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優子が肩をすくめた。その意味が弘人には上手く判斷できなかった。彼の白姿や首から提げたＩＤカードからして、彼がただの「一般人」となっている事は無いだろう。ならば、この狀況は何だ、と弘人は気になった。

「もっとも、サンプルを手した時には全てが明らかになっていたわけではないよ。此処までの染拡大は予想外でもあった。多くの研究者も知らずにいた。

中國政府は新種の染癥の発生を否定していたし、そこから生じる微妙な問題によってＷＨＯはＪＭウイルスについて公表していなかった。そもそも初期染の封じ込めは失敗してはいたが、染である以上地理的な障害は殘るものだ。知っていた一部の者も、世界規模の染になるとは思っていなかった」

「なら、今こんな事になっているのは何なんだ」

「ＪＭウイルスには、細胞を破壊するタンパク質を生する質があった。これにより染者に大量出をさせ、周囲にをばらまき染を拡大する。そんなやり方でＪＭウイルスは大量染を引き起こした」

弘人があの日に目撃した、破裂する男。破裂するゾンビ・スプリンクラーの事を話しているのだと分かった。男の周囲にいた人間、數十人が一気に染しゾンビとなった。あれが至る所で起きたというのか。

「その破裂するタイプの染者が街中で染拡大を引き起こした。恐らく世界規模で、だ。だが、疑問が殘る。中國南西部で起きた染癥がどのルートで日本に渡ったのか、そして同時期に一斉に広がったのか。潛伏期間が短く、染するＪＭウイルスが空港の免疫検査にも引っかからず、日本にった事に誰も気が付かないまま広範囲に拡散するルートが分からなかった。神の悪戯とでも言いようがない」

「何を馬鹿な事を」

もういっそ、私が諸悪の源。全ての事態を巻き起こした犯人。ゲームで言えばラスボスである、優子がそうとでも言ってくれれば気が楽になりそうであった。

「問題は既にＪＭウイルスがパンデミックを起こし、それによって國家機能不全となっている事だ。通信が途絶する前に報がってきていたが、アメリカも歐米諸國も、アジア全域でもほぼ同時期にパンデミックが起きている。パンデミック発生時、私達研究所の職員は、建に立てこもる事を選択した。幸い、セキュリティ対策で外からの侵には強いようにできているからね。まぁ救助の可能も見えず、私達はこのＪＭウイルスの解析に努める他無かった」

優子の言葉に熱が籠ってきていた。今までのは長いチュートリアルで、ここからが本題だと言わんばかりだった。いつの間にか、語る彼の姿には振り手振りが混じる。

シルムコーポレーションは大手の民間製薬會社である。そこの研究所が、ウイルスについて研究をしている。弘人の中で、一抹の希が宿る。

「ウイルスに対して先天的に抗を持っている人間がいるのは間違いが無かった。染率は高いが１００％ではない。捜すのは大変だったが數名のサンプルを研究所の人間で見つけた」

「じゃあワクチンが作れるのか」

「その話は後にしよう、問題はそこでは無い。私は抗のある人間の殆どに、ある共通した特徴がある事に気が付いた。そしてその特徴がある人間の方がより強い抗を持っていたのだ」

「特徴？」

「そうだ。ちなみに私にも抗がある事が分かっている。その特徴も持っていた。君にも抗があるのは確かだ、なんせ噛まれても染していないし、その特徴も持っているのだから」

弘人は左腕に視線を落とした。包帯で巻かれている向こうで、鈍い痛みが走り麻痺する。梨絵に噛まれた事が、梨絵がゾンビとなった事が、梨絵を絞め殺したが、思い起こされて弘人は吐き気を堪えた。あの時、噛まれた後も暫くけたのは、染していなかったからという事だ。

「話はし変わるが、シルムコーポレーション本社からの救援としてヘリが２臺研究所に來ていた。その後に本社は壊滅してしまったようだが。私はヘリを利用して、抗のある人間を探そうと考えた。サンプルが多ければ多い方が良いからな」

「待ってくれ、その特徴ってやつは何なんだ。俺には心當たりがない」

「厳に言えば、君は持たざる者だ。抗に起因するを持っているが、特徴が目に見える形では現化しない」

何を言っているのか弘人には分からなかった。優子が座椅子から立ち上がる。ベッドの周りのカーテンを引いて部屋の全容が見えるようにしていく。部屋全が見渡せた。ベッドが並ぶ殺風景な部屋である事は変わらなかった。數は４つでし窮屈に並んでいる。

はめ殺しの窓の向こうには、枯れた枝葉が見える。急にベッドを囲うカーテンを開けて、座椅子を引きずって、そうして部屋の隅まで歩いていった優子の行の意味が弘人には理解出來なかった。

彼は背を丸めて座椅子を持ち上げる。そして突然天井へとそれを放り投げた。天井スレスレまで飛んでいきそして、重力に引かれて緩やかに落ちていく。

「抗がある人間にはもれなく、ある才能があった」

突如、座椅子が空中で靜止した。優子がの前に差し出すように広げた掌から、約３０センチ程上。まるで無重力の様に、何か見えない糸で吊るされている様に。座椅子は空中で浮遊していた。その景に弘人は息を呑む。

抗の有無、その差異を明らかにする特徴。

「魔法の才能だよ」