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魔の家系の出だと名乗った加賀野さんに案されて、私達はホームセンターの建の側まで來た。ホームセンター１階の正面口にはシャッターが下りていて、その前には木材や塩ビ材を組み合わせた堅牢なバリケードが築かれていた。組み上げられたバリケードは、鋭く尖ったパーツで出來ており、その先端には赤黒いの跡が殘っている。駐車場の車の殘骸と、ホームセンターり口のバリケードによって強固な守りを保っているようであった。

ホ－ムセンタ－の２階の窓から縄梯子が垂れている。

建１階部分の侵経路を閉鎖して、２階から縄梯子での出りのみに限定していると加賀野さんが説明した。確かにゾンビの運能力であれば、２階への侵は難しいだろう。縄梯子なら使用時以外に格納も楽に出來る。

加賀野さんが縄梯子に手をかけて、悠々と登っていった。あっという間に２階の窓からり込んでいった彼、暫くしてから顔を出し、私達に手を振る。

し迷ったが、私が先に上る事にした。ゾンビが追いかけてきている気配はなく、途中の瓦礫の迷路で引き離すことが出來ている筈だった。それならば、あまり考えたくはないものの、危険が高いのはホームセンター部だと私は考える。ゾンビだけが脅威というわけではない。

杖を擔ぐと縄梯子に片足を乗せた。地面についていた足をゆっくり上げて重を掛けると、縄梯子が揺らめきく。下を見ないように、頭を上げて進むと、下に居た明瀬ちゃんが私の名を呼ぶ。

「禱ー、大丈夫ー？」

「うん、平気」

「パンツめっちゃ見えてるけど」

「見ないでよ」

縄梯子の先、２階の窓に手を掛ける。窓から中の様子が見えた。加賀野さんが立っていて、その橫に大柄な男が居た。彼は私に気が付くと手を貸してくる。正直な所、見た目はあまり善良な人である様に見えず、手を借りることに戸う。そんな私の手を勢いよく取って、彼に手を引かれる。

ホームセンター２階に転がり込むと、今の彼と加賀野さんの他に生存者がいるのが分かった。計５人の顔ぶれを私は見渡す。加賀野さん、大柄の男、それと高校生くらいに見える男子學生と。が小さなと手を繋いでいた。ひとまず問題は無さそうに見える。背に回した手で、杖に軽くれながら私は下にいる明瀬ちゃんを呼ぶ。

明瀬ちゃんは難なく縄梯子を登ってきた。私が手を貸そうとするいたが、明瀬ちゃんはするりと窓を飛び越える。

帽子を外して、とりあえず私から名乗る。

「私は禱、彼は明瀬ちゃんです」

「俺は三奈瀬。二人とも、今までよく無事だったな」

三奈瀬君は高校生だという。彼の側にいたは、大學生らしく樹村さんと名乗った。樹村さんと手を繋いでいるい子供が梨絵ちゃん、橫にいる大柄な男が鷹橋さんとのことである。樹村、という苗字にし引っかかるものがあった。

２階窓から駐車場の狀況を見張っていた加賀野さんが、私達の事に気が付き救援にってくれたらしい。私達も高校生だと言うと、三奈瀬君が口を開く。

「高校生って言ったよな。何処の高校？」

「浦です」

浦高校という名前に彼等はし揺したようだった。何かあったのだろうか、と私は首を傾げる。そんな私に、梨絵ちゃんと手を繋いでいた樹村さんは言う。

「この子のお兄さんが浦高校らしいの。葉山君って言うらしいんだけど。二人とも知らないかしら？」

「葉山……？」

葉山、というし珍しい苗字。そして妹。當てはまる人を私達は、いや私はよく知っていた。そして彼の奇妙な言葉をよく覚えている。妹を助けに行かなければならないのか、という妙な「気付き」の言葉。報の不足を口実にそれを諦めていた、何処か他人行儀な言。だが、その違和も、今はただ、認めたくない事実を補強するだけだった。

葉山君の妹だ、このい子供は。

私達が、樹村さんの問いに応えられずにいると、三奈瀬君が口を開く。

「俺も浦高校なんだけど、あの日は學校にいなくて。學校はどうなったんだ」

私達の表が曇ったのを見て、彼は察した様子だった。明瀬ちゃんが梨絵ちゃんの前にしゃがみ込む。「ごめんね、會ってないんだ」という言葉を、明瀬ちゃんは努めて平靜に口にした。その言葉に梨絵ちゃんの表が歪みかけて、樹村さんが梨絵ちゃんの手を引く。

「梨絵ちゃん。おねぇさん達のパーティーしよっか」

「パ－ティ－するの？」

「そうだよ、パーティの準備しようね？」

二人が何処かに消えていくのを見送ってから、明瀬ちゃんは口を開く。

「學校がゾンビに襲われて、私達以外の生徒はみんな……。葉山君も」

「いや、こっちもよく考えるべきだった。すまない」

三奈瀬君が、重たい息を吐き出してそう言った。そう、全員があの場で犠牲になった。彼も浦高校の生徒であるなら、何か思う事はあるのだろう。彼の沈黙は、この場の沈黙へと変わった。それを加賀野さんが破る。フロアの説明をする、という彼の言葉に、三奈瀬君がそれならば、と返す。

「案する、付いてきて」

私と明瀬ちゃんは彼についていく。ホームセンターは地上２階、地下１階建ての構造になっていた。２階は家と生活雑貨を扱う売り場フロアであったようで、見渡す限りベッドや棚、タンス等の家が並んでおり、フロアの半分程は食類を始めとした生活雑貨のスペースになっていた。店舗面積はかなりの広さがあると言えるだろう。この人數で生活していたならば、パーソナルスペースの確保も十分出來ている筈だった。

２階フロアへの進経路は非常口を兼ねている階段と、電気が通っていない事で停止したエレベーターとエスカレーターの三か所。だが、その何れも、箱や棚を並べてバリケードにして閉鎖されている。特にエスカレーターに関しては、テーブルや棚で完全に「蓋」がされているような形で、１階フロアの狀況は確認出來なかった。実質的に侵経路は一か所のみ、縄梯子にて窓から出りする他ないようだった。

２階の一角には家や生活雑貨を揃えているフロアには不似合いな、食料品の段ボールが山の様に並んでいた。レトルト食品や缶詰と袋菓子、飲料水にもかなりの量がある。近頃のホームセンターは食品を売っている事も多いが、この量は店舗在庫の殆どと言えるのではないだろうか。この人數で運んでくるのは骨だったであろう。

２階を回り終えて、三奈瀬君は言った。

「これで２階は全部だが、１階は駄目だ。ゾンビが居る」

「今も、という意味で？」

「今も生きている狀態で、だ」

【１３章・その邂逅は世界を結ぶ　完】