《クラウンクレイド》『23-2・Infernal』

23-2

シルムコーポレーション研究所の地下一階にある研究室。背の高い薬品棚と黒の機が並ぶ中、研究者である千葉が居た。千葉は20代の線の細い男であり、かけている銀縁の眼鏡や窪んだ目元の辺りが、その神経質な格を表していた。千葉は白を著ており、その手に、銀針の注を持っている。何かのを裝填して、彼は満足げに笑った。

誰に話しかけるわけでも無く、獨り言を口にする。

「最初はよー、研究者なんかになっちまうなんて『ツマラネェ』と思ってたんだけどさ、こういうのがあると案外役得だなって思ったね。普通に生きてたら経験できねぇものばっかりなわけでさ。ワクチン作って世界を救うなんてのも柄じゃないし? シンギュラリティはあの頭のおかしいやつしかいなかったし? こっちの方がに合ってるわけよ」

彼は席を離れ、注を片手に部屋の隅へと歩いていく。部屋の隅に倒れている香苗の肩を暴に足の先で小突いた。足で肩を小突かれて姿勢がし変わり、香苗の顔が見えるようになる。彼のひどくれた髪が肩から床にっていった。その手首にはプラスチック製の細いバンドが巻いてあり、自由にきが取れないようになっている。

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香苗の顔は蒼白としていて、その目は死んだようにが見えない。目の辺りには涙の乾いた跡があって、頬にはの流れた傷跡と口元に白いが付著していた。

類は刃で切斷された様に、糸がほつれて裂けていて、全出していた。裂かれ千切れた下著が床に落ちている。赤と白の混じった粘著が、大きく膨らんだ彼や、彼の太の付けの辺りに付著していた。

肩をつま先で小突いても反応の見せない香苗の姿に、千葉は舌打ちする。

「起きてよ。一回楽しんだから、後は別の方法で良いかなって思ってさ。何かもう汚いし」

彼は暴に彼房をつま先で押した。力が加わり、房はらかく形を変える。蹴られた彼は床に仰向けになった。彼はその側へしゃがみ込み、手にしていた注を見せる。

「この中にさ、培養したJMウイルスがってんだけどさ、々改良してみたんだよ。ホント大変でさ、職員片っ端から試したんだけど、上手く行かなくてみんなゾンビになっちゃうんだよ」

彼は香苗の二の腕を摑み、指先でなぞった。

「今度は多分上手く行くと思うんだよね。意識を保ちながらゾンビになれる筈。許容するのか、変容するのか、修正されるのか、試してみたいわけよ」

「ぃ……ゃ……」

掠れた聲を香苗が上げて。彼はそれを聞いて満足げに頷き笑った。そして注針をその腕に刺した。明なその筒の中のが無くなっていき、そして針が引き抜かれる。

香苗の腕が痙攣を始めた。それは徐々に全に広がっていき、床を跳ねるようにのたうち回る。絞り出された聲が、言葉にならずに獣の様な鳴き聲に変わる。それを見て千葉は數歩下がり、機に置いてあった消防斧へと手をばした。右手で柄を握り、軽く振ってその重さを確かめる。斧にはべったりと糊が付著していて、黒く変していた。

床をのたうち回っていた香苗が大人しくなり、その皮が蠢くようにいていた。管が浮かび上がり始めて、それがを繰り返している様子がの上からでも分かる。まるで別の生きが皮の下にり込んでき回っている様だった。大きくくたびに、彼の四肢は數度痙攣を繰り返し、そのの奧から苦し気なき聲がれる。

突如跳ね上がるようにして彼が起き上がった。ばねの反の様な奇妙なきだった。立ち上がった彼の顔は、既にを失い、瞳は白濁している。はち切れる様な音が鋭く響いて、彼の両腕が自由になった。背中側で拘束されていた腕が、そのバンドを引きちぎったのだ。その腕は三倍ほどに太く膨れ上がり、その皮の下で隆起した筋が幾層の筋を描いている。腳も同様で、それによって長が一回り程高くなっている。屈強な付きに変わり、その左の辺りには巨大な心房が浮かび上がってきていた。

それを見て千葉は聲を震わせる。手にしていた斧がり落ちて床を転がった。香苗が一歩踏み出すと、慌てて千葉は後退る。機に背中をぶつけて、床に倒れた。機の上に置いてあった薬品の瓶が転がり、割れて零れる。床に転がった斧を慌てて手繰り寄せて握り締める。

傍らの非常通報裝置のボタンを叩き、彼は怒鳴る。

「ちょっと待てよ! 何でお前がアダプターになるんだよ! おかしいだろ! おかしいだろこんなの! アダプターになれるわけないだろ!」

その悲痛なびは、彼のから零れたが立てる音でかき消された。

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