【１６章・それはまるで星の様に／弘人SIDE】

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桜と禱がヘリを追いかけたのを見送った弘人は、彼達の姿が見えなくなったのを見屆けて窓から離れた。桜達がヘリとコンタクトをとれた場合の事を考えて、鷹橋と香苗は資の整理をしてくると言ってフロアの奧に消えていった。もし出が出來たとしても、この狀況で手ぶらで向かう訳にも行かないだろうと言っていた。縄梯子を巻き上げ、窓の側に置いておくと、弘人も２階フロアに戻る。

救助の可能、その兆しがにわかに見えてきた。その事を、その可能を、弘人は期待せずにはいられなかった。助かりたい、生き殘りたい、そんな當たり前の求を確かに持っていた。けれども、と弘人は思う。桜と禱を危険な目に合わせてしまったことは、悔やむべきことだった。

こんな時、自分には何も出來ないと弘人は嫌でも痛してしまう。桜や禱の様に他の誰かを守れる程の力は自分には無く。それどころか、鷹橋の様に自分のを守ることさえ出來ない。そんな無力を抱える自分がいた。いつか、自分が置いてかれてしまうのではないか、何も出來ず何も與えられない自分が置き去りにされている様な覚だった。

「やぁ、三奈瀬君。暗い顔してるね」

弘人に聲をかけてきたのは明瀬で、彼は椅子に腰かけ本を手にしていた。彼もまた、長らく籠城生活を続けてきている筈であったが、そんな素振りを見せない顔と表であった。

「よう」

「素っ気ない返事だなぁ」

明瀬はそう言って笑う。その笑顔に、弘人は気恥ずかしくなってし目線を逸らした。明瀬と初めて會った時にも思ったが、クラスにいれば目を引くような整った容姿をしている。気さくで人當たりが良い事もあって、さぞかし人気があったに違いない。

明瀬は、座っている近くの椅子を手で示した。話相手になれということかと思い、弘人は其処に腰掛けながら言う。

「梨絵と一緒だと思ってたよ」

「さっきまで一緒に遊んでたんだけど、香苗さんの所に行ったよ。子供と喋るのは元気になるよね。こっちも明るく振る舞わなきゃって思うじゃん？」

そう気楽に笑う彼は、一どんな生活を送ってきたのだろうか、と弘人は思う。たった二人だけで、あの地獄から生き殘る時、どんな景を目にしてきたのだろうか。彼も禱も語ろうとはしなかったが、彼達もまた凄慘なこの狀況を生き抜いてきたのだ。明瀬の目にも、決意の様な強い意志がじ取れるのは確かだった。

弘人が明瀬から視線を外したことが、本の背表紙を気にしていると思ったのか、明瀬はそれを持ち上げる。生學関連の本である、かつて此処で生活していた生存者の品だった。

「ゾンビのエネルギー源にちょっと思い當たる節があったんだよね。香苗さんに聞いたら、生の本も置いてあるっていうからさ」

「昨日の話の続きか？」

「うん、長期間ゾンビが活し続けている理由」

「低燃費ってことじゃないのか」

明瀬の言っていた話を思い出す。ゾンビは、生存に必要なエネルギーがないのでは、と仮説を立てていた。運能力や視力を低下させ、夜間は溫低下を避ける為に集して活を休止する。実際に、摂食せずに１ケ月以上生存が可能なのかは別として、エネルギー効率という點で見れば、ゾンビの生態についてある程度の納得がいく過程である様に思えた。

「たださ、それだけじゃ、やっぱり説明が付かないと思って。ゾンビのエネルギーの保存方法が違うんじゃないかなって」

「どういう事なんだ」

「昨日は使うエネルギーを減らすことで低コストに生きてるんじゃないか、っていう結論を出したじゃん？　アウトプットを減らしてるわけだけど、じゃあその逆はどうかなって思って」

「逆？」

「そう、インプットを増やしたらどうかなって。そうは言っても、ゾンビは餌を食べれていないわけだから、インプットの量自は増やせない。だから、質を上げる事を考えたわけ」

明瀬は手元のペンと紙で何か図を描いた。昨日の話のまとめらしい。摂取した食べを分子レベルに分解し、グルコースを作り出す。人間はそのグルコースを、グリコーゲンの形にして肝臓に留めておき、それをエネルギーが必要な時にミトコンドリアによって分解しエネルギーを取り出す。その図解だった。確かに高校教育レベルの話であったが、明瀬の様に淀みなく説明できる自信は、弘人にはなかった。

「グルコースとかグリコーゲンとか、まぁざっくり言うとブドウ糖を分解して人間はエネルギーを得ているわけだけど。人間と違って、瞬発力を必要とせず低コストでく事に特化したゾンビなら、ブドウ糖じゃなくてもいいんじゃないと思うんだよね。ないエネルギーを時間をかけて長く取り出せば良い。例えば、石炭みたいなイメージだよ」

「だけど人間のはブドウ糖の分解に頼っているわけだろ」

「うん。だからさ、ゾンビはでブドウ糖以外の質を生できるようになったんじゃないかな、って。超超高分子化合を蔵で生して、蓄えていたなら。

ゾンビが低燃費で生きてることと合わせれば有り得る気がすんだよね。分解しにくいエネルギー源として蓄えて、それを長期間しずつ使うわけ」

「超超高分子化合？」

「ものすごーいざっくり言うなら、他の分子より大きい分子ってこと」

「それは、ウイルスが染しただけで可能になるのか？」

「詳しい人が調べてみるのが一番だけどさ。短期間のに、１世代で、しかも全ての個が、なんてのは普通は無理だと思う」

でも私達は奇跡に近い景を散々目撃してきてる、と明瀬は付け加えた。明瀬は急に黙り込んで、その手元をかす。メモ用紙に「ゾンビ」と書いて、そこから幾つかの矢印を引いていく。最後に「走るゾンビ」と書いて彼の手は止まる。

「走れるゾンビはエネルギー消費が大きいわけだよ。だから、もし、ゾンビが超超高分子化合だけじゃなくブドウ糖の分解による機構も並行して持っているなら」

「持っているなら？」

「……ゾンビは人間の進化の形なのかもしんない」