《クラウンクレイド》『15-2・関係』

15-2

鷹橋さんに言われて私はベッドに向かうも、暗闇の中で何かいているのが見えた。懐中電燈らしきも右往左往していて、誰かが起きたのだろうかと私もライト片手に近寄っていく。其処にいたのは梨絵ちゃんだった。梨絵ちゃんが私の顔を見て、し驚いた様な表を見せた。夜中に目が醒めてしまったのだろうか。

「どうしたの?」

私がそう聲をかけると、梨絵ちゃんは答えなかったが何かを言いたげであった。警戒されているのだろうか。私でなく明瀬ちゃんならば、また違った気がする。そもそも、先程の夕食の時にも私は梨絵ちゃんと殆ど喋っていなかった。明瀬ちゃんには懐いたようだったが、私の方はさっぱりだった。

樹村さんの所に連れていったほうが良いかと思い、私が踵を返すと、そんな私に梨絵ちゃんが慌てて言う。

「あのね」

「うん?」

「やっぱりなんでもない」

何を言いたいのか私にはさっぱりだった。樹村さんか明瀬ちゃんがこの場に居てしく仕方がない。梨絵ちゃんは不安げに周囲を見ていて、そしてどことなく落ち著きが無かった。ライトも小刻みに震えている。暗闇が怖いのだろうか。それでもライト片手に起き出してきて、なおかつ私に何か言おうとしている。何か事があるのは確かだと思ったが、私にはそれが分からない。

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先程飲んだコーヒーが冷めてきて、トイレに行ってベッドに戻りたい。そこまで考えて私は気付く。もしや、と思って梨絵ちゃんに私は聞く。言葉は慎重に選んだ。明瀬ちゃんと梨絵ちゃんがしていた會話の様子を思い起こす。

「あのさ、梨絵ちゃん。トイレに行きたいんだけど場所が分からないから、一緒に行ってくれる?」

「……うん!」

私の言葉に彼は勢いよく頷いた。私の予測は當たっていたらしい。

素直に言い出せないのも、そういう年頃なのだろう。私とは初対面みたいなものだし、気持ちは分かる。梨絵ちゃんの橫を歩きながら私達はトイレに向かった。用を終えて、ベッドの場所に戻る。私と梨絵ちゃんは別のベッドであったが、彼は私の所まで著いてきた。

「えーっと、一緒に寢る?」

「うん」

子供心が分からない。正直な所、明瀬ちゃんを起こして助けて貰いたい。

ベッドによじ登った梨絵ちゃんに並んで橫たわる。LEDライトのランタンが枕元にあって、私は明るさを調整して彼の顔が見えるくらいにした。

私の顔をじっと見つめてきている。夜中に起きたから、不安になって眠れずにいるのだろうか。

「禱ちゃんは、明瀬ちゃんのおともだち?」

し舌足らずな喋り方で梨絵ちゃんはそう言う。私は一つ頷いた。明瀬ちゃんは、子供相手でも苗字で呼ばせることを徹底するのだと、何というか心した。

苗字の事を考えて、つい連想してしまう。梨絵ちゃんは葉山君の妹だという事を意識してしまう。

「禱ちゃんは、桜ちゃんとおともだち?」

「どうかな……」

「ちがうの?」

「これから、友達になるかもね」

私がそういうと、梨絵ちゃんは理解していないのか「ふーん」と大人ぶった返事をする。加賀野さん辺りの影響だろうか。會話の時、彼にそんな口癖があった気がした。

梨絵ちゃんが眠くなるまで好きに喋らせよう、そう思って私は相槌を打つ。

「桜ちゃんと香苗ちゃんはおともだちだってゆってた」

「三奈瀬君は?」

「みなせくん?」

「えーっと、弘人君?」

「弘人くんはみんな仲間だって。でね、香苗ちゃんはなじみだって」

「そうなんだ」

「でも香苗ちゃんは、弘人くんはだいじな人ってゆってた」

梨絵ちゃんの聲はし眠たげで。けれども私はその言葉で、目が醒める思いで。

はそうなのか、と。梨絵ちゃんにそれを打ち明けてしまいたくなるくらいに。それはし羨ましくあった。私とは本的に違う。それを抱く事に、悩んだりする必要はないのだから。

「梨絵ちゃんはさ」

返事が返ってこなくて、私は梨絵ちゃんの顔を見た。目を瞑っていて、靜かに寢息を立て始めていた。鼻筋も、も、その頬に當てている手も小さくて。私は彼の橫顔をでた。細い髪が指先をり落ちていく。強く握り締めれば壊れてしまうと錯覚するほど、く華奢だった。

家族と突然引き離され、一ケ月以上も此処で生活していく事。きっと子供心にとっては辛い事であるだろう。葉山君と會いたかったことだろう。けれども、それはもう葉わず、見てはいないが葉山君はあの時きっと死んだ。彼を「救わ」なかったのは、それを選んだのは、私に他ならない。

「ごめんね、梨絵ちゃん」

私はランタンのスイッチを切って、目を閉じる。

梨絵ちゃんの言葉が、耳の奧で反響してた。

「友達……、か」

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