《クラウンクレイド》[零12-1・英雄]
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まるでそこだけが晝間になってしまったかのように。闇夜の空を切り裂いた煌々としたの飽和。掲げられた焔がゾンビを薙ぎ払い炎の連鎖を引き起こす。地上を切り捨て空を目指した人々が建てた塔の天辺で、ゾンビに溢れまみれた地獄の真ん中で、一人のが杖を振るい炎を燃やす。
そんな景を隣のビルの屋上から見つめながら、仮面を付けたその人は呟く。赤外線センサーと変聲を蔵した仮面越し故に、しくぐもって電子音と混ざった奇妙な聲に変わる。顔を隠すにはあまりにも原始的な仕組みであるが、金のかかった代でもある。
「この世界に魔法などない。莫大なカネとヒトをつぎ込んだ彼らが出した結論はそれだった。魔法という奇跡を求めた故に、それが存在しないことを逆に証明してしまった」
彼ら、と呼ぶ聲には一瞬の嘲笑が混じる。
かつてその奇跡をんだ者達がいた。人のであるままに人を超えようとした者達。ヒト機能拡張プロジェクトと呼ばれたその計畫は、伽噺を追い求める夢語であった。
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そしてそれは一度は挫折し姿を変え趣旨を変え方法も目的も変わり、それでも尚この世界には魔法がないと誰もが思い知った。
だが、と芝居がかった聲で続ける。
「禱茜は遂に神話を打ち破った。誰もが信じなかった魔法という奇跡を起こしてみせた」
それは魔の再現であり、それはすなわち「この世界」には存在しない筈のそれを造り出してしまったという事。人とゾンビの爭いの渦中に焔を掲げた一人の魔。
それを人々は英雄とでも呼ぶだろうか、と仮面の下に皮じみた笑みを浮かべて。しかしそれでも、その姿に誰よりも魅られているのが自分自である事を否定できなかった。
「人ののまま人を超える、彼らのみを現してみせたか禱茜。だが、神話を殺す英雄は人であると言えるのかい?」
【零和 拾弐章・世界を記述する為の幾つかの公式について】
「エヴェレット!」
魔法の詠唱は最早必要なく。思い浮かべ想像したよりも遙かに速く、強く、燃え上がる焔が私の手の中にあった。私が名を呼んだ杖は返事こそしないものの、私に応えるかのように焔をぶち上げる。
杖の先端でが瞬くと同時にそれが膨大な熱量を生みだして、駆け抜けた熱線がゾンビを一瞬で焼き払い焦げた破片に変えていく。ビル屋上に溢れ出したゾンビの群れを薙ぎ払うとその亡骸は燃え上がり、そして風に煽られてビルから落ちていく。ヘリの炎上は収まる事無く退路は消えたものの、活路は見えた。
「レベッカ、このままビル部に突して使用出來るAMADEUSを回収する! その後に離!」
「……一何なんですか!? それは!?」
「魔法!」
「何を言ってるんですか!」
レベッカの、ゼイリ氏のその表は驚愕そのものといったじで、それでもそれに構っている暇もない。魔法は無盡蔵の力ではなく、経験上それには限りがあるのを知っている。私の神力と力が盡きるまでに、魔法があるに、この場を切り抜ける必要があった。それにヘリを攻撃し、ドウカケ先生達を殺害した人がこちらを狙っている可能も高い。怒りのはあったが、今はレベッカとゼイリ氏を連れて離する方が優先だった。
「魔法は実在したってのか」
ゼイリ氏の言葉に、私の中で込み上げてくるがあった。
そう、魔法はあった。確かに私の手の中に。周囲に焔が散って舞う中、私はそれを払いのけて頷く。
「まるで奇跡みたいじゃねぇか」
「奇跡……」
私は一度奇跡を目撃した事がある。かつて三奈瀬優子と相まみえた時、彼の放った槍が確かに私のを貫いたあの瞬間。何者かが私に謎の問い掛けをして、そして目が醒めた瞬間に傷は消えていた。まるでを貫かれたという事実が「消えてしまった」かのように。あの一瞬で事実が二つに分岐してしまったかのように。
あの瞬間も、今が2080年であることも、そして私の手に魔法がある事も。それが全て奇跡だとでもいうなら、神様とやらは隨分手の込んだ悪戯をするらしい。
ゾンビを燃やし亡骸が煙を上げる中、私を先頭に強引に進む。ビル部に突すると同時にゾンビは瞬く間に群がってくるが私はそれを焔でぶち抜いた。その亡骸は勢いよく燃え出して、それに起因して建部の廊下はスプリンクラーが作し始める。無數の水の粒子が降り注ぎ私を浸す。
しかしそれも私を止める事など出來ず。まるで豪雨に遮られた視界の向こうでいた影に向けて杖を向ける。水飛沫を水蒸気に変えて、焔の塊は勢いを失う事無く撃ち出され接近してきたゾンビを吹き飛ばす。
「退いてよ」
炎が燻り雨が全を濡らす中、私達はハウンドの兵裝庫まで辿り著く。中にいたゾンビは、周囲への引火を懸念して直前まで引き付け、その顎を焔の塊でぶちのめす。
予備のAMADEUSをレベッカが裝著して私はマガジンを補充する。
「ダイイチ區畫への帰還を目指すけど、ハンドガンの弾だけは殘しておいて」
私の脳裏にあるのは一瞬見えたあの言葉。フレズベルクのパーツがダイイチ區畫において製造された記録があるという一文だった。
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