《クラウンクレイド》『18-3・Mother』
18-3
別れを済ませ、出発の準備を終えて、午前中に桜達はホームセンターを後にした。
ホームセンター1階フロア、及びホームセンター裏口周辺のゾンビは加賀野と禱の二人で難なく突破が出來た。明瀬の考案で花火を利用した為でもある。ホームセンターに売っていた小型の打ち上げ花火の導火線をばし、禱の魔法によって火を點ける。こうすることで、離れた位置で大きな音を立てゾンビの注意を引く目的であった。これは存外上手く行き、ゾンビとの接近自を減らす事に繋がった。屋外では別のゾンビを招き寄せる可能があるものの、屋では有用な手段となる。
またその工作と並行して、明瀬が別のを作っていた。小型の攜行缶に、大量のZIPPOオイルの中を移し替えていた。禱の発火能力と合わせて、何かに使えるのではと用意したものである。例えば、ゾンビに向かって投げ著火させれば、炎が燃え広がる。禱に負擔をかけずに火力を上げれるということだった。もっとも、ホームセンターが火事になる事を懸念し攜行缶の方は一度も使用せずに終わった。
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これは魔二人を含む三人組という數行であった事、桜の魔法が広範囲を攻撃できる事、その二つの要素によって移自は比較的スムーズにはなった為である。
道を埋め盡くすゾンビであれば、桜によって排除し、走れるゾンビに対しては禱がそれを打ち倒す。禱の杖が無い事、そして調が本調子で無い事に関しては桜が上手くカバーした。
萬全の準備かつ急な接敵を回避する。至近距離での接近さえ避ければ、複數のゾンビを相手取っても十分に余力を殘して対処が出來た。
それ故に、呆気ない程簡単に、桜達は加賀野家へと到著した。帰宅と呼べるほど、幸せな気分でもなかった。禱と明瀬にも家族がいる筈で、それを考慮しなかった事を桜は後悔したが、彼達は見た上では何の変化も揺もなくその表を崩さない。
禱が冷靜に言う。
「行こう」
加賀野邸は、周囲に民家のない閑靜な場所に存在している。家の周辺をレンガ調の高い壁が覆っており、庭の広さ故に、外からでは二階建ての建の外観が小さく見えるばかりである。黒塗りのシックな洋館であり、大正時代に建てられたものを改修して住み続けている年代であった。正面り口は背の高い門扉があり、その堅牢な造りはゾンビの侵を容易く防ぐであろう。
橫の通用口の前で、桜は首から下げていたペンダントを取り出す。それが鍵になっており、通用口から三人は中へとった。門を抜けると、敷地には広い芝生が広がっており、門から洋館まで延びるアプローチは數十メートルはある。音はせず、人の気配はなかった。
冬が近づいて寂しくなった芝生と植木が続く。その広い敷地に明瀬は嘆の聲を上げていたが、禱は冷靜な口調で言った。
「壁も高いし庭も広い。ゾンビ相手に立て籠るのに最適な建だね」
「禱さぁ……」
「冗談だよ、明瀬ちゃん」
「加賀野ちゃんの家、めっちゃ金持ちなんだね」
明瀬の言葉に、桜は素っ気なく返事をした。
広大な敷地を進んで、加賀野邸へと著く。やはり人の気配はなく、ゾンビの襲撃に遭ったような様子もない。二ヶ月ぶりの我が家が、何も変わっていないことに、桜は一先ず安堵した。
明瀬のテンションは明らかに高く、建の外観を眺めては楽し気に言う。
「細部がレンガ造りの洋館。広い窓にテラスに、そして重厚ある大正ロマンな趣の玄関。しかもドアには磨りガラス。良いなぁ、こんな所に住んでみたいよ」
「広いっていうのも不便なものよ」
「言ってみたい! そんなセリフ」
「……気にってもらえて、なによりだけど」
玄関は開いていて、中に進むとソファの並ぶフロアに続く。電燈は點いていなかったが、採の良さと、幾つか燈してあるLEDのランタンで問題は無かった。ランタンのスイッチが點いていると言う事は、誰かが建にいると言う事である。後ろをついてきた禱が、「電気か」と呟いていた。
二階から音がして、桜達は一斉にその方を見る。
「お母様」
その言葉に、禱と明瀬は桜の顔へと視線をやった。加賀野の母である「恭子」は、今年で40歳になることをじさせない見た目である。化粧っ気はないがシワとシミの気配もない。腰まである長い髪を緩やかに結ってあり、雰囲気の通りチェニックとロングスカートを著ている。目元と鼻筋の辺りの雰囲気が、桜とそっくりであった。
恭子は桜の姿を見て、驚いた表を見せた。
「無事だったのね、桜」
恭子は階段を勢いよく降りてきた。駆け込んで來て桜のを強く抱きしめる。その手が震えていて、聲は涙に呑まれて上手く言葉になっていなかった。痛い程抱き締められて、桜はその時やっと、母に再會できたことを実する。
その意味を理解する。気が付けば、知らないに泣いていた。すがりつかれるように泣かれて、桜は溢れ出す涙を拭う事も出來ず、聲をらせる。
「ただいま……戻りました」
「良かった、本當に。無事で良かった」
「々あって遅くなりました」
抱擁は長い時間続いて、そうしてそこで初めて恭子が禱達に気が付いたようだった。
「それで、そちらの二方は?」
そう問われて、禱と明瀬が頭を下げる。名前を名乗った二人に慌てて桜が付け加えた。
「二人とも魔なんです、お母様」
「魔、そう……。桜、2階の寢室に案して差し上げて。落ち著いたら食事にしましょう」
桜は不安になって恭子に聞いた。父の姿が見えなかった。どうしても、狀況が狀況だけに嫌な予ばかりが過る。
「あの、お父さまは……?」
「奧で休んでいます」
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