《クラウンクレイド》[零11-6・摂理]
0Σ11-6
駆け寄ってこようとしたレベッカを振りほどいて、ウンジョウは震える足取りで通路の壁にもたれかかる。
腕にはハッキリと歯形が殘っており、が滲み出していた。ゾンビに噛まれたという事実に視界が暗転しかける。額から一気に汗が噴き出し始める。
染率は90%を越えるこの病は、その原因が未だ分からない難病である。染した人間からの染によって発癥し、理と呼べるものは消失し見境なく食のままに人間を襲いだす。抗の有無は実際に噛まれるまで分からない病。
その表を蒼白とさせて、口元を震わせるレベッカの姿が見えた。
「発癥までの時間は十數秒から一分……」
「なんで、そんな……」
意識が遠のきそうになる。激痛とは違う、何かが中を這い廻っているような覚。奧から湧き上がってくるような衝と頭が割れんばかりの頭痛。
これは、駄目か。とウンジョウは諦観を抱く。
「あの日、お前の両親が死んだ時。俺がお前の両親を撃ち殺した時」
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語る言葉は、いつも心の片隅にあって。それでも口にしなかった言葉。レベッカに伝えるべきであって、そして伝えるのを躊躇っていた言葉。
「強くなれ、と言った。お前の父親が死んだのは弱かったからだと思ったからだ。全てを救おうとして何も救えず、それどころか全てを喪った哀れな男だ」
「何を……言って!」
「俺はアイツに死んでしくなかった! 全てを喪ったのはお前だけじゃない!」
あの日、誰が死に誰が生き殘れば良かったのか。何度もそれを考えてきた。そんな問いに意味はなく、そんな問いに答えは無く。ただ一つ言えるのは幾つもの「if」を重ねても全てを選ぶ選択肢はなかった。
されたのは一人のいで。ウンジョウにとって、それは呪いでもあり救いでもあった。彼が戦う事を決意して彼に銃の扱いを教えてくれと懇願した時。何処か救われた様にじた。
自分達が辿ってきたのが過ちであったのなら。それが弱さの結果であったのなら。彼に同じ道を歩ませずに済むと思った。その指が引き金のを覚える度にいつかの影を忘れることが出來るだろう、と。
「だから、お前は強くなれ……、俺やっ、アイツの様には、なるな」
意識は消えそうで、既に上手くもかなくて。
急激に視界が眩むのをハッキリとじた。のが沸騰している様に熱く、そして中で何かが暴れまわっている様な覚。を灼き臓と脳が何度も違和を訴える。
部から湧いてくるのは吐き気と渇と飢えと渇きと衝とと食と。
それでもその先の言葉を、未だ吐き出す。祈りでも呪いでもなく、ただ先へ進む為の言葉を。
「この世界は零和-zero sum-だ……何かを救えば、何かは救えない……何かを切り捨てれば何かを救える」
それが世の摂理ではないのだろうか。
いつだって世界は零和でしかない。世界の何処かで幸せが生まれる度にそれは誰かを踏みにじる。世界中に散らばっている不幸をしずつ救っていく度に、どこかの幸福はしずつそのを削る。
だからこそ。
「あたしはっ!」
薄れゆく意識と霞む視界の向こうで。
レベッカがその顔を歪ませて。幾つものをそこに埋め込んで。震える手でハンドガンを握り締め、その銃口を向ける先と引き金にかける指にう。
それではきっと、駄目だと。ウンジョウは聲を振り絞る。
「……だから、今のお前はきっと正しい……」
銃聲が、終わりを告げた。
靜寂が這い戻ってきて、その中で一人レベッカは立ち盡くす。硝煙の臭いにはが混じり床には赤黒い海が広がる。
両親を撃ち殺した相手を今自分の手で撃ち殺し。其処に何かの慨が生まれるわけでもなかった。両親の死には誰の責任も無いと気持ちは整理を既に付けていて。
だからこそ彼から謝罪がしかったわけではなく自責の念がしかったわけでもなく。何よりも、彼自についての言葉がしかった。
今まで、5年間を共にしても決して多くを語ることはなかった。その無表の裏に隠した何かを見せてしかった。全てを喪った、なんてびをもっと早く聞かせてしかった。
「……みんなが強いわけじゃないんです……」
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【Kラノベ ブックス様より1〜2巻発売中】 【コミカライズ、マガポケ様にて好評連載中】 剣、魔法、治癒、支援——それぞれの最強格の四天王に育てられた少年は「無能」と蔑まれていた。 そんなある日、四天王達の教育という名のパワハラに我慢できなくなった彼は『ブリス』と名を変え、ヤツ等と絶縁して冒険者になることにした。 しかしブリスは知らなかった。最弱だと思っていた自分が、常識基準では十分最強だったことに。あらゆる力が最強で萬能だったことを。 彼は徐々に周囲から実力を認められていき、瞬く間に成り上がっていく。 「え? 今のってただのゴブリンじゃなかったんですか?」「ゴブリンキングですわ!」 一方、四天王達は「あの子が家出したってバレたら、魔王様に怒られてしまう!」と超絶焦っていた。
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