《クラウンクレイド》[零12-3・何故]
0Σ12-3
「……何故それを?」
そこまで彼には話していない。だが言い當てられて、私は警戒心を強める。彼は確かに何かを知っている。
私の反応に彼は何度か額に手を當て、そして思考とを整理しているようだった。暫しの間を空けて彼は言葉に迷いながらも語り出す。
「偶然の一致かと思っていましたが、確信しました。信じられない事ですが、あなたがあの時の『禱茜』であるのなら」
「どういう意味ですか?」
「私とあなたはかつて出會っています、2019年のゾンビパンデミックが起きた世界で。二人組で行していたあなたは、別の生存者のグループと遭遇した筈です。あなたがあの時の禱茜であるならそれを覚えている筈だと思いますが」
「出會っている? 2019年に?」
「一人のい子供と、高校生の年と大學生の。若い男が一人。そして……魔が一人」
彼の言葉に私は衝撃をけた。何故、それを知っている。いやそもそも、どういう意味だ。私は明瀬ちゃんと一緒に向かったホームセンターで、そこに籠城していたグループと確かに出會った。い子供というのは梨絵ちゃん、高校生は三奈瀬君で、大學生は香苗さんの事。若い男は鷹橋さんを指し、そして。魔は加賀野さんという事か。
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何故それを知っている。いやそもそも、クニシナさんと私が會ったというのか。あの場にはクニシナさんなどおらず、そもそもそれは60年前の出來事ではないのか。
思考が纏まらず訳が分からず。それでも彼は言葉を続ける。
「私は鷹橋という名前であの場にいました。君と出會った次の日に、ゾンビの襲撃をけて死亡しましたが」
「何を言って……」
鷹橋さんとは確かに會っている。だが、彼が何を言っているのか分からない。鷹橋さんは屈強な男だった。彼とは似ても似つかない。そして彼は染しアダプターとなったのを、私が倒した。
クニシナさんがあの場にいた、というのはどういう意味だ。
私の脳裏を過るのは、あの世界で違和を覚えた幾つかの事。それが何故か、今急に場違いに顔を出す。
高校にいた葉山君の不明瞭な言葉と奇妙な態度。加賀野恭子さんの語った人像と一致しない、鷹橋さんという人。三奈瀬優子の語ったゾンビの特異と、彼も目撃した筈の私のに起きた奇跡。そして私自の事。
何故、葉山君は妹の存在に無関心だった。
何故、葉山君は私にシンギュラリティという謎の言葉を告げた。
何故、鷹橋さんの特徴についての証言が一致しなかった。
何故、あんなにも都合よくスプリンクラーによって染が拡がった。
何故、あの時私が怪我した事実は消失した。
何故、ゾンビの臓構造について科學的に説明が付かなかった。
そして。
何故、私はあの時にあんなにも冷靜でいられた。
何故、私は祖母や両親の事にすらも心が揺らがなかった。
それは。クニシナさんの言葉が。全部片を付ける。
「世界規模でのゾンビパンデミックが発生した2019年。その様な世界において生存を目指す。それがバーチャルリアリティゲーム、『クラウンクレイド』です」
「ちょっと……待って……?」
「そしてゲームには、特殊な能力を持ったNPC-ノンプレイヤーキャラクター-がいました。シンギュラリティという公式名稱が設定されたそれは、ゲームでは魔と語られています」
cladeとは、分子系統學の用語で共通の先祖から派生した全ての子孫により構される集団を指す。また、その分岐點から放狀に広がった様子を見た目から王冠に喩えcrown cladeと呼ぶ。
人とゾンビと魔は進化の分岐ではないか、そう語る為に一人のが引用した単語。それは此処で姿を変えて。二つの世界と記憶を結ぶ、その真実を記述する為の公式となる。
「私が鷹橋というキャラクターでプレイしていた時に會った魔は二人。加賀野桜と禱茜です」
【零和 拾弐章・世界を記述する為の幾つかの公式について 完】
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