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弘人が寢かされていたのは建３階のフロアであった。廊下に飛び出して、地下フロアへと至るルートを探す。だが、弘人の行く手を阻んだのは大量のゾンビの群れだった。何れも白姿をしており、元はこの施設で働いている研究員達であるようだった。地下フロアの急事態とはこの事かと思ったが、ゾンビ化が進み過ぎている。そのに付けている洋服の損傷合からしてもここ數日以に染した様にも見えなかった。

外部からの侵だろうか、いやそもそも施設で染が拡がっていたということではないだろうか。弘人は踵を返し、來た道を戻る。足の遅いゾンビを置き去りにして、別のルートを探した。

屋階段の場所を見つけるも、ゾンビの群れが廊下を塞ぎながら此方へ向かってきていた。近くの部屋へと弘人は飛び込み扉を閉めた。

部屋は小さめの個室であり、機と椅子とちょっとした小だけが置いてある。機の上に置いてある手帳を開いてみた。

走り書きが多くれた文字を読むのに多苦労したものの、その容を読み解くことは出來た。そして、容に弘人は驚愕し、無意識のに手帳を握り締めていた。

端的に述べるなら、この施設で起きた染拡大は意図的なものであった。

ヒトにしか染しないこの特殊なウイルスについての研究を行うにあたって、研究者達は「サンプル」を必要とした。生存の為の資が足りなかった事もあり、施設にいた人間にウイルスを染させたという。その中心に居たのは三奈瀬優子とその助手の千葉であった。

三奈瀬優子が執著していたのは清の作だった。ヒトにしか染しない、そして外部とのコンタクトも取れない。そんな狀況下だからこそ、清の作の為に人間を犠牲にする。その狂気じみた行に、多くの人間が嫌悪を抱き反対した。しかしそんな人間を無視して優子は強手段を取ったという。

最初は數人だった、だが皮にも。その一件が生存者達に火を點けて、狂気は一気に加速した。ウイルスの解析が進むにつれ、救助が絶的になるにつれ、資が減っていくにつれ、その狂気は蔓延し膨らんだ。生存の為に、生存者同士は互いを蹴落とそうとした。生き殘りをかけて他人をゾンビに変えていったのだ。當初ゾンビはサンプルとして収容されていたが、そのスペースを圧迫し、崩壊した後に施設をゾンビが埋め盡くしていった。それでも、三奈瀬優子と千葉はその事態にもじずに研究に沒頭していったという。自らが染することを全く恐れていないその姿に、生存者は徐々に心酔していったという。

手帳の持ち主は生存者の一人であったようで、その狂気が蔓延していく様子を淡々と、けれども鮮明に書き連ねてあった。記述は清が完する寸前であることまでを記す部分で終わっており、それ以降は白紙だった。持ち主がどうなったのかは、あまり考えたくないことである。

「姉さん……そんなのおかしいだろ」

手帳を機の上に戻して、弘人は部屋を出た。やり過ごしたゾンビの群れは何処にも見當たらず、弘人は屋階段へと向かう。施設の職員の數は不明であるものの、なくともゾンビと遭遇する可能は大いにあるのだ。一気に地下フロアまで駆け抜ける事にした。

ゾンビの群れをやり過ごして階段を一気に下り、弘人は地下フロアへと到達した。屋階段は、廊下との間を重厚な扉で仕切られていた為、ゾンビとは遭遇せずに済んだ。地下フロアは、ドアだけが並ぶ殺風景な廊下が続いていた。

大きな音が遠くから鳴って、弘人はその音の方へ進む。廊下の角を曲がった先で見たのは、部屋のドアを破り出てきた大型ゾンビの姿だった。何度か遭遇したことがある。知能が殘っており、も強化されているタイプのゾンビだった。共通している特徴通り、は激しく隆起し、その元には強靭な心房が出している。

その右腕はで染まり、人の死を引きずっている。それは白姿の死であり、それが床を引きずられていく度に、ねっとりとの跡が廊下に描かれる。

だが、それよりも。弘人はその大型ゾンビの顔を見て息を呑む。

「香、苗……！？」