《クラウンクレイド》[零10-4・箱庭]
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ハイパーオーツ政策、いや彼等の選択は人類という種の生存のみが主眼に置かれていた。そうまでしなければ食糧危機の時代を乗り越えられなかった。その時犠牲になるものに気を配る程の余力は、彼等にはなかった。
曲がりなりにも、その一部を何とか殘そうと考えた者達によって此処は造られたという。種の保存の為に、その全てをこの小された自然に、箱庭と呼ぶべきこの場所に保管した。
私達の居る場所からはこの箱庭の全容が見渡せた。遠くの方に見える地平線は本當はドームの壁でしかなく。見上げれば目に飛び込んでくる太のしも、結局は電気による源でしかない。
青空はレイリー散によるの作用ではなく、そうと気が付かない様にに描かれた晶畫面でしかない。その偽りの中でも、確かに此処には生命が息づいていた。
「アタシ達が生まれた時にはさ、もうビルと農地しかない世界だったけど。それでもかつては、こんな場所がホントに存在してたわけじゃん。なんつーか、すごいよな」
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都心部を外れると広大な農地とインフラ設備が並び、そして更に奧に、つまり地形の都合上農地に適さなかった土地まで進んでいかない限りこんな世界はもう殘っていないという。
私達の背後で足音がして、振り向いてみるとムラカサさんがいた。
「ドウカケ先生に聞いたら多分此処だろうって」
「すごい場所ですね」
私の素樸な想に、ムラカサさんは空を仰ぐ。
「皮なことに種の保管という意味では、今の狀態の方がよっぽど健全かもしれないわね」
「健全?」
「人間が蝕み続けてきた環境は、限界を迎えようとしていたわけ。この植園ならば絶滅など起こらないように様々な要素が調整されているわ。溫度、度、大気の狀態、食連鎖の結果によるバランス。全てが調整されて、ここにいる全ての種が適切である様に保たれているのよ。適切とは、っていう定義はとりあえず置いておくけど」
「でも、それは……。自然であって自然じゃないと思います」
「それについては同意見だわ」
いつかの明瀬ちゃんの言葉を思い出す。進化の結果を語る際の価値観は、その生息域の拡大に貢獻できたかどうかでしかなく、そこに優劣は無いと。
ムラカサさんがその顎に手を添えて。
「私達が一つの種を絶滅という結果から救ったなら、本來はそれは自然と言うべきではないかもしれないわね。そこに人間の手が介した時點でその本筋から外れてしまうのだから」
それでも、と彼は言葉を続ける。
「その種の絶滅が生存競爭の果ての、元を辿れば進化の失敗であるのか。それとも人のせいなのか。そもそも人という存在すらも自然の一部と捉えるならば、その絶滅は自然の摂理と言うべきなのか。そんなこと、誰も結論など出せる筈がないのよ」
「それはそうですが」
「人という種の存続の為に何かを犠牲にすることに心を痛める誰かが居て。限られたリソースの中で、最大限に出來る事がこの箱庭だったわ。他の種の絶滅、その是非を問うにはあまりにも時間が無さすぎた。追い詰められた人類は、生き延びる指針を示したリーベラと、それが提示した『鎮痛剤』に縋るしかなかったのよ」
ムラカサさんは言う。
他の種について考える生きは人だけであると。生存競爭という椅子取りゲームで、自分達が奪った椅子に座れなかったモノ達について、心を痛める生きは人だけだと。
椅子取りゲームを否定すれば、それは生としての幹の否定だ。けれども、それを肯定するには人という生きはあまりにも増え過ぎ、そのにというものを育てすぎてしまった。
ふと、かつて言われた言葉を思いだす。人はアンブレラ種ではなく、そしてキーストン種でもないのに、自然に與える影響力はあまりにも大きいと。既に人はその軛の中から外れて、そして新たな軛を自分達で作り上げてしまったのだと。
「ゾンビは人をあるべき姿に、生態系に戻す為のものだと言っている人と會いました」
「それも正しいのかもしれわね。私達が全てを犠牲にして呑み込んで。その拡大を止められないのに、それは罪だと嘆きもして。そうしてこんな風に箱庭なんか作り出して。この箱庭は今に始まったことじゃないわ、ずっと前からそう。嘆くくらいなら足を止めてしまえばいいのに。それともその聲を捨ててしまえば良いのに。でもそんな事出來る筈も無くて、中途半端な十字架を立てるの。その罪を裁かれる時が來たのかも、ゾンビなんていう悪趣味な形で」
その言葉には怒りのは見えなかった。諦観じみた他人行儀な溫度をじた。それは彼の価値観によるものであるのか、それともこの世界がそうさせたものであるのかは、私にはまだ判斷が付かない。
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