《クラウンクレイド》『18-4・Historical』
18-4
禱と明瀬が案された寢室には西際に面した大きな窓と、その下にベッドが二つ並んでいた。白で統一されたカーペットと壁紙、木枠の窓と西洋風のインテリアに明瀬が嘆の聲を上げる。窓を開けるとし埃臭い空気が逃げていく。窓の外には背の高い木と、その背景には先程の広い庭が広がっていた。
部屋の隅々の検分を始めた明瀬を微笑ましそうに見ている禱の姿に、桜はふと明瀬の言葉を思い出す。禱がこんな風にらかな表を見せるのは、明瀬相手だけなのだろうと。
桜に見つめられている事に気が付いてか、禱が振り返る。
「良かったね、加賀野さん」
「え?」
「お母さんに會えて」
「それは、その……、二人の気持ちを考えてなくて悪かったわ」
禱と明瀬にも大切な人が居る筈で。桜はし気後れしていた。しかし、禱は全く気にしていない様子で。
「そんな事に気を遣わなくていいんだよ」
「……きっと、禱の家族も何処かで無事で居ると思うわ」
「良いんだ。何か諦めちゃってる自分がいるから。私と明瀬ちゃんが生き殘る事が最優先だから」
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その何気ない臺詞は。桜には重たく聞こえた。
明瀬の言葉を聞いた時、二人は歪んだ関係であると桜は思った。世界中の全ての人を切り捨てても構わないと禱はきっと思っていて。禱はそれほどまでに抱え込んでいるのに、明瀬へのも抱え込んだままで。明瀬はそれを知っているのに、そのままにしている。互いに互いを縛り付けている様に桜は思っていた。
そしてそれは、桜にとっても不安な事であった。何かあれば、自分の事を切り捨てても禱はきっと表を変えないだろう、と。
恭子に食堂に呼ばれて、食事となった。レンガ造りの大きな暖爐、テーブルの上に置かれた立派な燭臺。洋館らしいそれに、明瀬はやはり喜んでいる様子であった。加賀野家は代々電気の魔法を継承しており、恭子においてもそれは例外なく、生活に支障ない程度には館の電気が點いていた。
食事としてレトルトパウチのスープと缶詰、缶りのパンが並ぶ。備蓄食料について恭子は禱に説明した。
「加賀野家は非常時の備えを重んじてきました。外壁も食料の備蓄もその賜です。魔は、その存在を脅かされるという意識があったのでしょう」
ヨーロッパでの中世における魔狩り、それを逃れた魔の家系が日本に行きついたのが加賀野家の起こりである。その出自故のだと恭子は言った。
禱は自の魔家系についてかいつまんで話し、そして明瀬の魔法についての話になった。今まで起きた事を順序立てて桜は説明する。
ゾンビ化の免疫が明瀬と佳東というにはあった事。そのどちらも魔家系で無かったのに魔法の力が発現した事。シルムコーポレーションという製薬會社が魔を探している事。
それを聞き終えて恭子が口を開く。禱へと向けた言葉であるようだった。
「中世における魔とは、そもそも実在していたものです。実際、魔法の力があったように。
しかし時代の変遷で魔法は伽噺の中のになり、魔は空想の産になりました。魔狩りは當時の社會勢やキリスト教が大きく絡んでいますが、現代の認識においてその事が真実を歪めています。
魔や黒魔は存在せず、魔と『された』人々が迫害されたものだと思われている。実際には本の魔が混ざっていたのです。現に、加賀野家は中世ヨーロッパの魔狩りを逃れた魔であったように」
それが何の話に繋がっていくのか、と桜達は続きを待った。
かつて魔法は「真に」魔法と信じられ、それ相応の扱いをけた。しかし、現代においては魔法は空想の産であり、魔狩りをけた魔についても、空想の産であると捉えられている。それについて尤もらしい説明と解釈が現代ではなされているのだ。
「つまり、當時の資料に載っていた記述は現代と狀況が違うということです。例えば魔法や魔についての當時の資料が、間違いや勘違い、誤った科學知識によるものだけではないということ。雷を起こす魔、と聞いて現代の社會とかつての社會ではけ止め方が違うでしょう」
「魔が雷を起こしたという記述は、現代においては自然現象が偶然に噛み合ったものと捉えてしまいますが、実際には本當に雷を起こした可能がある。そういうことですよね? 加賀野家が雷撃の魔であるように」
「そうです。そして、今回の騒と繋がる話になりますが。魔狩りの口実として、魔が疫病を流行らせた犯人である、という話があります」
明瀬が頷いた。よくある話だね、と。
「その中で、とある地方の疫病について、興味深い記述があります。死者が歩き回り共食いを始めたと言うものです。今、外で起きている事に似ていると思いませんか」
「ゾンビだ」
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