魔法を明かしていない私を除くと、あの場には佳東さんしかいない様に思える。

超能力という単語とシンギュラリティという単語、彼は何故使い分けたのか。あの急事態で出た言葉がシンギュラリティならば、咄嗟のに無意識に出た言葉であったならば、彼にとって佳東さんは本來そう呼ぶべき人であったのではないだろうか。彼は超能力という単語を、何らかの意図をもって使っていたのではないか。

「とにかく、話は後で。ホームセンターの中に案するわ」

チェーンソーの彼の言葉で私の思考は途切れた。彼はハッキリとした言葉で私に言う。

「あたしは加賀野桜。あなたと同じ魔の家系の出」