《クラウンクレイド》『18-2・On The』
18-2
翌朝。
明瀬が目を覚ますと、隣のベッドで寢ていた筈の禱の姿が無かった。昨日の戦闘の後に気絶する様に倒れて、寢返りさえ打たずにいた。
彼の姿を探してフロアを歩き回るもその姿は見えず。フロア中を探して、そして最後に無意識のに避けていた場所へ向かう。
そこに禱はいた。それは梨絵の亡骸が寢かされている場所であり、亡骸の橫たわるベッドの前で禱が無言で立っていた。
「禱?」
明瀬が聲をかけると禱は振り返る。
禱が泣いているのではないか、そんな予測をしていたが、その目元には涙の跡はなく。禱はし気まずそうな顔をした。
ベッドの上に橫たわる梨絵は、ただ眠っているだけであるかのように穏やかな表であった。微かについたの跡と、青白く変わっている頬のを除けば、死んでいるとも気が付かないだろう。小さいそのはベッドに微かに沈み込んで、それを前にして口は重たくなる。禱が呟く。
「死を見すぎたのかも」
「え?」
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「こういう時に、どういう風に泣けば良いのか分からない」
禱が泣いている姿を、見ていないのはいつからだろうか。明瀬はそう思った。
明瀬は禱のを知っている。その想いを、抱え込んだものを、全て知っている。
明瀬は禱の言葉を聞いている。もう泣かせない、悲しい思いなんてさせない、そんな決意めいた言葉を、だ。かつて禱が口にしたその言葉は、気が付けば呪詛に変わっていて。それでも構わないと明瀬は思った。だからこそ、泣くことを止めたのだ。けれども、それは互いに課した枷なんかではなく。
禱の涙すら、自分は縛ってしまったのだろうかと明瀬は思う。そんな明瀬に向けて禱は言葉を続ける。
「ううん、もっと前から、ずっとそうだったんだと思う。悲しいっていうを、悲しいっていう事実を、ちゃんと理解しているのに、それが自分の中の何か大事なと結び付かない」
「それは……」
「んなことがあったから、足を止めたらいけなかったから、泣くことを後回しにしてるんだと思ってた。でも、いざ立ち止まった時に上手く泣けないんだ」
「禱はそれを悲しいって思う? 泣けない事、悲しいって思えない事をさ。私達は、ううん、禱はさ、んなものを見過ぎて背負い込み過ぎたじゃん。だからちょっとだけ、心が麻痺しちゃってるだけなんだと思うよ」
そうさせてしまったのは、自分なのだ。そう明瀬は口に出さずに思う。
もし世界中の人が死んだとしても、例え神に刃を向けようとも、禱はきっと進む。全て終わった時に、それを悲しむ事もせずに。それだけの業を重ねても、禱はきっと変わらずに、変わらぬ距離にいるのだろう。
明瀬は思う。
詰ってしかった。んでしかった。求めてしかった。それだけの業、それだけの枷、抱え込み縛り付け沈んでいくその一瞬に、手をばしてしかった。その手を取る事でしか、報いることが出來ないのだから。
「禱がどうなったって、私は禱の事好きだよ」
「禱、見つかったの?」
桜の聲で遮られて、明瀬は振り返る。桜がロウソクを手にしていた。
「お葬式ってわけじゃないけど、何かしなくちゃって思ったのよ」
「そうだね」
禱が頷いた。
梨絵の亡骸を埋めるわけにも燃やすわけにもいかず、仕方なくベッドの上に安置しておくことにした。葬式のやり方も作法も分からず、とりあえずロウソクに火を點けて、ベッドの傍らで膝を著いて長い黙禱を捧げる。靜寂には、気が付けば桜の嗚咽が混ざる。二ヶ月間、生活を共にしてきたという桜にとって、梨絵や鷹橋の死は耐えられない筈のもので。むしろ、この瞬間まで気丈に振る舞っていられた事に、彼の芯の強さをじる。
徐々に桜の泣く聲は大きくなってきて、そっと禱がその肩を抱いていた。それを見た明瀬は靜かにその場を離れる。
あの時、香苗を引き留めておくことが出來なかった事を、明瀬は再び後悔した。あの二人は何処へ消えたのだろうか。香苗もまたゾンビに変わり、それでも彼は構わないと思ったのだろか。
「お葬式か……」
明瀬は一人呟く。
今までしたことがなかった。そこまで気が回らなかった。矢野が死んだ事が、改めてを締め付ける。
葬式は、死者の為のものではない。殘された人の為のものだ。先に行った者、取り殘された者。その折り合いをつけて、その事実をただ事実として消化できるようにするものである。だから今まで葬式を執り行わなかったのは、その事実を既に消化出來ているということだろうか、とふと思った。
禱は悲しむことが上手く出來ないと嘆いた。
明瀬は、それならば、自分は上手く置き去りにされすぎていると思った。
なら、それで良いではないかと思う。誰もがみな同じように取り殘されてしまうなら、きっとそこで時が止まってしまう。先に行く者がいて、取り殘される者がいて、そしてそうでない者もまた必要なのだ、と。
「これが私の戦いってことじゃないかな」
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