《クラウンクレイド》『15-3・迅雷』
15-3
を揺すられる覚に、私は目を覚ます。周囲は明るくなっていて、時計を見ると10時を回っていた。鷹橋さん達との會話の後、朝まで寢ていたようで。悪夢を見ずにすんだようではあった。
私のを揺すって起こしてきたのは加賀野さんで、未だ目が醒めきっていない私に、彼は興気味に言う。
「ヘリが飛んでる」
その言葉で、私はベッドから飛び起きた。駐車場に面した2階の窓へと向かうと、三奈瀬君と鷹橋さんが窓の外を見ていた。私が窓辺に寄った時には既にヘリの機影はなかったが、ヘリは南西の方角へ飛んでいった所を二人は目撃したらしい。飛行高度は今までよりも低いらしいが、しかしこちらへと反応を示す事は無かったという。加賀野さんが興を隠しきれずに聲高に言う。
「あたしは、追いかけるわ」
「ちょっと待て、桜」
三奈瀬君がそれを留めようとして、加賀野さんと鷹橋さんが何かを言い返す。三人が口論を始めたので、私はその場を離れて準備をしに行った。寢ていたベッドまで戻る。帽子とマントは、枕元に畳んで置いたままになっていたが、杖が見當たらなかった。ベッドの側に置いてあった筈なのに見つからない。私が途方に暮れていると、杖を抱えた明瀬ちゃんが、私の後ろに立っていた。明瀬ちゃんが持っていた理由が分からず、私は手を差し出すも、明瀬ちゃんは杖を抱えたままだった。
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「禱、行くつもり?」
「うん、絶対に助けを呼んでくる」
「危ないよ」
「例え何を切り捨てても、私は明瀬ちゃんの事を絶対に守るから」
私がそう言っても明瀬ちゃんは杖を離さず。私は観念して、その手から杖を奪い取った。その手には、思っていたより力はなく難なく杖は戻ってくる。そんな私の手首を、明瀬ちゃんが咄嗟に摑んだ。
「怪我して帰ってきたら許さないから」
「大丈夫」
ゾンビと組みあったあの時、恐怖を確かに思い出した。噛まれた瞬間に、死と直結するという現実。染という恐怖が、私の決意を改めていた。明瀬ちゃんの様に、私にもゾンビ化への抗があるとは限らない。だから、例え何が相手になろうとも決して心が揺らいではならない、と。
杖を手に外へ向かおうとした私の前に、樹村さんが立った。止めようとしてくるのかと思ったが、そうではなく。彼は私の両肩を優しく摑んで、しを屈め私の目を覗き込んでくる。
「桜ちゃんは、し向こう見ずな所があるから、宜しくね」
「それは、何となく分かります」
「絶対に帰ってきて」
私が頷くと、優しく肩を押されて。私は何も言わずに、二人に背を向けて足早にその場を離れる。
2階フロアの窓の場所まで戻ると、加賀野さんが私の事を待っていた。話し合いは解決したらしい。三奈瀬君は不満そうな表を浮かべていたが、しかし何も言わなかった。
「行くわよ」
「うん」
鷹橋さんに手伝ってもらい、縄梯子を窓から地面へと降ろす。加賀野さんが先に行って、私もそれに続いた。先を行く彼の背中には、やはりチェーンソーがあった。電気をる事が出來る魔とはいえ、やはり得にチェーンソーを選ぶのは、やはりおかしいのではないだろうかとし思った。加賀野さんの背が高いとは言え、チェーンソーは重たい筈だし、駆音もうるさく、取り回しも悪い。
そんな私の心配も余所に、加賀野さんは全力疾走で私の前を行く。迷路の様な駐車場を加賀野さんの後を付いていくと、一度も行き止まりに當たる事無く進むことが出來た。ルートが確立されているらしい。ゾンビの群れがき出していたのが分かったが、瓦礫の障壁を利用して上手く撒いた。
駐車場を抜けると、ヘリが飛んでいった筈の南西の方角へと向かう。南西の方角で、ヘリが著陸する可能がある場所、私は地図でアタリを付けていた。あのヘリが救助の為に來たのだとしたら、其処を選ぶ理由は高い。
「浦小學校だと私は思う」
それがその場所だった。校庭のグラウンドならばヘリが著陸できる様な広く平坦なスペースがある。また、學校というのは、災害時の避難先として、最初に思い付く場所でもあった。
私の意見に加賀野さんは同意して、浦小學校までのルートを進んだ。幸いにして、ホームセンターから徒歩十數分の距離だった。ゾンビとの遭遇を考慮しなければ、短時間で到著できる。
しかし、加賀野さんが足を止めた。前方の道を塞ぐようにしてゾンビの群れが居るのが見えた。數にして數十、いや百を越えているかもしれない。數が多すぎて一一の境界線が分からず、蠢く赤との集合の様だった。き聲を震わせて、その手を一心不にばし、そのたどたどしい足取りにも関わらず必死に向かってくる。車道を全て塞ぎ迫ってくるその景は、ゾンビの津波とでもいうほかなかった。
やはり、これだけの數を維持できるほどの食料があるとは思えない。ゾンビのには、何かそれを可能とする仕組みがあると考えるほかなかった。
「私が魔法を使うよ」
この距離ならば、十分に魔法の発が間に合う。使用頻度の高い「穿焔-うがちほむら-」は単能は高いものの、數を相手にした場合では及ばない。周囲に炎を巻き起こす「懸焔-かがりほむら-」は、消耗が激しく、加賀野さんを巻き込む恐れもある。故に、地面に火柱を発生させ燃やし盡くす「猛焔-さかりほむら-」を用いて、ゾンビの足止めを行う事で道を封鎖し、別ルートを通るべきだと私は判斷する。
そんな私の前に立った加賀野さんが、手を広げて私を制した。彼の左手で青白いパルスが走る。小さく弾けた雷の欠片が、空を焼く。
「あたしに任せて」
「え?」
「別にチェーンソー振り回すのが、あたしの魔法じゃないのよ」
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