【零和　拾四章・シンギュラリティエリミネーター】

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私はこの世界についての多くを知らない。見てきたのは足元に広がる地獄と、それから逃れる為に人々が造った聖域と。

空を目指して建てた塔は遠く高く、例え仮初であっても、足元に地獄が広がっているのも忘れるくらいに幸福の満ちた世界だった。

それを箱庭と稱した彼は私に語った。

この世界は歪で完全な世界であると。

その真意の全てを察する事は出來ないけれども、何を語ろうとしているかは分かった。

確かに安全で幸福な世界を人々は造り上げた。世界が地獄に変わるその手前でようやっと、人々を救う為の祈りは実を結んだ。緩やかな変化では救えないものが幾つもあったから、世界は急激に形を変えて歪ながら完全を目指した。

一度は世界は救われて、けれども簡単に崩れていって、そしてその事を誰もが忘れてしまって。そして足元には地獄が広がり続けている。

それを救える筈もなく、世界はそうやって歪で完全なものになって、終わっていく。

それを彼は恨んだ。この世界を創ってしまった者達を。人間らしさとでも呼ぶべきであろうか人の愚かさを、彼は憎んだ。

だから今、此処に彼はいるのだろうか。

「あなたはどうして全てを壊す事を選んだんですか、ムラカサさん」

私が呼びかけた名前に、仮面の人は意外そうな聲を出して。

「ほう？」

拠はあった。そして何よりもこの場所に現れた事が全ての疑念を結び付けてしまったとも言えた。

フレズベルクがゾンビを投下し、區畫への攻撃を行った。タイミングを同じにして區畫の各種防護システムがダウンする。ダイサン區畫の一連の事件は、フレズベルクが機械構造を持つ人工であったことから、何者かによる攻撃であると私達は推測した。そして部に通者がいる可能に行きついた。

「私とウンジョウさんは通者が區畫にいると考えていました」

フレズベルクのパーツを手した私達はそれをダイイチ區畫からダイニ區畫へと移送した。移送した日の夜にフレズベルクはダイニ區畫へと攻撃を行い、區畫ではゾンビによるものとは思えない染の拡大が起きた。そしてドウカケ先生とサキガタさんが何者かによって殺害された。

攻撃を行っている何者は、ゾンビによる襲撃を人為的なものであると思われたくなかった筈である。

故に、私達がフレズベルクを鹵獲している事とフレズベルクのパーツをダイニ區畫へ移送した事を知れば何者かは行を起こすのではないとか考えていた。

そして現に、移送した日に攻撃は起きた。

「あの時、フレズベルクの輸送についての報を知っていたのはウンジョウさんとクニシナさん、それと私とレベッカとムラカサさんしかいなかった」

「容疑者が多すぎるな？」

「あなたが喋り過ぎなければ」

あくまで疑念だけだった。部に通者がいる可能があるという事しか確証はなかった。しかし、ムラカサさんの言葉がその疑の方向を変えた。

「ダイサン區畫にフレズベルクとゾンビが現れた時、あの場にいたのは私とウンジョウさんとレベッカだけだった。なのに、あなたは私との會話で奇妙な事を言いました」

「奇妙な事？」

「ダイニ區畫の関東圏生態保存エリアで、あなたはダイサン區畫にスプリンクラーと呼ばれる破裂するタイプのゾンビが二現れたと言った」

その些細な言葉が、私の疑念を強めるのに十分だった。スプリンクラーと呼稱した、が破裂する事で周囲にを撒き散らすそのゾンビは「この世界」では観測されていないタイプだった。故にムラカサさんもそれを生存競爭による進化の形ではないかと稱した。

「だけど、あの時ダイサン區畫に進したゾンビは１だけなんです。もう１は侵前にウンジョウさんが撃ち殺してる。だからもう１がスプリンクラーであったか分からない。そもそも、あの場に２のゾンビが居た事をあの場にいた人間しか知らないんです」

その手がいて私は警戒したが、仮面を外すだけだった。その下にあるのは予定調和であったかのようにムラカサさんの顔で。

レベッカが何で、と憤りの籠った聲を荒げる。私はただ淡々と事実の確認に終始した。

「フレズベルクがダイイチ區畫で製造されたという偽の報もあなたが流した」

「その辺は私というよりも私達と言うべきかな。ドウカケ先生を口封じで殺したのも私。ロトを回収する必要があったからね」

「彼が一何だって言うんですか」

ドウカケ先生のところにいた「意志」がないという。何故彼が此処にいるのか分からなかったが、ムラカサさんが連れてきたようであった。

「それは、これを見れば分かる」

その言葉と共に。ロトが一歩前に踏み込んで。その剎那、彼を中心にの粒子が散って。それが突如炎へと変わる。その手の平で渦を巻いてその場に固定された焔を見て。私は辿り著いた言葉を絞り出す。

「魔法……！」

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