《クラウンクレイド》『18-5・Blood』
18-5
明瀬が間髪れず口を挾んだ。恭子が頷く。
「そうです」
「明瀬ちゃんが言ったように、當時ゾンビが居たとして。ゾンビを作り出したのが疫病、そしてそれを流行らせたのが魔、だということでしょうか」
「もっとも、魔に疫病を作る力はないと思います。ですが、逆に考えるべきです。何故、この魔が疫病を流行らせたとされたのか、をです」
言葉の意味が桜には理解出來ず、だが明瀬が何かに気付いたようで。パンを千切っていた手を止めて明瀬は言う。
「抗だ」
抗、という言葉に全員が表を変えた。桜はその言葉に首を傾げる。
「どういう意味?」
「疫病がその一帯に流行って、もし一人だけ生き殘った人間がいたとしたら。その人が魔と認定されて吊るし上げられてもおかしくないじゃん?」
「その人が偶然生き殘った事に意味を見出そうとしたからね?」
「そう。偶然疫病の抗があった人間が生き殘ったけど、當時細菌やウイルスについての科學的な知識は無いから。その生き殘った人には何かしらの理由があると思われて魔と認定され……、いやそうじゃない」
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明瀬の言葉は止まり、何か別の可能に行きついたようで。その反応に、恭子が頷いていた。彼が言わんとしている事から遠からずであるようだった。明瀬はまるで獨り言のように続ける。
「多分言いたいのはそうじゃないんだ。逆だ。魔には、疫病の抗があった。疫病を逃れたから、その魔は疫病を流行らせたとされた。魔と疫病の因果関係はなくとも、魔は魔であったから生き殘ったんだ」
明瀬はなくともゾンビに二回噛まれている。禱が出會っていた佳東も、本當はゾンビに噛まれていたが、発癥の兆しすらなかった。通常であれば、ゾンビに一回でも噛まれれば、即座に染するにも関わらず。
明瀬の続けた話の容に食を失くして、桜は手を止めた。けれども明瀬は千切ったパンを口へ放り込み、食べる手を止めずに言う。頭を働かせる度に、エネルギーを失っていて、それを必死に取り戻そうとでもしているかのようだった。明瀬は辿り著いた結論を述べる。
「魔の才能と、ゾンビ化の抗には関連がある」
「私はそう思います。魔のは、何らかの抗を持っているのではないかと」
明瀬の仮説に恭子は頷いた。それが偶然か、それとも歴史的に筋が繋がってきたせいかは分からない。だが、狀況的には在り得る話ではある。恭子はそう話を締める。
シルムコーポレーションは製薬會社である。わざわざこの狀況下でヘリを飛ばしているのならば、それ相応の目的がある筈だった。なくとも生存者の救助ではないのだから。
明瀬が禱に向けて言う。
「シルムコーポレーションが魔を集めているのなら、ゾンビ化ウイルスの抗について知っているのかもしれないよね?」
「次にシルムコーポレーションに向かう、加賀野さんはそう言ってたけど。どうする?」
禱と明瀬が桜の方を見た。シルムコーポレーションは安全であるとも限らず、その道中に何があるとも限らない。禱と明瀬が何に気を使っているのか、桜は言われずとも分かった。
こうして家に帰って來れた、両親にも再會できた。これ以上危険な道を行く必要はないと、暗に言われているのだと。そしてその言葉の更に裏には、禱と明瀬の二人はまだ進み続けるとも付け加えられていた。
桜は恭子の方を見る。この場所は終著點ではない。ならば、此処にいつまでも留まる事は出來ない。いっそのこと、両親を連れていくべきではないかと桜は思う。
しかしシルムコーポレーションが信用に値するかどうかも判斷が出來ない。
その危険と意味が重たく圧し掛かり、次の言葉が出てこなかった。恭子は何度か瞬きを繰り返して、穏やかに、けれども厳かに言う。
「桜、行きなさい」
「お母様……?」
「もし、その會社が本當に魔のでワクチンか何かを作ろうとしているのなら、協力するべきです。それで救える命があるのだから。それが持つ者の義務でしょう」
「なら、お母様も一緒に」
「私は此処にいます」
きっぱりとそう切り捨てた。強い意志をじさせる一點の迷いもない言葉だった。
恭子は禱と明瀬の方へと、椅子に座ったまま向き直る。雰囲気が変わったのをじ取って、明瀬が背筋をばした。
「桜を宜しくお願い致します」
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