《クラウンクレイド》『14-2・Instinct』
14-2
暫く黙り込んで悩んでいた明瀬が、ようやく口を開いて禱の言葉を継いだ。
「ゾンビについて思ってた事があるんだけど。一般的なゾンビのイメージってさ死者が蘇るとか、死んでもくとかじゃん? でも、私達が今直面しているゾンビってそうじゃないんだよ。彼等は、生的には死んでないと私は思う」
映畫やゲームにおいてのゾンビのイメージの底には、死んだがくというものが確かにあった。それは不死という特徴と結び付く。一般的なゾンビは、頭が無事な限りどんな狀態でもく事が多い。の欠損や、腐敗が起きていてもはき、心臓を潰しても意味がなく頭部を狙う事が多い。
だが、今直面しているゾンビはそうではないと明瀬は否定する。
「皮から浮き出た管が脈を刻んでた。それと、肩が上下してたのは、れた呼吸のせいなんだよ。それってつまり、酸素を取りれて、を循環させるってことをしてるわけ。の一部が欠損したり腐ったりしてるのは免疫能力の低下であって、彼等が死だからじゃない」
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その言葉に弘人は頷いて同意した。今まで見てきた景が脳裏を過った。
「それは分かる。死が蘇ったわけではなく、噛まれたりを浴びた事で、突然人を襲いだすようになったのが俺達の見てきたゾンビだ。彼等がその一瞬で死に変わって、生き返ったわけじゃない」
「そう。人を襲いだす理由はともかく、は生きてる。ってことは、私達と同じ仕組みでいてるわけ。呼吸をして、を食べることでエネルギーを生み出してる」
人間は、食べることでに取り込んだ食を、分子レベルで分解する。分解されたことで、炭素[C]、酸素[H]、水素[O]の狀態になり、そこからグルコース[C6H12O6]を合するのだ。合したグルコースは一度保存しやすい質に置換され肝臓にストックされる。がエネルギーを必要とする際に、細胞のミトコンドリアが酸素を利用してそれを分解しエネルギーを取り出す。
高校生レベルの教養だよ、君。と明瀬が演技がかった口ぶりで言った。
ゾンビので循環管が生きている以上、食の摂取によりエネルギーを得ているのは間違いないと彼は言う。
「ゾンビが不思議なチカラでいていないって事はさ、くのにはエネルギーを必要とするわけ。そう考えると、ゾンビの特徴には意味がある気がしてこない?」
「どういう事だ?」
「何も食べなくても長期間生きていけるゾンビは、単純に考えると生存に必要なエネルギーのコストが低いってこと、それか使えるエネルギーがすごくないってことじゃん。
使えるエネルギーがないから運能力は勿論、聴覚や嗅覚に比べて高度な覚の視力も大幅に低下するわけ。それと、ゾンビって夜には集してかなくなるじゃん? これも、溫の低下を避ける為なんだと思う」
それでも、限界はある筈だけど、と明瀬は付け加える。ゾンビが低エネルギーで活していたとしても、何も摂食せずに生きている事の説明としては説得力に欠けた。なくとも1ケ月、可能としてはパンデミック発生から2カ月、それだけの期間を何も摂食せずに生きている事が、果たして可能なのだろうか。の冬眠とは違い、ゾンビは連日き続けているのだ。
弘人の疑問とは別のものを、禱は口にする。
「明瀬ちゃんの意見が正しいとしたら、走れるゾンビの説明が付かない」
禱は走れるゾンビの例を挙げて明瀬に問いかけた。彼は走れるゾンビをスプリンターと呼んだ。スプリンターという呼稱は、非常に合點のいく命名であると弘人はじる。何度かホームセンター周辺でその姿は確認されている。人男と比較しても引けを取らないその圧倒的な走力は、通常のゾンビと比べ危険度が格段に違った。
確かに、スプリンターは明瀬の仮説では説明しきれない。走るという作はかなりのエネルギーを必要とする。
そもそも、走れるゾンビとそうでないゾンビの2種類には、どのような差異があって能力に差が出るのだろうか。
「エネルギーの変換効率か、貯蔵量が普通のゾンビより良いのかも。もしかしたら、ミトコンドリアが突然変異してるとか、溫を必要としない構造になっているのかもしれないけど……、ウイルスが染した宿主にそこまでさせることが出來るとも思えないし」
明瀬の言葉に、弘人はそもそもの疑問をぶつけた。
「そもそもウイルスなのかゾンビの原因は。ウイルスに染して人を襲いだすなんて事がありえるのか」
「染がきっかけになってるからウイルスの可能は高いよ。例えば、ウイルスによって脳機能が活化しすぎて理を失うとかさー。染経路拡大の為に、食を刺激して、人を食した時に快楽質の分泌が行われるようにするとかさー。ホルモンの分泌と神経の刺激で説明が付く気もすんだよね」
弘人の疑問に、明瀬が淀みなく長々と言った。明瀬は何処か興している様子で、早口気味である。弘人は明瀬のその頭の回転の速さに驚嘆するばかりだった。
「人間も結局はってことだよ」
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