《クラウンクレイド》[零15-4・改修]
0Σ15-4
クニシナさんとの話を終えて私はゼイリ氏の所へ向かった。エヴェレットの鍵を改修すると言われて預けていたのだった。
彼から渡された杖は外見上は大きく変わっていなかったものの、以前までの未完品から完品になったと言う。
杖の持ち手の辺りにあったトリガーと機構が変化しており、杖としての外見はそのままにグリップとそれを握った時に手を守るハンドガードが備えられ、ワイヤーガンであるWIIGと同じ様な引き金が完させられている。グリップとハンドガード、そして引き金の追加によりそれらに手と指を掛けながら杖を持つ形となった。
「そいつはWIIGと同じ様にワイヤーによって移するAMADEUSの補助兵裝として作られてんだ」
機能として追加、というか完されたのはまさしくWIIGと同じワイヤーの出機能である。
そもそも変則のワイヤーガンとして杖は製造されていたらしく、そのウォード錠を思わせる杖先端の合い形はワイヤーの収納部と巻き取り様の機構が組み込まれていたらしい。
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ワイヤーガンの機能を併用出來る魔の杖、これにより両手でワイヤーガンを持つ事が可能になった。
更にゼイリ氏が試作していた、ワイヤーガンを他の銃に取りつける為の拡張パーツも完していた。ワイヤーガンを銃に取りつけることでそのどちらも保持したまま使用が出來る。従來の様に片手でワイヤーガン、もう片方の手で銃という形を取らずに済む。
ワイヤーガンを両手それぞれで使用出來れば空中でのきが応用が利き、より立的かつ複雑な事が出來る。杖か銃のどちらかが絶えず使用可能である以上隙も大きく減らせる筈だった。
「ムラカサはハウンドの裝備の試作品を幾つか持っている筈だ、実地テストの為と言って俺の所から幾つか持っていってる。杖が誰にも見向きされなかったのは幸運だったな」
魔の杖。この世界において魔法が存在する事を証明してみせた象徴。
「魔法はあったんだな、本當に」
ゼイリ氏は慨深いといった様子でため息混じりの言葉を吐く。
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「エヴェレットと名付けられたこいつの製造プロジェクトを任されたのは俺だった。この世界に魔法を生みだすなんて妄言と共に、な」
「ヒト機能拡張プロジェクトに関連していたのでしょうか」
私が加賀野さんからけ取ったエヴェレットの鍵も、そもそもこの計畫が絡んだ故に意図的に作られたオブジェクトデータだった筈だ。私の世界にあった杖が偶然、この世界にもあったわけではない。この世界において造られた杖が元になっている筈だった。
「そうだ、そんな名前だった。最も魔法が云々の部分はブラックボックスになっていてな、俺は詳しくは知らん。ワイヤーガンと杖自の設計をやっただけだ、魔法についちゃ何にも知らねぇあ」
ヒト機能拡張プロジェクト、そしてこのエヴェレットの鍵の製造計畫についてはパンデミック以前のものだ。當時からワイヤーガンによる市街地の空中移を想定していたということだろうか。
「別に大きな仕事な訳じゃない、何に使うのかも分からない下手すりゃガラクタだ。だがな俺の息子もこの杖に関わっている事を知った俺は俄然やる気になった」
「息子さん……ですか」
「息子は民間のヘルスケア用品の會社で生電気なんかを研究していた。杖のブラックボックスの部分、魔法なんてを発させる為のパーツに関わる事になってな。息子と同じ仕事をする、っていうのに、まぁ、そのなんだ……燃えたんだ。親としても技者としてもな。エヴェレットの鍵って名前を付けたのも息子だった。子供っぽい所があるやつでな、魔法というものを実現させることを本気で信じていた。鍵なんて名前も形も夢見がちなあいつなりの祈りみたいなもんだったんだろう」
その語りは何処か懐かしく溫かで、それなのに何処か寂しげで。その意味が解ってしまったからこそ、私はただ口を噤んで頷きを返す。
「だが、ある日プロジェクトは打ち切られた。計畫が頓挫したのか、それとも必要なくなったのか、理由も知らされず俺達の仕事は完間近のまま終わった。そしてその後にパンデミックの日が來た。息子もその時に死んだ」
誰もが。そう誰もが。その人なりの傷を抱えていて、それはまるで鍵の様で。その人の傷跡でしか、その人にしか理解できない代なのだろう、きっと。私は全てを喪って、全てが噓だったと言われて、世界中でたった一人になってしまったみたいなのに。それでも今、目の前の彼の優しい言葉の裏に同じ様な痛みをじる。
「後は知っての通りだ。世界は一度ぶっ壊れて、そして曲がりなりにも人間は世界を造り直して、綺麗に収まった」
曲がりなりにも、綺麗に。その言葉は底からこの社會を信じているものには、きっと吐けない言葉だろう。
世界は二回壊れた。既存の社會構造では増え続ける人類を救う手立てはなく、一度その構造をっこからひっくり返した。様々なものを犠牲にして新しく立てた「塔」、その地盤は不安定だったとは言い切れない。けれども偶然か必然か、その足元をすくわれた。人は天を目指していた筈が、天に進むしかなくなった。けれども、それもいつしか綺麗に収まって。
「足元さえ見なければ、端から見たなら、完璧な世界だ。自化されたシステムの中で、均整と調和のとれた生活が続く。食料問題もエネルギー問題も解決した世界。人口発と食料問題で戦爭を起こした2050年頃のやつらからすりゃ夢の様な社會だ」
「……地球も人類もダメになる、當時の人々はそう思って世界を造り直した」
「そうだ、比喩でも誇張でもねぇ。殺して殺して地球の人口を半分に減らすか、それとも殺して殺されて人口の半分に減るか、その二択を突きつけられてた」
その事実は、その崩落は。決して突然起こったわけではない。2020年頃にだって、そんな試算はとっくに出ている。
「だが、そこに俺の居場所はなかった」
「それはどういう」
「みんな平等、みんな公平、そうやって全員が同じ生活を出來る社會。そこにはな、生産ってものがないんだ。ただするだけでしかない。だからこれは抵抗だ。理屈じゃない」
渡された杖は重たく、私の手の中にあって。エヴェレットの鍵、その言葉どんな意味があったのか、どんな祈りを込めたのか。
「今、お前さんがこれを本當に魔の杖にしてくれるなら」
「それは……逃避です」
「そうだよ、そうだ。分かってんだ。でもそれを否定できないのが人間なんだ」
「……人間ですか」
私の返事にゼイリ氏は頭を振る。
「俺は機械屋だ。だからお前のに起きた事について完全に理解は出來ねぇ。だがよ、俺から見れば、お前が人間じゃないなんてのは信じらない冗談に聞こえる」
「人間では……あるんでしょう。人格が疑似的に構築されたものであるだけであって」
「なら人間の定義とは何だ。ゾンビと俺達の違いとは何だ。俺達とゾンビを區別する要素は前頭葉が機能しているかどうかでしかないんじゃねぇのか。ならそれが人間の定義じゃねぇのか。その點においてお前と俺に何の違いがある。人間の行なんて突き詰めて定義するなら脳質の分泌と電気信號じゃないのか。それが本であるかどうかなんて誰が見分ける」
「それは」
「誰が人間なんてものに正解を出せるって言うんだ」
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