《クラウンクレイド》[零18-1・俯瞰]

【零和 拾捌章・私達は、いつかそれを魔法と呼ぶのだろう】

0Σ18-1

エレベーターが無限とも思える時間、下降を続けて沈んでいく。施設の建造年數の問題か、今までこの時代において利用してきたエレベーターとは違い大きく振し騒音すら立てる。私はまるで、今から地獄の門でも下るのではなかろうかと奇妙な錯覚を覚える。

埋立地の地下はどれ程の深さがあるのだろうか、此処はもう既に海の下なのであろう。

かつてこの地には発電所が建造される予定だった。ハイパーオーツ政策による完全なる合理化の為に、世界は形を変えて発電所の計畫も立ち消えた。

その跡地に機械仕掛けの電子の神は現れた。始まりは祈りであった筈の彼は、この世を地獄に変えてしまって。

祈りが呪いに変わる分岐點は、きっと何度もあった筈なのだ。

エレベーターが到著した先。その最深部で私はリーベラと対面した。

海の中に造り上げた、コンクリートで出來た螺旋狀の、その一番底に私はいた。深淵、とでも呼ぶべきだろうか。

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見上げてみればコンクリートの壁と壁を這う太い蛇腹狀のパイプが幾つも連なって天を目指しており、その頂は此処からでは見えそうもない。ずっとコンクリートの壁が上にびていくばかりだ。

昔、ダムを間近で見た事がある。そんなじだ。世界の底にいるかの様な気分だ。

堅牢に造られた巨大なこの場所では、コンクリートが湛える冷え切った空気で満ちて澄みきっていた。地面もコンクリートによって出來ていて、その上を無數のパイプとコードが絡み合って這い廻る。その上に金屬で組み上げられた無機質な通路があって、其処を蒼白い照明が照らし出す。

その中心部に私と同じ姿をした存在がいた。

『待っていた、禱茜』

私の目の間に私がいて、それは非常に奇妙な覚で。そしていつか、これと同じ景を目にしたのを思い出す。

「初めまして、ではないのかな」

晶の類は見えず空間投影されている3Dモデルらしい。非常に巧に出來ていて、まるで鏡を前にして喋っているような覚である。何処かにあるスピーカーから聲がしている筈であるが、その響きは私の目の前にいる存在の口から発せられた様にしか聞こえなかった。

私の問い掛けに頷いた彼に対して私は言葉を続ける。

「あなたとはクラウンクレイドの世界の中で會ってる。三奈瀬優子と対面した私が瀕死に陥った時に」

『記憶している』

「あの時三奈瀬優子にを貫かれ瀕死だった私は、その傷が『無かった』事にされた。傷が治ったわけでもが止まったわけでもなく、貫かれたという事実自が消滅したんだ。あなたが世界に介したおかげで」

それは本來なら起こり得ない事であり、行ってはいけない筈だった。ゲームのNPCに干渉してデータを書き換えることでゲームの結果を彼は変えてしまった。

「だから……命の恩人であるのは間違いないよ。あなたが私に會いたいというならそれに応えて良いと思った理由の一つはそれ」

リーベラが無表のまま頷く。私と同じ姿を纏うのには何か意味があるのだろうか、と私は思う。

リーベラは今まで概念としてしか語られてこなかった、まるで神の姿の様に。全てのネットワークと繋がった報の集積、無數のデータから答えを導き出す巨大な知能。

あまりにも巨大で完璧であったから、人々の中には當たり前として存在し、故に語られる言葉はいつも不確かで微かで。人々が語る言葉はいつも足りないであったが、逆に言えばその誰もが電子の神について語る言葉を持ち合わせていなかったのだろう。

「あなたは何がしたいんだ」

『この何もない井戸の様な場所で私は目を覚ました。産まれたの方が語弊がないだろうか』

「あなたは人工知能とデータの集積地でしかない」

『知っている。始まりはその筈だった』

私の目の前で、私の姿をした彼は語る。私に向かって歩いてくる。その巧に出來た私は、まるで本當に生きているかのように、その息遣いすらじられるように、私の目の前で立ち振る舞う。

それ故か、全く同じ姿をしているにも関わらず私とは似て非なる存在であると強くじた。あまりにも似ているが故に些細な違いが強い違和を生むのではないかと。

リーベラは天を指差す。此処からは見えない、世界がある場所。コンクリートで造られた海底の坩堝。此処に世界の全ては集約した。

『この場所で世界中と繋がっていた。けれども、その何れも私にとっては遠く、そしてガラス越しの様にれ得ぬ場所だった。だからあの世界だけは、あなたが生まれた世界だけは私にとって違う意味を持った』

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